23改
☆
一日空けた朝の八時に私たち三人は沖縄支部へ出発した。同じ軍用トラックで。
昨日の一日で多くのことが進んでいる。正式に統治AIアニエスからF22のパイロットVSデリスの対戦許可が下りた。承認にえらく時間がかかったものだ。
沖縄支部の機体を使用することがデリスに伝達され、これは交戦命令を意味している。実弾を用いる空戦である。交戦規定は通常のSWと同等の規定が設定された。つまり機関砲と指定の短射程ミサイルでの交戦ということ。日時はまだ発表されていない。
昨日デリスが私に機密だと言っていたのはそれに使う機体のことだった。いまはアイザックの判断によって私も知ることができる。私は実物を見る機会を得たのだ。今回は単座のため私が搭乗することはない。それでも高揚を抑えることが私にはできなかった。
沖縄支部に着き、デリスの指示で車を滑走路に運ぶ。格納庫前に止めろと言うので警備ロボットたちのいる領域まで進み、停車する。
すると車から降りた私たちをばかでかい自律型ロボット兵が迎えてくれた。幅七メートル、高さ五メートルくらいだろうか、四本足のクモのような巨体がするすると動き、ダークブルーのボディを朝の陽光に輝かせて近づいてくる。
なんと自律型くんはしゃべった。機械的な若い男の声。
「おはようデリス」
「おはようさん、なんか先日は手伝ってくれたみたいでありがとな」
「アイザックに頼まれたので」
「しばらくここにいるの?」
「放ったらかしにされてるようで。指示待ちです。それどころではないんでしょう。とりあえず待機中です」
「そっか。たいへんだな」
「あなたほどではありませんよ」
「はは、警備よろしく」
するすると自律型くんは持ち場に引き返していく。
「知り合い?」
「知り合いというか……一台と知り合うとあいつらはネットワークで繋がってるから、同時に何千台と知り合うことになるのよ。それで」
「いやいや、デリスは特別ですよ。いちいちみんなに繋げたりしませんよ」とアイザック。
ふーん、と私。ロボットに好かれるのかな?
私はふたりについてゆく。二機のSW用F14が並ぶ格納庫の奥に行き、デリスとアイザックは四角に区切られた一角に立つ。私もそばに行く。すると二メートル四方の床がゆっくりと沈んでいった。下には地下空間があるのだ。
けっこうな距離を降下したあと私たちは目の前に現れた通路を進み、それ抜けると一気に広大な地下空間が広がった。戦闘機が出入りするのだから当然か。
格納庫が視界いっぱいに幾つもある。左右に四つずつ計八個。円筒形の警備ロボットの姿も見える。
「自由に動いてかまわない?」
そう私が訊くとアイザックがかまいませんと言うので私はずんずんと歩き進めて地下格納庫の全容を知ろうとした。
F15E、F15D、F16、そして私の好きなA10がそれぞれの格納庫に収まっている。
しかし今日、私が求めているのは──いちばん奥の格納庫に鎮座する、その艶消しブラックの機体を目にして私は足を止めた。
全長20メートル。旧世代の戦闘機を基準にすればかなり先鋭的な容貌。まるで呼び止められたかのような感じがした。
錯覚なのか意味不明な懐かしさが込み上げてくる。後ろから追い付いてきたデリスが言った。
「博物館みたいだろ」
「ここの機体ってどうやって入れたの?」
「空母のエレベーターを想像するとわかりやすい。滑走路の一部が沈んでエレベーターの床になるわけだ。そこへ乗って地上へ。帰投すると地下へ。管制塔の屋上からだとよくわかる」
──YF23。秘匿された機体、という噂の実像がこれだ。私は目の前のYF23に見惚れていた。いま思い出した。父親が読んでいた雑誌で私はこの機体を初めて知ったのだ。
SWの一員になってから軍用機の歴史を学ぶなかで写真や映像では何度も見てきたが、肝心なことを忘れていた。
どうにも惹かれてやまない魅惑の外観、デザインをしている試作機。俯瞰して機首を除いてみた場合、エイのような印象を与える特異な機体だ。次期主力戦闘機の採用試験でF22に敗れた経緯がある。
なぜここに置いてあるのか?
「いろいろと改造してあって中身は違う。アニエスから直々にこいつを実戦機として仕上げろって指示があってね。空いた時間に俺がテストパイロットを担当してたんだ。独特の機動をするからなかなか難しい機体だ」
そうだと思う。23は垂直尾翼と水平尾翼を一体にしている稀有な戦闘機である。いや戦術戦闘機か。採用試験の時代は確かそうだったはず。
「格闘戦の性能面で22が上回ったから採用試験で負けたんでしょ」
ステルス性能を優先させた機体であったことが主な敗因だというのが通説だ。
「そういうことになってる」
「違うの?」
「だってその時はSWなんてないしな。参考にならん。航空機の理解には時間がかかるもんだ」
「どうして接収されなかったの?」
「試作機だったからだろ。それに厳密に言えばこれも22も旧式になる。世界政府は少なくとも思考制御タイプと完全自律型タイプのふたつを米軍から接収してる。自律型は独自に開発をつづけてるからそれすら古いのかもしれん」
「上のクモ型みたいなやつの戦闘機版?」
「というかアイザックみたいな戦闘機ね」
「それは恐ろしいな」
「恐ろしいのはただの“イノベート”のためにやってるってことだよ。人間はすぐコストやら必要性とか考えるが彼らはそうじゃない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます