第33話 弟
01
「別について来なくても良かったのに……」
「桜くんの話を聞いたら私も行かなきゃいけない気がして」
文化祭が無事開催されたことで振替休日を得た俺は外出申請をし、実家に帰ろうとした。しかし、冬雪は俺がボディーガード兼メイドの休暇を出したのにも関わらず、こっちの話を聞いた途端に俺に着いていくことを決めた。理由は分からないが……一人で行くことを考えると少し心強い。
「お金持ちの家と比べると普通の家だよ、何の個性もない」
「もう、皮肉らないでください! 私そこまで金持ち思想に染まってませんから!」
顔を少し赤くしながら俺の肩を叩く冬雪がとても可愛らしくて仕方がなかった。
その後俺は冬雪と共にバスに乗り、電車に乗り継いで約一時間以上隣で過ごしていた。彼氏彼女の関係になった以上はデートに連れていくべきなんだろうけど、冬雪は特に何も言わずに俺に黙ってついてきてくれる。どうしてだろう。
「なぁ、何で俺について来てくれたんだ」
電車に乗っているとき、ふと何気なく隣に座っていた冬雪に聞いてみた。するとごく当たり前のように俺の顔を真っ赤にしてくれた。
「だって……一緒にいないと不安だから」
十年もの間、冬雪は遠くに引越ししてしまった俺をずっと想い続けてくれた。寂しかったはずなのに気持ちを抑えて普段通り接してくれた冬雪に俺はちゃんと答えなきゃいけない。
「き、今日だけはその……体くっついてもいいからな」
これが答えになるかはわからないが、冬雪と一緒にいたいのは俺も同じだ。手を繋ぐのはまだまだ時間がかかるからこれで許してほしい。冬雪は黙って頷いたあと、そっと頭を俺の体に寄せた。一本一本手入れがされた冬雪の三つ編みから甘いシャンプーの匂いが鼻に漂って俺は幸せを噛み締める。このまま時間が止まればいいのにと思いたいが、まだ俺にはやる事がある。気を引き締めないといけないがやっぱこの瞬間だけ見逃してほしい。
02
電車に揺られて三十分、ようやく目的地の液に辿り着いた俺は寝ちゃった冬雪を起こして電車から出た。
相変わらずこの街は特にこれといった物はないなぁ……それはそれで良いんだけど。四月に編入をしてから、ずっと女だらけの学園にいたせいで地元でケンカばっかしていたことを忘れてた。
先に改札から出た俺は駅前にたむろっている学ランを着た不良共の顔が見えていることに気づいた。数秒後にまたモザイクはかかったが、以前にどこが会ったような連中だった。まずいな、今は冬雪がいるから余計なトラブルには巻き込まれたくはない。遠回りになるが別の道から行くしか方法はない。
「あれ……アンタ」
冬雪の手を取り、別の道へ行こうとすると聞きなれた声が聞こえてきた。まさかと思い、振り返ってみるとそこにいたのは……
「……何で兄ちゃん女装してるんだよ」
久しぶりに会った弟はヤクザの鉄砲玉にいそうな目付きが非常に悪い人間になっていた。
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