第12話 西ノ宮莉奈編③
01
水族館内にあるレストランで一緒に食事をし、日が暮れる前に学園に帰ることにした。寮に住んでいる学生には門限が存在しており、夜の七時前には帰って来てないといけない。「女」として今日一日莉奈と共にデートを満喫したが案外楽しかった。でも今度は俺抜きで冬雪と莉奈で二人で遊びに行ってほしいと思うけど……姉妹の傷は深いみたいだからどうにかして仲を戻したい。だけど継承戦がある以上は無理な気がしてくる。
デートをしている際、莉奈は自分には本当の友達がいないと言っていた。周りには西ノ宮のブランドにしか興味無い人間がくっついており、居心地が悪いと。
それは本人にとっては気分が悪いだろう。どうして俺に話をしたかわからないが、彼女なりに悩んでいることがわかった。「自分」を見てくれないのが嫌な莉奈と、「人」を信じられない冬雪。何かしらの共通点があることに気づいた俺は彼女に聞いてみることにした、どうして当主になりたいのかを。
「私が当主になりたい理由ねぇ……それを知って貴方はどうしたいの」
「俺、いや私は……やっぱり姉妹は仲良くするべきだと思うんです。肉親同士で争うなんてどうかしてます」
「やっぱり、冬雪にはお似合いのメイドさんね。あの子と同じこと言ってる」
街灯に照らされているせいか、それとも夜と夕方の境目にいるからか、莉奈の笑みが不気味に見えてしまった。
「……どうして?」
「私たちは幼い頃から身内同士で当主争いをするべきだと教育されてるから無理よ。"例え妹がなにか悩んでいる"ことに気づいても、代わってあげることは許されない」
莉奈は電車の外に学園が見えると、年相応の少女の顔から最初に出会った氷の女王に表情を変えてしまった。俺にはどうすることも出来ないのだろうか。
三年生側の寮に戻る莉奈を見送ったあと、俺は寮に戻ろうと来た道を歩いていると冬雪の姿が目に入った。声をかけようとすると、隣に東雲がいることに気がつく。冬雪を監視する役目といっても、まだ俺は彼女のことはあまり理解していない。俺がされたように冬雪に危害を加える可能性も捨てきれないから、駆け足で二人がいる場所まで向かった。
「秋桜くん?!」
俺が来たことに動揺したのか、秋月と俺の男性としての名前である桜を混ぜた新しい名前で呼んできた。
「前よりかはボディーガードとしての仕事を全うしているみたいだね、安心したよ」
「お前は信用出来ないからな、そこまでバカじゃない」
相変わらず東雲のキャラが掴めない。
「大丈夫か、なにもされていないか?」
俺は不安になり、冬雪の手をベタベタと触る。うん、大丈夫だ。傷とか一切ない。流石に冬雪に手を出すことはしないか……監視役という役職にいるわけだから。
「そ、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。東雲さんとはその、継承戦について話をしてたので」
「……継承戦?」
「冬雪ちゃんにお姉ちゃんが近々勝負を仕掛けに来るってことを教えていたんだよ」
妹を心配している素振りを見せていた莉奈が勝負を仕掛けにやってくる。東雲は楽しそうに笑っていたが、冬雪は表情が暗かった。俺は莉奈の本当の顔を知ってしまったけど、冬雪は俺よりも前から知っているんだ。誰よりも姉と戦いたくないのは冬雪自身だ。
継承戦を拒否すれば西ノ宮としての立ち位置が悪くなり、子どもとして扱われなくなると東雲は言っていた。だから戦いは避けられない、いくら人を信じられない冬雪でもこれ以上立場を悪くしたら家にいられなくなる。……冬雪が辛い顔をしていると、心が痛む。俺は昔のように好きな子を泣かせたくない。
俺は顔にモザイクがかかっている他人と関わるのが正直に言うと怖い、だけど冬雪はそんな俺を嫌がらずに受け入れてくれた。そのお礼を今、返すしかない。
02
早朝、玄関付近から音がしたことに気づいた俺は恐る恐るドアを開ける。
「これは……」
床に落ちていたのは今の時代に削ぐわない果たし状だった。差出人は錦戸アキと西ノ宮莉奈。……これは継承戦の案内だと気づく。果たし状には勝負の日時が書かれていた。継承戦は学園長が公認しており、警察が介入してこないように継承戦当日の夜は警備システムを落としているらしい。要するに私立朱智学園は日本の国家権力が通用しない法がない国家だということを改めて思い知らされる。跡継ぎ争いという名の決闘を学園が容認するなんて、西ノ宮の権力は強すぎる。
だらしなく足を伸ばしていた髪を結び、俺はメイド服に着替えると冬雪から連絡があった。やっぱり俺と同じ内容の果たし状が冬雪にも来ていたようだ。一夜経ったことで、彼女は戦うことを決めたのか声色が強く聞こえた。だが俺には無理をしているようにも見える。
「これから作戦会議をするけど冬雪の部屋に行っていいか?」
『い、今は無理です! ……柊木くんのお部屋でお願いします』
毎日冬雪の部屋に行っているのに、何故か今日に限って語気を荒げるほど否定されるとは思わなかった。やっぱり色々と悩んだのかな、冬雪も。俺を受け入れてくれた冬雪のためにも、俺はアキに必ず勝たないと。
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