第18話 悩める勇者と魔王
仲間の紹介の後、俺はマスローさんやリンデマンさんと共に王宮内に帰ってきた。
マッツ、ホルスト、ミアは一旦、自分の家や宿泊先に帰して、俺は王宮内の召喚されたときと同じ場所にいる。
「で、どうなの? リンデマンさん」
「うーむ……分からないですな」
実はここで勇者として召喚された俺にどんな力が付与されているのか、調べているのだが全然分からないのだ。
「魔法は駄目そうですな。魔力が少なすぎます。分かったことは腕力や身体能力は若干、高いですね。でもこれはすべての勇者に言えることらしいので付与されたものかは分からないですが。加護の類にも反応なし……」
ずっとこんな感じだ。
色々な角度から色々な手法で魔術師やら何やらに体を調べられたり、魔法もかけられたりして、俺は人体実験されている気分だよ。
「やっぱり……失敗で何も付与されていないんじゃ……」
「……………………。いえ! そんなことはないはずだと思うんですが」
何? 今、結構な間がなかった?
政治家にありがちな失敗を認められらないってやつじゃないの? それ。
「あと考えられるのは特殊能力か……ぐらいです。ある条件が整ったときにのみ発動するような。ただ……そういった能力は歴代の勇者でもほとんどなかったようですし」
「そういえば聞きたかったことがあるんだけどさ」
「なんでしょう?」
「魔王って勇者じゃなきゃ倒せないの?」
「え?」
「ほらさ、今日、紹介された仲間も……まあ、何というか、型にはまれば相当強いんじゃないかと思って。そんなに魔王って強いのか? このままじゃ、俺がいたって何の役にも立たないんですけど」
俺の言葉にマスローさんが目を剥く。
「魔王は強いに決まっておる! その魔力は大地を切り裂き、その力は大岩を砕くと伝承されているのですぞ!」
「今日の仲間たち、大地を切り裂いて、大岩を片手で持って直球を投げてたぞ?」
「……あ」
「あのさあ、もうあの人たちでよくない? 勇者いらないでしょう、これ」
「し、しかし伝承では勇者が魔王を倒すと言われてますし! 召喚された勇者は仲間たちと一致協力して魔王に立ち向かうと」
「だからそれだよ、その伝承ってやつ。勇者が魔王を倒すとか、勇者のみが魔王を倒せるとか、誰が決めたんだ? 俺が思うにこんな術で勇者を召喚して、確かに強力な力が付与されればいいが、大した力を付与されなかった場合もあるんじゃないか? 聞いていると勇者ごとで相当、個人差があるんだろう?」
「……ぬぬ」
「それにな? その仲間と一致協力してってとこだよ。弱い勇者が来たら、ぶっちゃけ強い仲間がほとんど仕事したんじゃないかと思うんだわ。そうなると事実上、別に勇者がいなくても問題はない……。俺はな、魔王を倒した奴が勇者でいいんじゃないかと思うんだ」
「……ぐ」
え? こんなショボイ意見に論破されんの?
この国の要職たちが、顔を引き攣らせているよ。
うーん……ということは勇者しか魔王を倒せない確固たる理由が失われたか、元々、そうしなきゃならない理由がなかったとか、なのか?
ふむ……俺が思うには後者の可能性が高いとみた。
昔の人の言うことが正しいとかで思考停止してきたんだろうな。エリートに限って過去の偉人の言葉を神聖視しがちだし。
すると、すまし顔のカルメンさんがフッと何かを見透かすかのように口を開いた。
「なるほど、勇者殿の意見も分かります。まさかとは思いますが、勇者殿はそんなことを言って、なるべく自分が戦わないようにと言ってるわけではないでしょうから? 真剣に考えて下さっているんですね、魔王の倒し方を。自分の力が見つかってなくとも、魔王の倒し方を模索するとか、さすがは勇者です。それだけでも勇者の資質あり! と私は考えます。いや、私ごときが口挟みまして申し訳ありません」
「ブッ!」
何故分かった!?
というか、その外堀を埋めるような言い方はなんなの?
「あ、ああ、もちろん! 魔王を倒せればいいと考えてたんだよ?」
この部分は本当だ、帰りたいですので。
というかそれなら何だっていいんです、自分。
そりゃね、アンネさんみたいな人が悲しんでいるのを見て何とかしたいとは思ったよ?
でもさ、あの仲間をみてしまうとなぁ、この国の本気度を疑ってしまうんだよ。
「おお、そういう意味でございましたか! いや、これは申し訳ない。何はともあれ、今日は休憩いたしましょう。こちらも力の付与に関しては引き続き研究していきますので」
「お、おう、分かった」
リンデマンさんがやる気をみせた顔で言い、俺は肩を落として部屋に戻った。
なんだか、酒を飲みたい気持ちってのが初めて分かった気がするよ。
街にでも出させてもらおうかな……。
「人違いで呼び出されて、俺の力は分からず、仲間も微妙。強いんだかなんだか分からん。これで物凄い強い魔王と戦えってか……」
なんか段々、馬鹿馬鹿しくなってきたな。
これで命かけろとか……いや、俺も元の世界に帰りたい、何とかして帰りたい。
アンネやミアの話を聞いて、できれば俺だって魔王倒して救ってやりたい気持ちも湧いた。あの二人には俺みたいに、気づくと家族がいないなんてことには、させたくないし。
でもさ……
「あんな仲間で魔王なんか倒せるかっての! やってらんねーわ! もう街に行こ、飲みに行こ。影丸いる?」
俺は自分で呼んでおきながら忽然と現れた影丸に驚きつつも、街に飲み行くことを告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます