090.王都で出会うはキツネさん(アズ視点)

「そ、そういえばキツネさん、後で合流するんですか?」


 ナッティさんが私たちをキツネさんの住居まで案内すると言っていたので、今この馬車はそこへ向かっているみたい。でも、その張本人とはヴィランで別れたので不在の住居に入っていいのだろうか。


 あ。だからミィさん達が一緒にきたのかな?


「旦那様ですか? 旦那様なら——」

「ぅにゃぁ……もうがまんできない~」


 と、マイさんの声を遮って、今まで寝ていたラーナさんが起き上がってうずうずとしたと思ったら馬車から急に飛び降りた。


「え、ええ!? ラーナさん!?」

「ラーナ!? ナッティさん、私たち、ラーナを追います!」


 馬車は遅いとはいえ、飛び降りるように降りたら着地したときにたたらを踏んでしまうほどにはスピードは出ている。

 そんなところからしゅたっと勢いよく降りるミィさんとマイさんに、とんでもないことが起きたのではないかと私たちも緊張する。


「ここは私たちも追いかける」

「え、ちょっと! キッカ!——あぁもう! すいません、私たちも先に行きますっ!」


 キッカが、ミィさんとマイさんの後に続いて馬車から降りた。

 一気に走っていく様を見て、私たちも続く。


 キッカと違って私たちはたたらを踏んだけど、キッカとミィさん達に追いつくために体勢を整えると一気に走り出す。

 馬車の中で「後で追いつきますので。いってらっしゃい」とナッティさんが面白そうな声をあげて馬車がスピードをあげたけど、さすがに強くなった私たちの全力疾走には追いつけなかった。そもそも本気で馬車が走ったらちょっとした騒動にもなりそうだから、あくまで出せる限界のスピードで後から追いかけてくるみたい。


 うっすらと見えるキッカの背中を見失わないよう必死に走る。大通りではなく、小道を使った追走劇。人がいないから本気で走れているけど、時折大通りに出た時には人がいるから避けながら走る様は、この世界に来て森で魔物に追いかけられていた時を思い出した。

 あの時は全然余裕はなかったけども、今は全力疾走をしてもそれほど疲れない。

 この世界に来てすごい体力がついたと思うとくすりと笑えてしまった。


 お城を囲む第一城壁から外へ向かっていくにつれて増える大通りの数字。さっきまでいた十二番円環道と呼ばれる道から、今は三番円環道まで近づいた。


 まだまだキッカは走る。

 キッカの更に先にミィさん達がいるんだろうけど、キッカは見失ずに走れているのだろうか。


 キッカが後ろにいる私たちに気づいた。

 指差す先。

 すでにここは、一番円環道。

 水門の橋の手前。そこにこじんまりとしたお店があって、その入り口でミィさん達は止まったみたい。


 キッカが少しずつスピードを緩め出した。

 私たちも追いついて同じくスピードを緩めていくと、小走り程度になった頃にはそのお店の前にたどり着いた。


 お店の前にしっかりとした門があって、その先にちょっとした庭があるお店。

 門の前で、私たちはそのお店の入口を見た。



「……ああ、おかえり。旅はどうだった?……って言うか、おかえり、じゃねぇか。ここ初めてだもんなあんた達」



 そこは、多分。キツネさんの住居。

 二階建ての喫茶店のような家だった。

 ううん。多分喫茶店。

 だって、門看板に『喫茶・スカイ』って書いてあるから。

 スカイって、多分、キツネさんのソラから文字ってるよね、きっと。


 そんな木造建築の入口に、気だるそうに立っている男の人が、私たちに声をかけてくる。

 単色の着流しのような、軽やかな服装をした男の人。胸元を少し緩めて着ているから少し目のやり場に困った。細身にも見えるのに、がちっと筋肉質の生身が見えたから。シレさんの性癖にどストライクじゃないかとシレさんのことが心配になるほどに。

 ……あ。シレさんは、ムチっとしたほうが好きなんだっけ。


「もっふもっふ~」


 その男の人に、ラーナさんが抱きついて離れない。

 まるで初めて会った時にキツネさんに抱きついていたラーナさんのようで、もふっともふもふを倍増させて抱きついている。あの時は顔面だったけど、今は上半身に絡みつくように抱きついている。


「あ……あぁ! ラーナ! あなた気づいてたんですねっ!」

「ひどいよラーナ! 気づいたなら教えてって前に言ったのに!」


 その男の人に抱きつくラーナさんに、ミィさんとマイさんが怒りだした。

 ミィさんに至っては抱きつくラーナさんの反対側にとんでもないスピードで動いて抱き着く始末。

 マイさんはおしとやかに、でも素早い動きで男の人の前へと立つと、正面から抱きついた。


「いや、そんな感じで抱きつかれたら動けんよ」

「うわっ、マイ、それはひどい!」

「ラーナもえんりょしたのに」


 『狐のお面』をした男の人は、何が起きたのかわからず動けない私たちを見て、「?」と不思議そう。

 だけど、何かに気づいたみたいで、


「ああ、そうか。……この姿では初めてか——」


 マイさんを、じっとその狐のお面が見る。すぐに視線に気づいたマイさんはそそくさと離れて男の人の斜め正面横へと、恥ずかしそうにこほんっと咳を一つついて姿勢正しく立った。


 そのマイさんの動きに気を取られている間、それこそ瞬きをした瞬間に、抱きついていたラーナさんとミィさんは、まるで物かのように脇に抱えられていた。


「——俺は始天ソラ」


 そんな狐のお面をつけた着流しの男の人が、脇に美女二人抱えて言った名前に、聞き間違えたかと唖然とする。



「ちょっと特別な仕事をするときだけこの姿になるんだよ。この姿じゃないとできないことがあるからな」










「「「「はぁっ?」」」」




 もう。そんな声しか出ない。


 目の前の男の人がキツネさん??

 そりゃ確かに狐のお面被ってるけど、お面被ってたらみんなキツネさんと同じに名前にでもなる伝統でもあるのだろうか。



「……あら。ミィさん達がそこまで懐いているってことは、あの方はソラさんなのね。……さすがにもう、ソラさんのことで驚くことはないと思っていたのだけれど、男の姿になれるなんてさすがに言葉を失ったわ」


 驚くことしかできない私たちの背後から、馬車から騎士の一人にエスコートされて優雅に降りたナッティさんが合流する。


「……女性にもなれ、男性にもなれる。……なるほど。ソラさん、やっぱりあなたは私の夫となるべきよね。そうなったら私、両方でソラさんを楽しむことができるんだから」



 と、冗談なのかどうか分からない発言をして、扇子で口元を隠した。


 ナッティさん、カース君、どうされるんですか。






 シトさまのいうことにゃ ~今日もキツネさんはのんびりまったり勇者育ててます~


 第一部

 裏題

  転移された私たちの、

      王都までの短くも長い道のり


 完







------

第一部お疲れ様でした。


さて、裏題の通り、第一部は王都に辿り着くまでのお話でした。

何もわからないままに異世界転移した大勢。その中で生き残ったアズ達。そのアズ達を保護してくれて優しく(?)見守ってくれるキツネさんことソラと、現地民の仲間たち。勇者や剣聖、聖女という称号を持ったアズ達は王都へ向かうことになり、冒険者登録をして冒険者となって王都へと到着したところで第一部が終了となります。


さて、第二部は、ナッティ令嬢の護衛兼従者の立ち位置として学園生活を満喫する形となります。

いやまあ……ほとんど従者とか護衛の仕事はしないでしょうけども。

領都ヴィランから王都へと場所が映ったアズ達。

学園生活をしながら冒険者として冒険したり、時には冒険したり、後は、そう、冒険したりですね。

後はあれですね。ナッティ嬢とカース殿下の恋の行方(笑)ですか。


自分たちが選ばれた理由もなく、帝国が召喚を行ったことにより連れてこられただけの犠牲者たちは、自分たちがこの世界で何をすべきなのかを学びながらこの世界を生きていきます。


少し間をおく関係で一旦こちらの作品は完了扱いとさせていただきますが、またすぐに第二部を開始する予定です。

これからもぜひ、シト様とアズ達をよろしくお願いいたします。


あ。ここまでで面白かったと思われましたら、

おほし様やレビュー、大歓迎でご――( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン



皆さまに、

シト様こと、

ぱんなこったの祝福が、ありますように(-人-)



                 ともはっと

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