魔法少女と超英雄~幼馴染が青の魔法少女として街の平和を守っているので俺は水のヒーローとして協力します~

リョーマ

プロローグ


 






 『魔法少女』っているよな?

 そう、魔法で変身してキラキラでフリフリな衣装を着ながら、悪者と戦って世界の平和を守る女の子たち。

 戦い方は魔法だったり肉弾戦だったり物語によって様々。年齢も小学生から高校生までバラバラだけど、変身して戦うことは共通している。



 これを読んでる皆さんの世界では、この『魔法少女』はアニメやゲームに出てくる空想上の存在だろう。


 しかし俺の世界には、この『魔法少女』が本当にいる。


 その『魔法少女』達も、“悪いヤツ”が現れると、どこからか察知して、その“悪いヤツ”と戦って退治し、街の平和を守っている。

 その活躍が認められ、今ではちょっとした街の顔役だ。

 街の人たちからの人気も高い。



 街の名前は『高宮町』。駅前には高いオフィスビルやショッピングモールが並んで、郊外は住宅街や学校がある豊かな町だ。

 俺……水樹みずき優人ゆうとの住む家と通う高校“高宮第一高校”も、ここ『高宮町』にある。





 そんな高宮第一高校、2年C組の昼休み。


「なぁなぁ、お前はどう思うよ?」


 クラスメイトの葉山はやまが俺に雑誌の一面を見せてきた。そのページには『高宮町を守る謎の魔法少女、マジック少女戦士“キューティズ”』という見出しで一枚の写真が載っていた。

 写真には、ピンク、ブルー、イエローのドレスを着た三人の少女とマスコットみたいな怪物らしき影が写っている。文面には“キューティ・スプリング”、“キューティ・サマー”、“キューティ・オータム”と、三人の名前が書かれている。



 俺は雑誌の写真と文章をチラッと目を通した後、雑誌を指で示しながら、葉山に視線を戻した。


「校則違反だぞ?」

「冷めるようなこと言うなよ……」


 そう言われても、お前が訊いてきた『どう思う?』という問いに対して、俺の思った感想がそれなんだけど……?


「それより、お前はどの子が良いと思うよ? やっぱりリーダーのスプリングちゃんか? それとも、明るいサマーちゃん? 清純派なオータムちゃんも良いよなぁ。いやぁ、やっぱり可愛いよなぁ。キューティズ!」

「否定はしないけど、目の前で鼻の下伸ばすな」


 はっきり言って、見苦しい。

 あと、そんなに一気に話されると答えにくい。


 葉山は顔立ちの良くて、皆からそこそこ人気があるくらい良い性格してるけど、中身は結構女好きなヤツだ。かわいい女の子と付き合っては別れて、付き合っては別れてを繰り返している。今はフリーらしいけど、先週、今年に入って5人目となる彼女と別れたらしい。


「なんだよぉ、興味なしかぁ? 近くに可愛い可愛い幼馴染がいる優人君ともなると、目が肥えてキューティズの可愛さもわかんなくなっちゃう感じか?」

「そんなんじゃねぇ!」

「何の話?」


 ふと、俺と葉山の話題に入ってくる声が聞こえた。雑誌から目をはなして顔を上げると、見た目の整った女の子が俺達のそばに立っていた。


「おぉ、夏目ちゃん!」


 葉山がその子の名前を呼んだ。夏目と呼ばれたその子のフルネームは夏目なつめ沙織さおり。今ちょうど葉山が『可愛い可愛い幼馴染』と言い表した本人だ。


 沙織は、青みがかった髪を持つ女の子だ。髪型は肩より少し長いストレートヘアで、青色を好み、身につけるものも青色のものが多い。イメージカラーを言うなら、まさしく『青』だ。勉強が苦手で、あまり頭が良くないのがたまにキズだが、性格は素直で明るく、誰にでも優しく接するため、男女問わず周りからの人気も高い。


 そんな彼女と俺は、物心ついたころからの付き合い……つまり、幼馴染同士だ。幼稚園の頃は、よくお互いの家や近所で日が暮れるまで遊んだものである。


「あっ、これ先週の?」

「そう、先週あったキューティズと“ハデス”の戦いの記事さ」


 “ハデス”とは、キューティズが戦っている悪の組織の名前だ。なぜか毎度高宮町に現れては手下となるマスコットチックな怪物を放って人間から“陽のエネルギー”(希望とか喜びとか)を吸い取り、“陰のエネルギー”(絶望とか邪心とか)を広めている。

 巷の話では地球の支配を目論んでいるらしいが、キューティズの活躍もあって、幸い被害は高宮町内だけとなっている。

 けどその正体は今のところ、まるっきり謎だ。


「いま優人にキューティズの三人の中で誰が良いか訊いてたんだよ」

「へぇー、それはちょっと興味あるかも……。それで、優人の好みの子は?」


 沙織は笑みを深めて、少しワクワクした様子で俺に訊いてきた。


 まったく、答えにくいことを訊いてくるなぁ。目の前にがいるってのに……。


「それが、優人のヤツにはキューティズの魅力が分からないんだと」

「えぇ!」

「おい、デタラメ言うな。否定はしないって言っただろう!」


 沙織もイチイチ反応して「ひょっとして優人って……」とか言いながら引いたような顔するなよ。

 俺は普通に女の子が好きだっつーの!


「じゃあ、お前どの子が好きなんだよ?」

「そうそう、どの子どの子?」


 二人はごまかしは利かないぞと言うように、じーっと俺を見てくる。


 はぁぁ。答えにくいなぁ、まったく……。


「……サマーとか良いんじゃないの?」


 俺が応えると、葉山は「かぁぁ!」と腑に落ちたような声を上げた。


「やっぱりなぁ。明るくて可愛いし気立ても良さそうだからなぁ、サマーちゃんは!」

「別に、そんな理由じゃねぇよ」


 明るくて可愛いってのはその通りだけど……。

 流石にが目の前にいると分かっていて、本人以外の子を答えるのは気が引ける。


「へ、へぇぇ……。え、えへへぇ!」

「なんでお前が照れてるんだよ?」

「えっ! い、いやぁ別に!」


 まるで自分が褒められたようなリアクションだ。

 正体隠す気あるのか?


「そ、それよりさ、き、キューティズも良いけど、私はやっぱり“守護神ガーディアンズ”の方が好きだなぁ!」


 自分の反応を誤魔化すように、沙織は話を変えた。

 話題を変えるのは良いけど、になるのか……。


「良いよねぇ、ガーディアンズ! 四神の称号を持つ四人のヒーロー、カッコイイよね!」


 沙織は目をキラキラ輝かせて語りだした。


 “守護神ガーディアンズ”は日本各地に点在しているヒーローとエージェントで構成された組織の名前だ。沙織が言ったように、象徴となる四人のヒーローには四神『朱雀』『玄武』『白虎』『青龍』の称号が与えられていて、ガーディアンズといえばこの四人のヒーローを指すことが多い。

 キューティズがハデスという特定の組織と戦っているのに対して、ガーディアンズの活動は強盗犯や窃盗犯の制圧、震災時の人命救助などが多い。たまに世界を滅ぼそうとしたり支配したりしてくる輩とも戦うこともある。

 そういった功績を積み重ねて、今では警察や自衛隊に並ぶ治安維持組織になり、ガーディアンズは日本全国だれもが知るスーパーヒーローチームになった。



 沙織はそんなヒーローチームの大ファンなのだ。


「スッゴいテンション上がったな、夏目ちゃん?」

「沙織は元から特撮とかアメコミとか好きだったしなぁ」

「まぁーねぇ……あっ、この雑誌にも特集されてるじゃん!」


 沙織がキューティズの記事が載っていた雑誌をめくると、めくった先のページに、ちょうどガーディアンズが解決した事件についてが載っていた。

 あっ、これ……半年前の“宇宙人の侵攻”の時の写真だ。『朱雀』と『白虎』、そして『青龍』のが宇宙人の軍勢と戦っている写真が載っている。おそらく現場にいた人が逃げてる途中にスマホで撮ったものだろう。


 沙織は雑誌の写真を見ると、さらにニコニコとした笑みを深めた。


「いやぁぁ、ガーディアンズのヒーロー四人ともカッコいいけど、中でもやっぱり“ハイドロード”が一番だよねェ!」


 そう、ガーディアンズの中でも沙織のイチオシは、ハイドロードと呼ばれる青色の戦士だ。

 ハマった当初から熱心に語ってくるため、俺にとって、その話はもうすっかり耳タコだ。


「いや、一番って……普通、一番は『朱雀』じゃないの?」


 葉山が訊ねると、沙織は人差し指を立てて「チッチッチッ」と舌を鳴らした。


「甘いねぇ葉山君。確かに『朱雀』はガーディアンズの長とも言える存在で、メディアでも一番に注目されてるヒーローだけど、自衛官ってこともあってヒーローというよりかは軍人って感じがどうしても強いんだよ!」


 まぁ、確かに……。

 あの人、平常時は迷彩服だからなぁ。


「あと『白虎』は、戦う時も体術ばっかりで少しパッとしないし……あれでもう少しカッコいい武器を使ったりバイクに乗ったりしたら良いと思うんだけどねぇ……」


 アイツがバイク、ねぇ。

 普通二輪なら乗れるけど、アイツって免許持ってたっけ?

 の性格的に取ってなさそうだけど……。


「『玄武』は、指揮官やっててほとんど表に出てこないし……」


 戦うと強いんだけどな、あの人は……。


「やっぱり、ガーディアンズの中では『青龍』のハイドロードが一番だよ! ハイドロードはね、水の力を操る戦士で、“スネークロッド”を駆使して悪と戦うの。私は一回だけ生で戦ってるところ見たんだけど、超ぉカッコ良かったんだよねェ! こう、まるで身体の一部みたいにロッドを振り回して、敵を打ったり薙ぎ払ったり! そして、体術も使えてね、こう、ロッドの棒術と合わせて……それがまたカッコいいんだ!」

「「お、おぅ……」」


 また始まった……。

 沙織は身振り手振りで俺たちに説明してくれたが、下手くそなジェスチャーのためイマイチが迫力が伝ってこない。

 それからも、ハイドロードについて熱弁する沙織の話は続いたが、俺と葉山は圧倒され、ただただ沙織のマシンガントークを聞き流した。

 そんな沙織の話を聞いていたら、いつの間にか今日の分の昼休みの時間が終わってしまい、俺は思わず頭を抱えた。


 は、恥ずかしいぃ……ったく、勘弁してくれよ。

 ハイドロードの話なんて、“ハイドロード本人である俺”が一番よく知ってるんだから。









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