002.辺境の地で
この世界は、とても大きな世界だ。
どこまで進んでも続く大陸、どこまでも広がる大海原。
どれだけの広大な土地なのかは、端から端まで進もうと試みる勇敢で無謀な者がいないからこそ誰にもわからない。
そんな試みを起こしたとて、人の一生をかけては果てを見る事ができないほどに広大な土地を有するこの世界。
創造神が創りし剣と魔法の世界
【フォールセティ】
広大で肥沃な土地だからこそ、多種多様の種族に溢れ、交易し、争い、友好を深めては時には滅ぼしあう。
平和の中に策謀と争いが交じり合い、生活水準に魔法を取り入れ、騎士道精神溢れる剣と忠義、魔術と研究で発展していく世界だ。
勿論。
そんな多種多様な種族があれば、動物や、人に害を為す魔族や魔物だっているのは必然で。
それらと戦うという共通認識をもつことで、多種多様な種族は結束し、争いあうことができるのだからバランスのとれた世界であるとも言えるのだろう。
そんな大きな世界。
その世界でも、大きく肥沃な大陸である、【ナニイット大陸】。
東西南北中央に五つの大きな国があるこの大陸。互いに牽制し、長い間調和し続けている大陸に、最も大国だと自他共に認める王国が中央にあった。
中央国家
【モロニック王国】
北方には豊沃な牧草地帯と草原を抱え、
南方には砂の世界で商魂逞しい種族が作り上げた人口的な土地が広がり、
西方には大霊峰と山脈地帯に大量の資源と魔物を抱え込み、
東方にはいまだ人の手が触れることを拒む未開拓地域に一攫千金を求めて冒険者が群がり騒ぎ、
大地と台地に恵まれた中央に、それらを纏める王の住む城と、絢爛豪華な都を有し。
東西南北それぞれを王国の王の選定も兼ねるほどの権力を持つ、四閥の【選帝侯】に辺境領地の支配権を認め領都を作らせ、更に四方を囲む周辺国家から侵略を防ぐ。
周りが他国であるからこそ、限られた領地と資源ではある。
周辺諸国とも交易も盛んで平和だが、時にはその諸国と領地や外交の問題で小競り合いはあるほどには大きな国だ。
そんな大国ではつい先日、モロニック王国ワナイ・デ・モロン王の第一後継者の王太子、カース・デ・モロンと東の辺境地区を領地とするヴィラン選帝侯令嬢、ナッティン・ヴィラン嬢との婚約が実り、ついに王太子妃、ゆくゆくは王妃が誕生するのでは、という報道が国中だけでなく各国に流れたばかり。
ヴィラン選帝侯令嬢は才色兼備の容姿端麗として名高く、彼女を妻にすれば全てが上手く行くとまで言われた傑物であると、国中の誰もが知っているほどである。
そんな彼女を王国は次代のために欲した。
王家が頼み込んで何年にも渡って選帝侯を説得して婚約を進めたのだ。
その結果が実り、モロニック王国もまた将来が安泰だと囁かれ。
婚約期間は短いながら、二人は王都の学園において互いを尊重しあい誰もが羨むカップルだと、噂好きが噂するほどに仲が良好だったことから、モロニック王国の繁栄が期待されている。
さて。
そんな適度な争いと幸せな一報と平和の中で。
一つ。
この国を揺るがす大きな事件が起きた。
王都から遠く離れた、王都の管理下でありながらも凶悪でどこよりも強い魔物が跋扈する未開拓地域、【封樹の森】と呼ばれる大森林。
東方は、未開拓地域を開拓していくことで成長してきた領都であり、他の領都とは一線を画す辺境であった。
モロニック王国は、西南北は他国に囲まれているが、その【封樹の森】によって人が住む場所はないため東に国はないと言われている。
東の領都、【ヴィラン】
そこは、モロニック王国の傘下に入る、他国からも認められた、東の【国】だ。
各国とは不可侵の同盟を結んではいるものの、囲まれているからこそ国力は増えることはなく、また各国への牽制のために領都を設け、各都が軍備を充実させて牽制することでこの国は守られている。
ただし、東方のみは、人ではなく大森林【封樹の森】から魔物の侵略を防ぐために設けられた防衛拠点がある、少し特殊な領都であった。
それが、ヴィラン公爵の治める辺境都市であり、五大王国随一の軍備と、東に広がる果てなき森を統べて開拓する役目を持つことから、王家と同じ権力を持つ、モロニック王国の麾下でありながらも五大王国の一つとして数えられる、【国】なのである。
だからこそ、このモロニック王国の発言力は侮れない。
中央と東のナニイット大陸を統べているからこそ、モロニック王国は巨大で、他の王国に対しても発言力を有していた。
各国の騎士や兵を凌駕する、【封樹の森】を開拓する魔物を倒すスペシャリストの集まり・【冒険者】。
彼の冒険者を兵力としても有し、自国を守る冒険者に負けず劣らない騎士という兵力さえも持つ、各国や王都、他領都とは一線を画す存在。
そんな未開拓地域に、遥か遠くからでも見える光の柱が突如現れた。
王都だけでなく、王国も、周辺諸国からもくっきりと見えていたその光に、誰もが驚き立ち尽くす。
地域の開拓と領地を任せられたヴィラン選帝侯も、未開拓地域で戦う屈強な兵士や冒険者がその光を見上げていた。
妖しく、神々しささえ感じるその光、
誰もが、
時には、【世界の終わり】だと。
時には、【神の降臨】だと。
時には、【魔王の誕生】だと。
時には、【新たな時代の幕開け】だと。
それほどまでに、この世界に歴史が刻まれる始まりであろうイベントに、世界は沸きたった。
王都も騒ぐ。
自国で発生したあの光の詳細を欲する、モロニック王国ワナイ王。
大国の中で発生した原因不明で正体不明の光だからこそ、王として国を守るために早急に情報を集めるように檄が飛ぶ。
カース王太子も、王都の兵を動員して調査に乗り出す。
だがそれよりも。
そんな王都よりも何より忙しいのは、王都より遥か遠くの領都、最もくだんの森に近い、この『辺境』だ。
【ヴィラン選帝侯】の支配する東方の地。
ここ、ヴィラン選帝侯――ドーター・ヴィランの領地は、【封樹の森】からあふれ出る魔物を討伐し、未開拓地域を開拓して一攫千金を狙う冒険者達で賑わう、強者の町である。
特に【領都ヴィラン】は、王都から離れすぎて田舎町であるようにも思えるが、王都にヒケを取らない都であることは誰もが知っている話だ。
田舎さながらの風情を持ちつつも、常に戦場の最先端。
そんなどこよりも危険に敏感である領都の、世界中の冒険者達を管理するなんでも屋な【冒険者ギルド】も、その対応で忙しなく動く。
光の調査もどこよりも早く行える場所なのだが……
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