第14話 仲良くおでかけ、ヒーロー映画を見に行こう!



 『高校生ヒーロー』と聞けば、世間はどういうリアクションを取るかな。


 高校生という、大人でも子供でもない中途半端な年ごろの人間に、人の命に関わるヒーローの仕事をさせるのは、様々な面で問題がある。

 一般的な常識や善悪の概念、倫理観を持ってる人なら、当然こう考えるだろう。

 だから俺と悠希は、正体を隠してヒーローをやっているし、ガーディアンズに入るときに、それ相応の覚悟を求められた。人の命が亡くなるのをこの眼で見ることも、自分が誰かを殺めることになることも、俺自身が死ぬことも、全部受け入れた。


 まぁ、そんなシリアスな話は置いておいて……。

 今回、俺が何が言いたいかというと、例え俺がヒーローといっても、根っこの部分には高校生としての楽しみや生活があるわけでして……。




 ***




 四神会議が行われた次の日。つまり、日曜日。

 俺は高宮町の駅前に着ていた。周辺にはショッピングモールやレストラン、映画館、カラオケ店などの様々な飲食店や小売店、アミューズメント施設がある。そのため、人の行き来はけっこう多い。俺みたいに、駅の改札口や出入口周辺を待ち合わせ場所に使って待っている人もたくさんいる。休日となれば、なおさらだ。

けど、昨日の品川と比べれば、全然、人の数は少なく、こっちは気疲れするほどじゃない。


「優人ぉーー!」


 駅の出入口にあるモニュメントのそばで待つこと、15分。ようやく本日の待ち合わせ相手の沙織がやってきた。

 沙織は季節に合わせて風通しの良さそうな服装をしている。ショートパンツにタンクトップと、そのままだと肌の露出が多いファッションだけど、上着のおかげで脚以外の露出は少ない。他に身につけている帽子やカバンと合わせて、自身の髪の青色が栄える色合いだ。


「ごめーん、待った?」

「あぁ、かなりな」

「むっ……もう、そこは嘘でも『今来たところ』って言うところでしょ」


 別に待ち合わせで待ったかどうか、互いに気にする関係でもないだろうに……。


「冗談だよ……その帽子、似合ってるな」

「えっあ、うん、ありがと!」

「前まで見たことないように見えるけど、最近買ったのか?」

「えへへぇ。そうだよ。この前、千春達と出かけたときに買ったんだよねぇ」


 可愛らしく顔をほころばせて、沙織は帽子を手で押させる。


「それじゃあ、さっそく行こっか」

「そうだな」


 こうして、俺と沙織は肩を並べて歩き出した。



 ここまでだけ見ると、いかにもデートって感じだけど、俺たち二人にその意識はない。

 今日、俺と沙織が待ち合わせた理由、それは昨日公開されたヒーローもののアクション映画を見るためだ。

 前に少し話したけど、沙織は特撮やアメコミが大好きだ。土日の朝方にある番組やアクション映画など、彼女がカッコいいと思う作品は欠かさず見ている。

 けど、周りにはそれ系統の話を共有できる友達が少ないため、新作の映画が公開された時なんかは、綾辻さんや秋月、妹の美佳、そして俺に声を掛けて一緒に見に行くこともけっこう多い。

 今回は、前者の三人は、それぞれ都合が悪かったらしく、俺に話が回ってきた。


 まぁ、俺もヒーロー物の映画やドラマは好き“だった”し、本来なら昨日、葉山と見に行く予定だったから、声を掛けられて悪い気はしない。


 “だった”というのは……それらが好きだった時期はもう過ぎ去ってしまったという意味で、自分がリアルでヒーロー活動をやっている今となっては、フィクションのヒーローへの熱がすっかり冷めてしまった。

 言うなれば、理想と現実の違いを知ったという感じだ。現実を知っていると、どうしてもフィクションのヒーローの非現実的な部分に目が行ってしまい、なかなか楽しめない。

 分かりやすいものでいうと戦隊ものの名乗りなんかがそうだな。まぁでも、あれは子供向けの見せ場と考えれば、まだ割りきれるけど、アクション映画の過剰な爆発とか戦闘シーンでの市民の逃げ方なんかは、特に目につく。

 ヒーローと敵が戦ってる周りで、いつまでもキャーキャー言いながら逃げるエキストラを見てると、リアルで戦ったことがある者から見たら、『なんで障害物もないのに敵のそばを横切って逃げてくンだよ!』とか『警察の出動、早過ぎじゃない?』とか思ってしまう……。


 ……職業病ってヤツだな。



 やがて映画館に着いて、早速チケットを購入した俺達は、開始時間までの暇を潰すためグッズ売り場へと足を運んだ。この駅前にある大手映画会社が運営する映画館は、小さい頃から利用しているので、劇場の場所とかチケットの購入場所とか全部頭に入っている。もうすっかり慣れたものだ。


「パンフレットぉ、パンフレットぉ……あっ、あったあった!」

「どうせ見終わるまで読まないんだから、帰りに買えば良いのに……」

「売り切れてたらイヤじゃん?」

「公開二日目に売り切れることはないと思うけど……」

「あっ、この下敷きカッコいい! 優人、買って!」

「あなた下敷きなんて使わないでしょ、我慢しなさい」

「使うよぉ……てか、ふふっ。それってお母さんのマネ? 微妙に似てないよ」

「似せる気なんてないからな……」


 そんな風にグッズを見ながらしゃべっていると、あっという間に時間は過ぎていった。

 こういう場所にあるものは、欲しいかと言われるとイマイチなものが多いけど、見ていて楽しい。


「……ぃでよ!」

「ん、どうした?」

「えッあっ、ううん何でもないよぉ!」

「……そう?」

「うん!」


 途中、明らかに何かあった様子で沙織が取り乱していたけど、あえて俺は気づかないふりをした。

 沙織はその後も虚空にチラチラと目をやりながら何か呟いている。

 俺は陳列したグッズを見るふりをしながら、その小声に耳をすませた。


「ちょっとミー、珍しいからってあんまりお店のものイジらないでってば」

《別に壊すわけでもないんだし、少しくらい見ても良いじゃん。それより、この鎖に繋がれた鉄の塊は何なんだい? なにかの絵が描かれてるけど?》

「だからって、グッズが不自然に揺れてたら変でしょ! 優人もいるんだし、ミーの姿は皆には見えないんだから! あとそれはキーホルダー!」

《むぅ……分かったよ》


 あぁ、ニャピーのミー君とやらもついて来てたのか。姿が見えないから、ついつい存在を忘れてしまう。

 こういう時は、知らないふりをするのが吉だ。



 やがて映画の上映時間が近づき、俺と沙織はグッズ売り場を後にして、フード売り場へと向かった。


「ポップコーンとドリンクはいつもので良い?」

「うん」


 俺と沙織が映画を見るときのフードメニューは決まっている。沙織がキャラメルポップコーンとグレープソーダ、俺が塩ポップコーンとメロンソーダだ。


《沙織ぃ、ボクにもそれ頂戴!》

「はいはい、あとであげるから」

「ん?」

「ううーん、何でもなーい!」


 映画のお供を手にして劇場に入った俺達は、その後、ひとしきり映画を堪能した。

 CGを駆使した豪快なアクションと熱いストーリーに、沙織は目を輝かせながら見いっていたけど、やっぱり、俺はどこか一歩下がったような目線で見てしまった。


 そして途中、俺の手元にあった塩ポップコーンのひとつが浮遊して空中で消えてしまったのを目にしたけど、見なかったことにした。

 『おーい沙織、お前のペットが盗み食いしてるんだけど?』とは言えないしなぁ……。




 ***




「ねぇ優人、見てコレ、可愛くない?」

「うん、良いんじゃない?」


 そんなこんなで、俺と沙織は映画を見終えて映画館を後にした。映画の感想としては、『あのアクション、カッコ良かったなぁ……今度やってみよう』って感じだ。

 今は、近くのショッピングモールで服を見ている。


「あ、こっちの服も良いなぁ」

「またそんな青色のものを」

「良いじゃん好きなんだもん」


 まぁ、青色ばかりといっても藍色もあれば水色もあるし、黒や白、灰色も混ぜているので決してダサいわけじゃないけど、綾辻さんといい秋月といい、よく同じ系統の色だけで服装を考えられるものだ。


「試着してみよっかなぁ……どう思う?」


 持っていた服を自分の体の前に重ね、沙織は俺の方を向いて首を傾げた。


「うん、良いんじゃない。似合うと思うよ」


 沙織は顔が可愛いから、なに着ても似合うと思うけどなぁ。

 絶対、口にはしないけどな。


「そう? じゃあ行ってくる!」

「あぁ」


 沙織は嬉しそうに顔を緩め、ウキウキとした様子で更衣室へ向かっていった。

 了承したのは良いものの、女性用の洋服売り場で男一人でいるのは、なんとも居心地が悪い。俺はそっと店の区画から出て待つことにした。





 数分くらい、店の外でショッピングモールの賑やかな風景を眺めた後、俺は店の中へ戻った。


「……あれ?」


 しかし、沙織がいると思っていた店の試着室は、いずれもカーテンが開いていて中には誰もいなかった。


「すれ違ったかな?」


 俺は首を傾げて、店の中を探したけど、沙織の姿はどこにもなかった。


「どこ行ったんだ?」


 これまでも何度か沙織と買い物をしていて、こんなことはあったけど、いつもは試着室の前や店の中で待っているため、今みたいに、どこにもいないというのは初めてだ。

 いつもとは違う出来事に、俺は違和感を覚えながら、店を出た。

 しかしここでふと、周りの雑踏や人々の話し声、ショップ店員の呼びかけの声に混じって、遠くの方から悲鳴が聴こえてきた。


「……なんだ?」


 ただ事ではないその声に、俺は悲鳴の聴こえる方へ足を進めた。すると、その方向へ進むにつれて、顔に怯えが見える人たちが増えていった。


「ん、なんだか騒がしいな」

「おい、はやく逃げた方が良いぜ!」

「えっ、ちょっと!」

「なんだ、何があった!」

「皆はやく逃げろ、あっちで化け物が暴れてるんだ!」

「なんだってェ!」


 途中それらの声を聞いて、いよいよ俺の足は走り出していた。





 ***




 時間は少し遡り、ショッピングモールのとある場所。

 周辺では買い物に来た親子やカップルが行きかっている。

 そんな中、走る娘を追って苦笑いする父親らしき男性が一人


「パパぁ、あっちー!」

「こらこら、分かったから走らないの……ん?」


 ふと、その男性はモールの広間の空中に、黒いもやのようなものを見つけた。

 その靄はどんどん大きくなっていき、黒い渦となった。


「なんだ?」


 男性を含めた周辺にいる買い物客たちも、その黒い渦に気づき、その禍々しさに恐怖を感じはじめた。そして黒い渦が大きくなるにつれ、警戒しながら距離を取っていく。

 やがて渦の中から大きなカマキリのマスコットと黒衣の少女が現れたのを見ると、悲鳴を上げて逃げだしはじめた。


「キャーシャシャシャシャッ!」

「……チッ、なんでコイツなんかと」


 渦の中から現れたのは、愉快そうに笑うノーライフのシクルキと不機嫌そうな顔をした魔法使いのヒューニだった。



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