151.夢から覚める(カース視点)
「
で ぃ ふ ぃ ぃ ぃ ぃ ぃ ぃ
ー ー ー ぁ ぁ ぁ あ あ あ
あ あ あ - - - っ っ !
」
目を覚まして辺りを見渡すと、そこはいつもの我が部屋。
私は確かに【南深森】で学園最終試験を受けていたはず。
実地実習。
森の中で何日か過ごし、私とディフィが目くるめく愛を育む実習だ。
おかずにアサギリとキクハを頂きながらディフィを愛でる。
そんな数日が私には待っていたはずだ。
なのに、なぜ私は部屋にいるのか。
もしかして、あれは……夢、か?
夢であればなんとも酷い夢だったのだろうか。
私が魔物相手に無様に後れを取り、そしてアサギリに後ろから矢を撃たれ、致命傷となった私に襲いかかるキクハ。必死にディフィを助けようと頑張る私の姿に、ディフィも涙目であった。ディフィの決死の告白と応援に、私の一部も滾り、これから始まる私の物語そこはいいとしても、アサギリの裏切りとキクハによって殺されたユーロ。ディフィを頼むとひそかにディフィのことを想っていたユーロから託された想いを胸に、アサギリとキクハと対峙する私。
……うむ。ディフィも惚れ直す勢いだろう。
だが、あれが夢だとしたら……
「この傷は、なんだ?」
夢の中で頬を掠めたアサギリの放った矢。そして後頭部に響く痛み。
夢でない? 夢でないならディフィもユーロも……。
いや、夢であってはなら……いや、待て。夢でいいのか? いやいや、夢だったら私はなぜここにいる。
夢でないなら、私が愛剣【ウルトラ・ファイティング・スピリット・オーラ・スペシャル・ギミック・オン・ザ・ドラゴン・バスター・ブレード】で、ディフィと仲良くすることに嫉妬したアサギリとキクハや、ディフィと繁殖したがる魔物から守ろうとする私をみて、間違いなくディフィは私と繁殖したくなっているはずだ。そう思うと私と夜を駆け巡る相棒【プレマチュア・エジャキュレーション・ショート・アンド・スモール・テゥ・インコ】も高鳴ってしまう。いやそれは寝起きだからか。
だが、夢でないなら、あの窮地から私はどうやってここまでたどり着いたのか。
全く記憶にない。だったら夢だ。夢であるべきなんだ。だがそれだとディフィが私と繁殖したくないのではないだろうか。いやいや、そんなまさか。ディフィは私に惚れているのだから私と繁殖することを望んでいることだけは確かだから、そこは早いか遅いか――いや早く繁殖はしたいのだ、私は。だから今この状況が繁殖できる状況なのかどうかを知りたいのだ。
「くっ! 誰かいないか!」
もし夢でなかったなら。私は、アサギリとキクハに負けてディフィとユーロを失ってしまったのではないか。
そんな喪失感に襲われる。
私だけ、私を護る王家の暗部によって助けられて今ここにいるのではないか。
ユーロはどうでもいいが、ディフィの安否だけでも確認したい。
繁殖したいにはしたいが、あの魔物の群れの中に取り残されてしまえば、ディフィは確実に私と繁殖ができない。魔物と繁殖している。
「お目覚めですか、カース殿下」
こんこんっと扉をノックする音が聞こえて入ってきたのは父上の専属の執事のブロウだったことに驚いた。父上が若いころから傍にいる執事で、私にも厳しい執事だ。
普段は私の傍にいるはずのない執事。なのにここにいると言うことは、重要な話があるのかもしれない。
間違いない。ディフィのことだ。
「ディフィは、ディフィはどうなった!?」
まさか。本当に魔物と繁殖させられたのか。だとしたら私は魔物だけでなくアサギリとキクハを許すわけにはいかない。次代の国王に歯向かうとは。慰み者としてやろうと思っていたが、もう許さん。捕まえてスラムの孤児どもにくれてやるわ。
「……ディフィ?――ああ、あの、男爵令嬢の」
「あのとはなんだ! 次期王妃であるディフィをそのように呼ぶとは! いくらブロウと言えど許さんぞ!」
「許すもなにも。私は男爵より上の爵位持ちであり、爵位持ちでもない令嬢を下に見るのは当たり前です。それに、殿下は私の雇い主ではありませんので許す許さないもありませんな」
「だが、私は次代の国王だ! その私に逆らうということはそういうことだろう!」
「なにがそういうことなのかはわかりかねますな。私をどうにかしたいのであれば、現雇い主である現王――ワナイ王にお伝えください」
この執事はいつもそうやって父上の名を出して逃げる。私が王となったらすぐさま町中でギロチンの刑としてやろう。
「ちょうどワナイ王が殿下をお呼びしておりますので、その時にどうぞお伝えしてみては?」
「はっ! ならばそうしてやろう!」
こいつはどうやら高を括っているらしい。父上が自分を処罰しないとでも思っているのか。笑える。実の息子と友人を天秤にかけて自分が選ばれると思っているらしい。その滑稽さを、笑ってやろうではないか。
「それはそれとして、ディフィだ! ユーロは死んだとしても、ディフィは大丈夫なんだろうな!」
私は自室を出て、父上のいる会議室へと向かいながら、これまで何度も聞いているのに返ってこない質問への答えを催促する。
「死んだ? キンセン侯爵令息――ユーロ殿は怪我もありませんが」
「なに?」
ではあれは夢か。
夢であるなら私の実地実習はどうなったのだ。私とディフィと慰み者どもとのめくるめく肉欲の繁殖の数日間はどうなった!?
……落ち着け。
ならば、実習も夢か? いや、怪我がないということから実習はあったのか。私がただ忘れているだけ?
まさか、あまりにも素晴らしい数日間だったから忘れているのかもしれない。
「実地実習は殿下以外のパーティ、アサギリ伯爵、キクハ伯爵、キンセン侯爵子息殿、ロォーン男爵令嬢によって学園最高成績で結果を終えております」
「ロォーン? 誰だそれは。ユーロが生きているということもどうでもいい。私はディフィのことを聞いているのだ!」
「……」
執事は大きなため息をつくと、「怪我なく無事です」と答えた。最初からそういえばいいのだ。ロォーンとか聞いたこともない男爵の令嬢などどうでもいいのだ。それがいい体なら今度遊んでやるのも悪くないが。
「……ふん。まあ、よい。私が率いた実地実習であるからな。最高成績なのは当たり前だ」
「
「何か言ったか?」
「いえ、何も。知らないことは罪ではございますまい」
これで私は、更に国王となる名分を得た。
我が道は順風満帆である。
小さい頃、私の弟であるナイルスが描いた子供じみた計画――孤児院を創り、国営として経営し労働を担保することで労働者を増やして国を豊かにするという計画書をみて馬鹿にしながら父上に提案してから、私の未来は輝かしいものだ。その馬鹿げた計画を立てたという失態でナイルスは後継の権利を失い、私は不動の後継者となった。
成長したナイルスが私の代わりに書類仕事をし、妹のナイアが行事ごとに私の代わりに参加して私を盛り上げる。忙しい私を自由にするために家族総出で私のために動いてくれている。
国民も令嬢も、私が声をかければ私のために動く。体さえ許し私の種を求めてこの国中に広げようとしてくれている。優秀すぎる私が怖い。
嫌な夢――とはいえ、覚えてはいない――をみたから気分は最悪であったが、何事もなくことは進んでいる。おそらく私は幸せすぎて記憶がないのだろう。きっと私はディフィと繁殖したのだ。
そして最高の成績を収めたのだから、父上も私を褒め称えて国王の座を譲り渡すために今呼び出したのかもしれない。
きっとそうに違いない。
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