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車は田舎道を進む。辺りにスーパーやコンビニなどはなく、古めかしい家々の灯りだけがぽつぽつと暗闇に浮かんでいる。
街から二時間ほどかけてここまでやってきた理由が海斗にはよくわからなかった。もしこれが単なる姉の気まぐれで、全てが質の悪い冗談なら今すぐにでもきた道を引き返してほしいと願った。しかし隣でハンドルを握る姉の表情は真剣そのもので、海斗に有無を言わせぬ雰囲気を漂わせていた。
車内は先ほどまでとは打って変わり、がらんとした静けさに満ちていた。姉は角を曲がるたびに丁寧にウインカーを点滅させるので、海斗にはそのカッチカッチと響く音が、静かな車内では妙に浮いているように感じられた。
姉の告白は、にわかに信じられるものではなかった。まず離婚話は予想通りだった。以前からそんな雰囲気があり、母親も「そのうちだね……」と、沈んだ声をよく海斗に聞かせていたからである。だが次の不倫話は全くの予想外だった。姉がそんなことをしでかすタイプの女性だとは思っていなかったし、実際そんな話を耳にしたこともなかった。
主婦という言葉が全く似合わないほど活発で溌剌としている姉は、どちらかと言うと男に近いような女性だった。おそらく、姉の夫もそのエネルギッシュな姿に惹かれたのだろうが、それが原因で夫婦関係がこじれたのは皮肉としか言いようがない。姉は、世間の常識をよくわきまえてはいたが、だからと言ってすんなりと型にはまるタイプの女性ではなかったのである。
海斗は無意識のうちにガラス越しに夜空を眺めていた。街からだいぶ離れた田舎の地域だからか、星の光がいつもより冴え冴えとしているように思えた。
「信じられる?」
と、沈黙を続けていた姉が突然口を開いた。「私の言ったこと、信じられる?」
海斗は、無言のままゆっくりとリアウィンドウを下ろした。するとここぞとばかりに初秋の冷たい空気が車内に流れ込み、たちまちのうちに全身に鳥肌が拡がった。
「……離婚の話は信じられるけどね、前からそんな気配があったから。でも、もうひとつのほうの……」
「不倫?」
「それ」
「信じられない?」
「信じられない」
「ふーん、そっか」
それっきり、姉はまた黙々と運転をする作業に戻った。
そうして車内に再び沈黙が訪れた。しかしそんなこととは関係なく、姉の車はひとけの少ない田舎道をずんずん進んでゆく。
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