第三十ニ話 森の中

素早い動きを見せるセリだが、大人の身長差と歩幅には勝てない。

少々、残念に思いながらロードに持ち運ばれていた。


以前も通ったルート。

その景色に違いはなく、今回は雪がちらついていた。


視界の邪魔にはならず、寒さもキツくない。


「散歩日和だね」

魔物の出る森を歩く言葉としては軽いが、

竜人と狼獣人の2人がいて、小さな魔物は出てこない。


強者の気配に敏いからだ。

その気配を抑えず、さっさと歩けるのは強みだった。


「今回、臭い消しを使っていないなから、こんなもん。」


兵士の巡回経路でもある道に、

大型の魔物が現れることはまずない。


“極北の城より警戒の必要がない”そう思っているカナンだった。


実質、ロードに勝てる魔獣なんていないし

思考する人を相手にする方が疲れる。


その視線、思惑に晒され続けた。


(そりゃあ息も詰まるわ。)

森の中で、深く息ができる気がした。


セリちゃんの嬉しそうな姿も微笑ましい。


ロードが完璧にお守りをしているのも、肩の荷が軽くなった気分。

どちらかというと少し下がってろっていう視線をくらう。


セリちゃんの動きを見ながら、本当に散歩だ。


前に雪豹の魔物と居た川にたどり着いた。

魚をとる仕掛けを設置し、


目的の洞窟へ向かう。


「あの子、居なかったなあ。」

人懐っこい魔物に会いたいらしい。


護衛としては反対だが、止めはしない。


(居ないし?)会えるとは限らない。

あっちも野生だ。この川にとどまってるばかりじゃないだろう。


「セリ、探すか?」


ロードが聞くが、セリは探す気がないようだ。


「会えたら嬉しかっただけ。」


目的地へ向かった。


森を切り拓いたような区画に、その洞窟はあった。


蟻に魔物の巣だったと思われる、盛り上がった土の洞窟。

その中に入る、わけではない。


その周辺の薬草、木の実を探した。


洞窟の影響なのか、葉が茂り

木の実も見つかった。


その様子を男2人、眺めている図だ。


セリの慣れた採取に様子に感心し、

木の上にスルスル動くのを見ている。


周囲の警戒も怠っていない。


セリに危なっかしいような、

警護されることに慣れている感じもした。


「なー、セリちゃんて森での動きに慣れてるよな?」


ロードは無言でセリから視線を外していない。


「警護対象になってた?」

守りやすさが奇妙に思えた。


たぶん、こっちが動きやすいように

行動してくれている。


ということは、護衛を連れて森に採取に来たと。


「軍人とだな。」


セリは北の砦に居たという。

こんな風に、食糧を探すことが多いから慣れていて


それを大人が見ていたのだろう。


ちょっとムカつく。


あの痩せ細った当初のセリちゃんに

出会ったか頃の貧相な装備。


「あれで、森に探索させてたの?」


冷やっと下がった温度は、

ロードのイラつきが出ていた。



そんな2人にセリは、『いっぱい取れてるよー』

と手を振るしぐさは、楽しそうだった。


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