第23話 誕生日

 01





 夏休みも後半、俺は莉奈とアキと共に大型ショッピングモールへと足を運んでいた。何故、この三人で来たかと言うと今週の土曜日に冬雪の十七歳の誕生日があるからだ。

 俺たち三人は冬雪が本邸へ呼ばれている間に誕生日プレゼントを先に買っておくことを決めた。



「……俺が来る必要あったか?」





 アキは女の子が沢山いる可愛らしいショップを前にして怖気ついていた。普段なら女の子がいっぱいいて喜んでいるはずなのに。



「大丈夫だって、男が入っても大丈夫だよ」





「ええ、アンタは顔だけは良い方なんだから自信持ちなさいって」



 俺と莉奈は二人でアキを元気づけようと勢いよく背中を叩いたが、どうやらアキは全くの無反応だった。



「桜や莉奈は冬雪ちゃんと関わりあるけど俺は全くないんだぞ? 関わりない人物からプレゼントもらって嬉しいか」



 確かにアキの言い分も一理ある。関わりのない人物からプレゼントをもらったところで、どう反応をしたらいいかわからない。アキはそれを怖がっている、どうも様子がおかしいと思っていたけど理由はそれだったのか。

 俺はアキに店の前に待ってもらおうとしたが、莉奈はアイツが言った言葉を否定した。





「……あの子は誰かに嫌な顔をする人間じゃない。冬雪の傍にずっといる柊木ならわかるでしょう」



 莉奈の優しさに満ち溢れた顔に俺はつい見惚れてしまった。最初に出会ったときは表情が暗く、氷の女王のあだ名が似合っていたが今は違う。少しずつ少しずつ莉奈は冬雪との距離を戻してきているんだと思い、安堵した。やっぱり姉妹は笑った顔も似るんだな。



「冬雪に何度助けられたかわからないぐらい俺はアイツを信用してる」





「そうか……桜が言うなら俺もプレゼント選びに力を入れるよ」





 俺たちが最初に入ったのは可愛らしい雑貨を取り扱っている有名なショップだった。最近流行りのぴえんのぬいぐるみから、生意気な表情が売りのやさぐれブタ文具シリーズなど目が惹く物ばかりが沢山あった。

 冬雪は恋愛系の映画が好きで俺と趣味は合う。ファンシー系な可愛さではなく、直球の可愛さを選ぶべきか? そう考えに至ったとき俺の目の前には両手が抱えられるようなクマのぬいぐるみがあった。





 男一人で持っていける大きさではあるが……前にも同じ物をプレゼントしたような気はする。最近、冬雪と出会ってから妙な既視感を感じる。俺は冬雪の誕生日を迎えるのは初めてだ、なのに幼いころにクマのぬいぐるみを渡した俺が頭の中に思い浮かぶのは何でだ……?

 頭痛を抑えながら、俺はクマのぬいぐるみを買うのを辞めた。











 02





 誕生日当日。俺は冬雪の帰りが遅くなるように四ノ宮さんに連絡をし、莉奈とアキで冬雪の部屋に飾り付けを行った。約束の時間になり、玄関の扉が開く音が聞こえた。



「「「ハッピーバースデー! 冬雪!」」」



 冬雪に目掛けて一斉にクラッカーを鳴らす。





「え、え、え? 柊木くんにお姉ちゃん、錦戸くんが何で私の部屋に??」





「冬雪の誕生日を祝うためにずっと準備してきたんだよ」





「柊木から最初に冬雪の誕生日会を開こうって言ってきたのよ。コイツったら凄く張り切っちゃってさ」





「ば、バカからかうな!」





 莉奈やアキは大笑いしながら、俺をからかう。この二人だって誕生日プレゼントを選ぶのに真剣だったくせに。





「嬉しいです……凄く。ありがとう」





 感極まってしまったのか、冬雪は目元から大粒の涙をボロボロと零す。



「私、今までずっと一人ぼっちだったから……お姉ちゃんや錦戸くん、柊木くんが誕生日を祝ってくれると思ってなかったんです。だから凄く幸せです」



 継承戦のせいで冬雪や莉奈は姉妹としての当たり前の絆を結ぶことは出来なかった。幼いころに冬雪は何故か当主候補一位になってしまったせいでずっと寂しい思いをしてきた。俺はどうしようも無い気持ちになりながらも、手に持っていた写真入れを取り出した。





「俺が言うのもあれだけどさ……俺や莉奈、アキと一緒にこれから思い出を作らないか。まだまだ俺たちは若いんだ、一生忘れない思い出をこの写真入れに入れよう」





 そしていつか楽しかったと笑いながら、思い出を捲っていく。俺は冬雪にその経験をして欲しくて、写真入れを購入した。俺は……冬雪と一緒にこれから思い出を作りたくなってしまった、冬雪には沢山助けてもらった。

 俺ができる唯一の恩返しは冬雪の寂しい思い出を消し去ること。悲しい顔は冬雪には似合わない。





「……ありがとう、桜くん」





 冬雪は写真入れを大事に抱えながら、俺に微笑んだ。心から俺に喜びの言葉をくれたのは冬雪が初めてだ。絶対に悲しい顔はさせないと決めて今まで動いてきたのは無駄じゃなかった。それがわかったと同時に冬雪の顔を見ると、胸が苦しくなった。

 いつか壊れてしまいそうか脆さを持つ冬雪に俺は何度も救われた。この脆さを壊そうとする人間は誰であろうと許してはおけない。……ああ、俺はいつの間にか冬雪の虜になっていたのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る