<番外> 実は危機だった

「やばかったー。」

ロードとセリを部屋に帰してた後、グスタフの研究室に集まる面々。


カナンがつめていた息を吐いた。ついでに愚痴も吐く。


「何?あいつら氷漬けになりたいの?巻き込むんじゃないよ!ったく」

不貞るのもわかる。

つい先程、冷や汗ものの事態になり、魔力の波動、凍るのも覚悟した。

少々、行儀が悪いのも勘弁してくれ。


「お疲れ様。」

勝手知ったるスムーズさでお茶を淹れたシュルトが労った。


事の重大さがわかっていない奴が多い。

セリに、番に攻撃したのだ。

ここ一帯に被害が出なかったのは、運が良かったのか?


「セリのおかげだろう。」

グスタフの言う通り。そうでしかない。


パターンとしては、セリが喜んでいたお気に入りの服を汚す。

“全員氷漬け”な未来の筈だった。

現に、その場に居たカナンは、瞬時に上がった魔力で寒かった。


「凍ったと思ったね!」まだ寒気が残っている。

遠慮なく出されたお茶を飲んだ。


ジンジャー入りで蜂蜜が奮発して入れてある。

(あ、うま〜い)と少し気分を上げた。


じゃなきゃぁやってられない。


「あっぶねよな〜、あれ止めるのオレ?」


ご愁傷様と言いそうな目を2人にされた。

「割りに合わねえぇ。」


ロードの魔力に対抗できるのはこの城に2人。

腕力担当のカナンだが、氷が降ってきては逃げるしかない。


今回はそうならなかっただけ。


「よく暴走しなかったな?」グスタフの疑問。


「あー多分セリちゃんの反応だわ。『ああ、そう』みたいな興味ない感じ。ああじゃなかったら…」


「被害甚大?」シュルトの言葉に、コクコクと頷いた。


「オレだけじゃ止められないんですケドー。」


「セリの反応も気になるけど、

まずはちょっかいかける輩を抑えるのが先ネ。リストは?」


「出ます。」


カナンの真面目な返事。顔や配属、資料を見れば一発で、上からの影響も見出せるだろう。



「この染料、落ちないものネ。」

使われたのは、見知った植物だ。


「この辺にあったと報告されている。」

グスタフの知っている目撃情報と、演習に出た隊と照らし合わせる。


「拾ってきたのかー、演習中に?」

「暇なのカシラ?」


染め粉として人気で『極北の城』に篭る住人は、手芸や民芸品を作る

ため、人気で買い取りもしている。禁止のものじゃないけど


“2度はない”

次にはここが、氷の城になる。



「ホント、弛んでるね?」


キースが会議の後にここに寄ったようだ。

確実な危機だったが上層部でも、この問題を軽視している。


番の血が出たら、相手の意識を飛ばすような竜人相手にまあ。


「セリの服が染まっていて、悲しんだら?」

「殺気で失神。」


キースの問いに、カナンが当然といった様子で答えた。どう考えても逃げられない


“同じ檻にいて、巻き添えなど勘弁”


セリがあの落ち着きだから、まだ危機はないけど。

泣くわけではなく、驚いていたし

服を青色に染めたくはないようだった。


「ちょっと文句言えば、ロードならヤるわヨ?」

「セリが望んでなさそうだから、だな。」


初めてプレゼントは喜んでいた。しかし、

セリの反応は、無関心に近い。

そう扱われるのに慣れているのか?感情が出せないのかもしれない。


「楽しそうだったものネエ。」

孤児院にいて、新品のものはお目に人里から離れた奥深い孤児院なら尚の事と知っているシュルトも憂いにため息を吐く。



「セリちゃんに助けられてるんだねえ。」

カナンがしみじみ言った。

危機はロードがもたらすが、それを無意識にでも止めたのはセリだ。


「ふぅ。対策会議と行こうか?」


キースが指揮するこのメンバーで、ロードの暴走に対応するのは決定していた。

そのための採取依頼でもあったりするのだから。


「まあ欲しいのはそうなんだけどね?」


キースの前で、油断などできない訳だ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る