第79話 帰還の日


 魔王が消滅して数日たった。


「よし、行くか」


 俺は王宮の自室で包帯がまだ巻かれている状態のまま、鏡の前で気合を入れる。

 何故なら、今日は召喚術の完成をみる日なのだ。

 すでに準備は出来ているとマスローさんからも連絡があった。


「マサト様……行かれてしまうのですね」


「ああ、アンネ、今までありがとな」


「とんでもないです! 感謝するのは、私たちの方です!」


 アンネが大粒の涙を流して訴えるように言ってきた。

 あはは、本当に純粋な子だなぁ。


「もう、みんな集まってるんだよな? 奏さんたちも呼んでくれた?」


「はい、あの方たちもカッセル王国の救国の英雄です。この帰還の儀と同時に行われる式典でそれ相応の褒美が出ることでしょう」


「そうか……良かった。じゃあ、行くとするか」


「マサト様!」


「うん? どうしたの?」


「あの、その……私は……マサト様を」


 俺は首を傾げてアンネを見つめる。その熱っぽい顔で何かを言おうとしているアンネはなんと言うか、すごい可愛い。

 まあ、言いたいことは何となく分かる。

 魔王を本当に倒しちゃった俺のことを、尊敬したり、憧れてしまったりしたんだろうな。

 ……正直に言うとそれはすごい嬉しい。

 いや、今ここできつく抱きしめたい……じゃなくて、照れてしまう。

 でも俺はアンネが思うような……憧れるような対象じゃないことを知っている。

 だってさ、嘘ばかりついてきたもんなぁ。

 さすがにこれで、アンネに好意を持たれるのはちょっと違うよな。


「アンネ」


「……はい」


「アンネにアドバイスするね」


「アドバイス?」


「うん、それはね、悪い男には騙されないように! 特に自分のために嘘ばかりついて、何でも人任せにするような奴にはね。アンネはすごい可愛いんだから気をつけなよ?」


「……え?」


「じゃあ、さよならだ。また会えたら……お茶を入れてくれると嬉しいな。アンネの入れるお茶は絶品だからね」


「は……はい」


 俺はそう言い残し、部屋を出た。

 アンネは泣いているかもしれないな……。

 でも、ごめん、これが俺の精一杯だよ。今の俺にはアンネの好意を受け取るほど厚かましくはなれないから。本当にごめん、俺がもっと男として成長したら会ってくれ。

 俺が外に出ると部屋の外には迎えが来ていた。その中には式典用の格好をしたマッツがいる。


「お? 格好いいじゃないか、マッツ」


「ふふふ、そうか? 実は俺もそう思ってるんだ」


 しばし無言で会場になっている王宮の中庭に向かった。俺は王宮の廊下の窓から抜けるような青空を見つめる。うん、平和だな。


「マッツ」


「何だ? マサト」


「魅惑の極楽湯に行くのは、ほどほどにな。お前は一応、イケメンなんだし婚約者もいるんだからな」


 マッツがこけた。




 会場に行くと想像を超えた壮大な式典だと分かり、俺は驚いた。

 その場には文官、武官たちが集まり、その最奥には先日、初めて会ったカッセル王国の国王が座っている。

 さらに王宮の外には王都の住民たちが押し寄せている。

 こ、これはちょっと緊張するわ。

 そして、その国王の御前にはミアとホルストが中央を明けて跪いていた。

 俺は促されるままマッツの後ろをついて行き、横を見ると奏さんとオデットさんも国王側の最前列にいるのが見えた。

 やっぱり相当な好待遇でもてなされているのだろうな。

 ま、当たり前か、今回のVIPは間違いなくあの二人だからね。

 因みに魔王消滅のあと、吹き飛んだ二人は着地する前に俺が奏さんの紋章を自分につけたことで大変だったんだわ。奏さんが勇者の力を空中で失ったから、オデットさんが危なく救ったんだと。

 あのあと、合流した時にオデットさんにすごい怒られたもんな。

 まだ、頭にできたたんこぶがひいてないよ。


「勇者マサト! ご来場しました!」


 リンデマンさんの大きな声が流れると、俺はミアたちに並び、その中央に跪いた。

 カッセル国の王は物語に出てくる、いかにも王様、という風貌で、俺は内心、初めて会ったときから没個性の国王と呼んでいたりする。

 その国王が立ち上がり、俺たちをこれでもかと褒めたたえる。ミアもマッツもホルストも同様だ。

 一通り俺たちを褒めちぎると、今度は奏さんとオデットさんの武勇を誉めたたえる。

 奏さんとオデットさんは経験者なのか、慣れたものだった。

 そして……それぞれの褒美の話になると、マスローさんがカルメンさんを従えて前に出てきた。


「マッツ・ロイス! そなたはこの度の武勲に際し、魔法騎士の称号と新たに創設される魔法騎士団の団長に任ずる! また、その他の褒賞は追って連絡する故、お待ちあれ!」


「ハッ! ありがたき幸せ!」


 おいおい、本当か? 魔法は分かるが騎士は無理だろう。

 カッセル王国の汚点にならないか?

 と言ってもその原点は俺の適当な話がスタートだからな……何も言えん。


「ミア・ゾフィー・シュバンシュタイン! そなたはこの度の武勲に際し、我が国の王宮魔導士として迎えたい! そして、本人の強い希望を鑑み、数年の猶予も与えるものとする。また、同じくその他の褒賞は追って連絡するものとする」


「ありがとうございます!」


 おお、良かったな、ミア。

 魔導士は無理だけどな。まあ、頑張るんだぞ。


「ホルスト・メリーノ! そなたはこの度の武勲に際し、王宮司祭に任ずる! 現在、これはフリッグ教会本部に打診中である! また、褒章は本人の強い希望で辞退するということだが、それについては追って連絡する! その時を待たれよ!」


「ハハッ!」


 良かったな、ホルスト。それにしてもお前は褒賞を辞退って欲がないなぁ。

 まあ、欲がおかしな方向に行ってるからな。仕方ないな。



※※※※※※※※※※※※※※※

ここまでお読み頂きありがとうございます。

もうすぐ一章が完結します。


↓↓↓の☆☆☆が作者の励みになります。


これからも執筆頑張りますね。

お付き合いお願いします。

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