急襲
★[沖縄 嘉手納]
音響兵器! 体がねじれるような不快極まりない音! これはあの自律型ロボット兵のやつだ! 狭い範囲に特殊な音波を放つ兵器である。
相手は動いた。俺はジープへ駆け出しつつすぐさま無線で体育館のマッシュに連絡する。
「巽だ。マッシュ、人質を殺れ!」
返事はない。イヤホンからはマシンガンの音が交錯していた。
くそ! 急襲か!
マッシュの叫びが耳に届く。
「巽! 戻ってこい!」
「了解。誰でもいい、人質を殺せ!」
飛び乗ったジープを走らせ体育館に戻る俺だが、何が起こっているかはわかっていた。そうは言っても人質に構ってる余裕などないのだ。自身と仲間を守ることで必死なのだ。
いま体育館のなかは催涙弾の煙と煙幕で埋め尽くされているだろう。ふつうのやつがまず考えるのは体育館の外に出ることだ。催涙弾や煙幕を避け、装備した弾をできるだけ使うことなく安全地帯に身を置きたい。
俺ならまず人質をできるだけ殺すことに使うがみながそうするわけもない。体育館が見えてくる。特殊部隊に取り囲まれている。
さっそく俺は標的となった。マシンガンの音が鳴り響いている。
ジープに何発も当たり──手榴弾がこちらへ飛んでくる。ハンドルを右に切ったところで側面から爆発を食らい、ジープはさらに右へ吹っ飛ばされた──
何がどうなったかわからない回転のなかで混乱する俺。しかしそれは止まり、俺の体は無事だった。俺は車体から出て走る。走った。横に移動する俺を狙うマシンガンの音。が、この距離だと人間は標的としては小さすぎる。俺のスピードが勝る。そして手榴弾のお返しだ。
散らばる隊員たちの中間で爆発が起こり──俺の両脚に衝撃が走った。勢いのままもんどり打って地面に倒れた俺を熱さと激痛が襲う。くそ、正確な射撃だった。狙いすました射撃だった。
倒れた俺から誰かがサブマシンガンを奪う。上からガツンと右の顔面に一撃が入る。
何が起こったのかよくわからないが、とにかく──いい仕事だ。うまくやられた。
滑走路に行く前に前列の人質を始末しておいたのは正しい判断だった。銃声がやみ、状況が静まったのはわかる。それはわかった──俺の意識は遠のいていく。
☆
普天間の飛行場に帰投し、拠点となっている会議室へ戻ると私的にはショックの大きな事実がアイザックより告げられた。
占拠の過程で警備隊隊員37名、職員5名が亡くなっており、それ以外にも人質の死亡者が10名出ているとのこと。
特殊部隊側の被害は負傷者3名とこれは少ない被害で済んでいたが、正直なところ私の想定よりずっと大きな犠牲者が出ていた。殺害された人質10名全員が訓練生なのだという。みなが18~20歳だと。痛ましいことだ。空での活躍を目指していた何の罪もない若い命が空ではなく陸で散ってしまった。
「琉が出撃するずっと前に殺害されたようです。生き残った人たちの証言によれば」
デリスは黙り込み怒りの発散をこらえているのが私にも伝わってくる。かける言葉がなかった。
「テログループは総勢19名で、そのうち16名が死亡、3名を捕獲しています」
デリスはウィリアム隊長に連絡をとった。スピーカーホンで呼び掛ける。
「こちらデリス、ウィリアム隊長応答されたし」
暫くして隊長の声が室内に響く。
「おお、デリス。勝ったか。よくやった」
「そちらの状況はいま聞きました。部隊の損害が少なく、なりよりです」
「それはまあいいが……ともかくこちらに来てくれないか?」
「いいですけど何か?」
「現場に来てからの方がいいと思う」
「すぐ向かいます」
「疲れてるところすまないが待ってる」
通信を切り、アイザックどうする?と尋ねるデリス。
「行きます」
小さめの軍用トラックを私の運転で出発し沖縄支部へ向かう。デリスによると30分で着くらしい。車のなかでアイザックがぽつりと言った。
「私は情報を得てますがいまは黙ってます」
デリスが言った。
「そうか。……話せる情報は?」
「テログループ鎮圧のニュースはいま世界を駆け巡っています。……そして世界政府側から〈テロ実行犯の処理については日本政府の判断に委ねる〉との公式発表がなされました」
「そっか。じゃあ日本政府が、というか警察が受け取りに来るわけだ」
「いまのところその動きは止めてます」
微妙な空気が流れた。私にもその不穏さが伝わってくる。デリスが口をつぐむ。アイザックも沈黙し、私はそれに合わせた。車内は沈黙のまま、車は沖縄支部へ走りつづける。
☆
沖縄支部の入り口ゲートに到着すると特殊部隊の隊員二名が立っていて、門番の役割を担っていた。デリスが声をかけると「体育館に行って下さい」と返事が来る。
そういうことかと私も理解できてくる。現場だ。デリスの案内で体育館に向かう道すがら、黒焦げで粉々になった建物を目にした。あまり考えたくなかった。最初の犠牲者が出た場所と思われる。
それを過ぎて左折し、広い道路を進み、しばらくすると木立の隙間から体育館の外観が見えてきた。黒い戦闘服姿の男たちが何人かいてこちらを確認している。
私は一応敬礼のポーズをしてみせる。到着の連絡はいってるはずでわかってるとは思うのだが彼らはマシンガンを持っているので一応である。
車を体育館手前のスペースに寄せ停車するとわらわらと隊員たちが集まってきて口々にお疲れさまとデリスに声をかけてくる。笑顔はないがそれぞれに温もりのある声だった。
「みなさん方もご苦労さまです」とデリス。
私たちは車を降りて体育館の内部へと足を運ぶ。
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