テロリストキラー
デリスが言った。
「待機……、とりあえずやれることは沖縄支部の稼働だ。アニエスの判断は判断として、まずは沖縄支部を最優先に動いてくれ」
「それはもう始めてます。挑戦を受けた一報を受けてから始めてますよ」
「助かる」
「なんで?」
「機密に関わる話」
「あ、そう……しっかしあのF22の野郎のやり方が気に食わないな!」
「いやソニア、元々戦争での空戦はあんなもんなんだ。背後から忍び寄ってババッと撃つ。いまは射程が延びてるだけで基本的には同じだ」
「格闘しないの?」
「しないにこしたことはないさ。しかし危険な状態から離脱するには格闘術が要るから身に付けるってことだよ」
「そうなのか」
「でも格闘戦ってロマンがあるだろ? 一騎討ちみたいなイメージとか」
「確かに」
「そういうのが大事なんだ」
え? そうなの?
「あ、じゃあそれを考えて作られたと? スカイウルブスは」
「作ったのはAIなんで俺に訊かれても知らん」
「アイザック?」
「私も知りませんよ」
「たまたまかもだし、統治者として必要と見たのかもな。人類がスポイルしてきたもんだからな」
「ああ過去の人類、というか旧体制へのカウンターだと?」
「個人的には公共事業とか経済効果なんてのが大義名分だと思ってるよ」
「なぜ?」
「だってAIにロマンなんてないだろ。しかし高知能だから概念や価値は正確に理解できるわけだ。そこが人類の核だってことは。たまたまかもしれん。でもたまたま、SWのトップにいるふたりはそれぞれにロマンのカタマリだ」
「あ……」
「どうしてだろうね?」
アイザックが言った。
「データに基づいて人類の長所を抽出していったらたまたまそうなった、というだけでは?」
「それでもいい。それも答えになってる。人間が命を削ると何かがクリエイトできるのさ。クリエイトできないと衰退していくのが人類だ。その観点から言うと俺たちの統治者はなかなかよくやってるよ」
私は2021年から来た。身近な存在でそれを知ってるのは横にいるアイザックだけだ。こちらの世界の歴史では世界的な疫病は発生していない。同じように向こうの世界ではデリスみたいな人物は生まれていないと思う。
唐突に彼が訊いてきた。
「琉に会ったら何て言ったらいいかな?」
私に訊かないでよ。そんなデリケートなことを。
「わからない。その時の琉の顔を見て対応すればいいんじゃないの」
「巽は……あいつはナチュラルボーンのテロリストだったのかな?」
「私に訊かれても」
「主観でいい。俺の目にはどうしても琉の弟にしか映らなかったから、公正な目で見れなかった」
「……ナチュラルボーンだったと思う」
「そうか。じゃあ俺が死んだら墓石にナチュラルボーン・テロリストキラーって彫っといてくれ」
「アイザックに言って。私が先に死ぬかもでしょ」
「ええ? 教官より先に死んじゃだめだろ」
「そんなに歳違わないじゃない」
「そうだっけ?」
デリスがてきとうなボケをやってると会議室のドアがノックされ、つづいてドアが開かれ黒光りする物体が入ってきた。
私は思わず「わっ」と声を上げていた。
全体のデザインはアイザックと共通しているが艶のあるメタリックなブラックの体をしていてまったく違った印象を与える。
デリスがすぐに紹介してくれた。
「沖縄支部の責任者でカルバンさんだよ」
私は驚きつつも反射的に挨拶する。
「どうもはじまして」
「カルバンは真っ先に避難してたんですよ」とアイザック。
何だか冷たい言い方だった。弁明するカルバン。
「拳銃ならともかく、爆弾が相手ではどうにもならない」
「アイザックが呼んだの?」とデリス。カルバンが答えた。
「いや、ずっと無視されてたからこちらから出向くしかなかったのだ」
「あなたは平時が基本のロボットですからそれは当然です」
「そう上から目線で言われてもね」
「明後日には通常の状態にとりあえずは戻るはずですから、ご安心下さい」
それ以降、ふたりとも黙り込んだ。音声ではなくロボット同士の通信を交わしているのはわかる。聞かれたくないのだろう。
2分ほどだろうか、カルバンはきびすを返して部屋を出ていった。
ドアが閉まるとデリスが言った。
「何の用件?」
「指揮権を暫定的に私に設定したんですよ。だからその抗議に。……部下ではないのでわからなくもないのですが。いまは余計な存在でね。いろいろと無理をやる必要があるので邪魔なんです彼」
そうなのか。
「ああ……」
デリスは納得したようだ。
「明日、行けるかな?」
「後始末が終わってからの方がいいです。明後日一応の再稼働が始まりますからその方が」
「わかった。そうしよう」
カルバンとの関係性がよくわからないので私は尋ねる。
「階級みたいなのはアイザックが上なんだ」
「統治AIと常時リンクが可能なのはごく一部なんですよ。彼はそうではありません」
デリスが補足した。
「わるいやつじゃないよ。ただ人間の機微みたいなもんには無頓着というか、そこは省いてるんだ。でもシステムがしっかりしてるから運営には差し支えない」
機械生命体にもいろいろと個性があるのね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます