第12話 ゲチス六神将
街に無事潜入した俺は街を見渡す。
やはり、ゲチス軍は駐留しており、ここにいるゲチス軍人の数としては今までで1番多かった。
ただ、ここにいる者達はこれまでの街と比べて、鍛え上げた筋力を持つ兵が少ないような気がした。
ジンは少し違和感を感じてはいた。
(一体何故だろう?人は多いが、鍛えられた兵士という意味で見ればこれまでにいた街の構成とはどこか違う気がする...)
そうは思うものの、
特に気にすることもなく街で潜伏する。
ここで違和感の原因を深く探らなかったのは、
やはり若いからという理由が1番にある。
こういう感覚は自身の経験から無意識に来るものであるから、当たることもあり、時に命を救うこともある。だが、ジンにはそのような勘の類で助かった経験がなかったために、即座に振り払ってしまったのだ。
勿論ジンの残り魔力は少なくなっており、時間を掛けることができなかったというのもある。更には帆船の操船方法も調べ出さねばならず、ジンに残された後2日でやらねばならぬ事は山積みではあったのだ。
ただ、この違和感を解消しなかったことをジンは後悔することとなる。
時は遡る。
遡ることジンがアブカスから、サルベキアの街から見事に逃げ出した次の日まで。
アブカスはグレゾン元帥にジンに恐らく逃げられたということを報告をしていた。
「グレゾン元帥閣下!ご報告申し上げます。まず、謎の生命体は、齢15ほどと見られる小さな少年でした。」
実際にはジンは19なのだが、生まれつきの背の低さ(更にここ数日で縮んだ)と、酷く痩せてはいるものの童顔寄りであったことから、15歳程であるとアブカスには見られていた。
「そしてその少年は気配を操り、我々を出し抜き、設置した罠を全て回避してサルベキアの街へと侵入!更に侵入後は気配を消し、数刻で街を通過するほどの少年にしては驚くべき身体能力を持っていました。」
ここで言葉を切ると、アブカスは苦い苦い顔をしながら報告を続ける。
「私が転移で街中に入った時、既に街の中へ侵入されたとの報告があり、私はサルベキア山脈に面す北門とは反対の南門へ再度転移し、奴を何とか待ち構え、把捉することができました。奴は部下の目は欺けようと私の目は欺けなかったようです。自身の動きによって発生する気配の類は消せていませんでしたから。」
「それで?」
元帥は低く重みのある声で先を促す。
アブカスは冷や汗を流しながらも続きを話す。
「それでも少年の気配を操る技能は中々のもので、私では何とかいる場所が気配でわかるほど。ただ、こちらへの攻撃手段は持ち合わせていなかったので、私の大剣の一撃により、何とか胴へ風穴を空けることには成功したのです。」
アブカスは溢れ出る汗を拭いながら息継ぎをして続きを話す。
今回は前回のようにミスをしたことにより自身の進退の危機下手すれば命の危機を感じて出ていた汗ではない。
少年の話をするたびに元帥から溢れ出る圧倒的強者の威圧にアブカスは濁流も顔負けの汗を全身から流し、服はまるで水浴びをしたかのようにぐしょ濡れであった。
それでも彼は話し続ける。
「しかし少年は立ち上がったのです。勿論フラフラではありましたが。私は少年の異常さに恐怖を覚えたのかもしれません。奥の手を使って少年を一刀の元に胴から両断し、動かなくなったのを確認して、奥の手を使い体力も魔力も削られた私は部下に遺体処理を任せたのです。」
そして、彼の体からは既に汗は出ていなかった。出せるものはすべて出し尽くした後だったのだ。
「そして部下は遺体処理の準備を私は休むために戻った数分の間に少年の死体は跡形もなく、消えていたのです。それも....足跡も、血痕もなくです。」
朦朧とし始めたアブカスにグレゾンは尋ねる。
「その少年は到達者か?」
「おそらく...間違いは....な...い....で.....。」
最後まで語り切ることなくアブカスはドシンという音と少しの揺れをその場に残して気絶する。
そう。グレゾン元帥は無意識に溢れ出す少年への興味と獰猛なまでの闘気によってグレゾンを手を下すこともなく倒してしまったのである。
そして隣に居る秘書に指示を出す。
「アブカス大佐を拘束せよ。この男に失点がつくのは非常に惜しいことではあるが、今回の失態の責任の所在は明確にしておかねばならん。」
「承知しました。」
秘書は見た目非常に華奢な体に黒いスーツのような服を着ている。容姿も非常に整っており、その気になれば、どんな男性でも落とせそうな、しかしそれでいて少し剣呑な雰囲気も纏っている。そんな女性である。
ただ、この秘書驚くことに、アブカスでさえ、耐えられなかったグレゾン元帥の威圧をアブカスよりも近くで受け続けて平然としていたのである。そして、目の前に倒れているアブカスの巨体を軽々と担ぎ上げると、その場からスッと消えるように立ち去るのだった。
グレゾンはその光景を見届けてからアブカスから得た報告より、少年への対策を練り直す。
「なるほどな....あの少年は気配操作系技能だけではなく、それ以外の技能を持ち合わせているのはまず間違いない。アブカスは、嘘を言ってまで自身の保身に走るような男では無いからな。備え無しでサルマイア山脈を越え、更に体を切断されても逃げられる...そんなことが可能な技能はこの儂でも聞いたことがないわ。」
アブカスはそうして少しの間考えて、また語り始める。
「この大陸の情報が漏れるのは非常に不味い。世界法に基づき他大陸の軍勢が我々を制裁に来る危険があるからのぉ。確実に危険は潰さねばなるまい。今この大陸において儂らゲチスに反する意思を持つ者は少年しかいないのだから。大佐クラスを送っても今回の二の舞になる可能性は否めんな。どうすれば良いと思うよ?」
グレゾンは視線さえも向けずに問いかけた。グレゾンの背後にはアブカスを運んでいつの間にか戻ってきていた秘書の姿があった。
「ゲチス六神将の一人である【花鳥神】フウゲツ大将を向かわせるのが良いかと。彼女ならば今唯一動ける六神であります故。」
ゲチス六神将とは。新生都市ゲチスにおける2人の元帥と4人の大将に贈られた神を纏めて呼んだ名である。
軍を司る【軍神】グレゾン元帥、
政務と国家運営を司る【政神】アマデンス元帥、
流麗な剣術と数多なる技で魅せる【花鳥神】フウゲツ大将、
ゲチスを囲う超巨大障壁の核を担う【結界神】ロックスタン大将、
今のゲチスの支配を確立した【洗脳神】ハーレクイン大将、
最後に新生都市ゲチスの支配が及ぶ範囲に規律を強制する【司法神】イリーガル大将
この6人の神がゲチス最高戦力というわけだ。
あとはこの6人の上にゲチス総裁が居るのみというわけである。
グレゾンは頷きながら秘書に言う。
「儂もそれを思っておった故に。流石に儂が出るわけにはいかぬからな。ではフウゲツ大将にサルベキアから最も近い海の街ブルータールへ向かうように指示を。かの少年はまず間違いなく、あの街道沿いに進むしかないであろうからな。街道をそれれば他の街につくにせよ、一月はかかる。少年の動きから地理に詳しくない以上、街道を沿って移動するしかなく街道の終着点に現れた所を確実に叩けば良い。それこそ街道を逸れるのならば、気配操作の魔力が持つまい。確実を期すためもう2、3手を打つとしようか。」
グレゾンは自らも指示に動くべく、自身の部屋を発つのであった。
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