第26話 西ノ宮詩織編2

 01







 放課後、俺と冬雪は執事専用の部屋に住んでいるアキの元にやって来た。二人は俺たちが来ることがわかっていたのか、こちらが詩織たちのことを聞く前に先に説明をしてくれた。




「詩織の部下たちは全員軍隊に所属していた経験があるヤツらだ。俺らみたいなヤンキー崩れ相手じゃ勝ち目がない」





 地元じゃ負け知らずのアキが弱音を吐くなんて意外だった。





「……冬雪に対する優遇を無くすってことがどういうことかわかってる? 柊木」







「ああ、優遇が無くなれば冬雪は普通の生徒と同じ扱いになる。そうすれば他の生徒からの嫉妬は無くなるはずだ」







 冬雪ではなく、他の適正がある人間が文化祭実行委員長をやるべきだ。冬雪が才能がないということではなく、一人一人の適材適所に合わせるべきだと俺は考える。莉奈は俺の返答を聞き、考え事を始めた。数分が経ち、答えが出たのか莉奈は半ば呆れた顔をしていた。





「はぁ、わかった。私たちも冬雪たちに協力するわ。べ、別にあの時のお礼と言う訳じゃないから勘違いしないでよ」







 顔を赤くしながら強く否定する莉奈に疑問を覚えたのか、冬雪は不思議そうな顔をしながら俺を見ていた。……睨んでいるのは気の所為だ、うん。







「ありがとう、二人共。俺たちの為に」









「一人じゃ勝てないかもしれないけど、協力すればきっと勝てるはずだアイツらにも」







 協力体制ができたことをきっかけに俺は理事長室で撮ったボイスレコーダーを三人に聞かせる。俺と冬雪の目的は当主になり、姉妹同士で争う継承戦を無くすこと。このボイスレコーダーをどのタイミングで流すのかを決めることにした。







「それなら理事長挨拶の時にやった方がいいんじゃない」







 文化祭が始まる一か月前に理事長が生徒の前に出て、文化祭に向けた挨拶を体育館で行うらしい。そこで撮った温泉を流せばいいのだが……





「放送部に知り合いはいるのか?」







「あっ……」





 自慢げに話をしていた莉奈は知り合いの話を出ると黙った。そうだった、莉奈は俺たち以外に友人はいなかった。無神経なことを言った自分が情けなくなってきた。







「そんな時に俺がいるんだろ、桜」







「……そうか、アキは俺たちと違って外部の人間だから簡単に忍び込むことができる!」





 俺や莉奈、冬雪の場合は放送部の人間と知り合いにならないといけないがアキは外部の人間だ。適当な理由をつけて放送部員を離れさせたらアキを放送室に入れるだけでいい。

 今後の作戦を決め、俺たちはアキの部屋から出ることにした。











 02





 夜、俺は冬雪との食事を終えて自分の部屋に戻っていた。自分の部屋の中ではメイドやボディーガードではなく、「柊木桜」として休みを満喫することができる。俺はリビングで録画した映画を見て、体を休めていた。

 映画が佳境に入り、心が温まってきたところで停電が起きた。普段なら停電に怒るところだが詩織の件もある、俺は制服に着替えて冬雪の部屋に向かった。マスターキーを使って、冬雪の部屋に入ると先客がいた。







「……冬雪!?」







「柊木く、ん……逃げて」





 暗くて顔がわからなかったが、冬雪が何者かに首を絞められていた。俺は我を忘れて暗闇の中にいる人間に体当たりをする。





「おっと、危ないねぇ。怪我をしたらどうするの」





 俺は声を出した女以外の人間に手足を掴まれ、身動きが取れなくなった。……くそ、暗くて見えない!





「 お前ら一体何なんだよ!」






「詩織お嬢様のメイドと言った方がわかるかしら。お嬢様にとって姉の冬雪さんは邪魔な存在、継承戦が終わるまで別のところに居てもらうだけよ」





「くそっ……」





 俺を抑えつけているのは男か女かはわからないが、並大抵の力じゃないことはわかる。何度体勢を整えようとしても、動けない。まるであの時と同じだ……俺はまた救えないのか。大事な人を。

 冬雪の俺を呼ぶ声がどんどん遠ざかり、俺は床に頭をぶつけられて気を失った。

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