<番外> 危機は去らず
会議室、『極北の城』に着任中の全隊長が集められた。
かつてないことだ。
(キース様から横槍が入ったのか。)
ここの隊は東西南北の守りの兵士と、衛士がいてその上に騎士がつく。
貴族であり、腕に覚えのある実力者だ。
ここの最大決定権を持っているのは、議長のアンドレアスだが、席が用意されている王族の指示もあるのだろう。
あの子供を仮市民にした議長は、人間に肩入れし過ぎているのではないか?との懐疑を持つ者は多い。
「子供に甘いのか。」「見かけと違って年寄りだと聞いているが。」
と憚らない。
過去、魔物の氾濫で前線に行ったこともあるらしく、エルフらしく魔法職だ。
(獣人の兵士が従うほどなのだろうか。)
今回はイレギュラーが多い。
王族のひとりが来たのも、竜人が居るのもだ。
そもそも竜人がこの雪の地に来ることは、渋っていたからな。
「本当にくるとは」と飲みの時に話していた。そう思っている騎士が多いだろう。
以前に
火属性の魔法が得意な竜人が来て、季節が温かくなったらすぐ帰った話は有名だ。ほとんど城から出ていなかったが、魔力で城内が暖かかったらしい。
「種族的に寒さに弱いのか?」という話から、依頼を出しても断られるという形骸化した関係と聞いたこともある。
「魔力が強くても、この寒冷の地では発揮できないのかもな。」
それは獣人の兵士達も同じ条件だが。
まあ寒さに強いとは、毛並みと体力がものをいうがな。
その竜人の番が見つかったことと、相手が人間であったことで
城の内は不安に包まれている。
この城に初めて来る部下がやらかすのは、いつもの事だ。一番のやらかしは、貯蔵庫を爆破したバカの時か。
3隊を動かし、守りの配備の見直しがあった。
力が有り余っている上に、その力を発散して気分転換する場もない。
禁欲的で気が塞ぐ場所だからな。
それでもここは、『極北の城』というくらいで寒さの厳しい地点にある。その過酷な環境にある薬草の採取は、薬学に重要な発展をもたらすとか。
守るべき砦だ。
寒冷地で過酷な環境なため、騎士でも順々に任務につく事になっている。
(私は5年ぶりだが。この閉鎖的な環境は、妙な事がよく起こる。
それもまだ続くな。)
我々の招集の目的は、議長の訓戒か。
隣の方は王族としての権限は使わんらしい。
この方は何しにきたのか?
魔法使いとして名の知れているが、どれほどだろう?
守られねば戦えん者が威張り腐るのはいただけない。
是非、その力を見せて欲しいものだな?
そういえば、薬学に精通しているんだったか。ここでの研究は特殊なポーションが作られていると聞いたな。
支給分の通常ポーションがあれば丈夫な獣人兵士には、縁がないだろう。
「周知させるように。」
ここの住民と城を守るのが我々の任務だ。
しかし、あの人間の子を優遇しろという命令は、騎士として疑問だ。
(本当に、イレギュラーだ。)
そう思いながら顔には出さず、退室した。
「“贅肉”は、媚びるのを欠かさないな。」
動きの悪い隊長のひとりを揶揄し、相変わらずの行動に肩をすくめる男。
「まあ。それで隊長になったようなもんだし?」
「訓練の計画変更だな。」「キツくなるのかあ」
隊長達は部下の失態に、こたえた様子はない。
それぞれが担当の配置に戻っていく。
彼らは、確かな異常事態があると気づいていながら。それを止めない事も危機だと気づかない。
そしてその時が来たら、彼らの守りたいものは、守れているのだろうか?
まるで薄氷の上に乗ったような状態に気づく者は、少ない。
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