第12話 勇者の仲間たち③


 

でも、こんな子まで魔王討伐に参加させられるんだと思うとやっぱり胸が痛くなる。

 だって命の危険だってあるんだろう。

 俺自身は相当、理不尽に連れて来られた。

 だから、俺に責任はないのは分かっている。それでなのか、どこか俺は他人事のような感覚がなくならない。

 でも、この子は違う。この世界の人間であるし我が事のように考えている。

それで俺みたいなどんな力があるのかも分からず、役に立たないかもしれない勇者のパーティーに派遣されてきて魔王と戦わされるなんて。

 この子も俺とは違う意味で犠牲者だと言えるかもしれないな。

 よし! この子は魔法使いってことだから常識的に考えれば後衛だ。マッツを徹底的に前面に押し立てていくか。

 場合によってはマッツを囮に逃げることも考えよう。

 俺も魔王を倒して元の世界に帰りたい気持ちは強いんだ。

そのために死んでは元も子もない。とにかくマッツを前に、が作戦だな。


「無理はしないでいこう! ゆっくりでも確実に魔王を追い詰めていく」


「はい!」


「何故だろうか、今、不思議と悪寒が走ったのだが」


 俺はマッツの言葉を無視してミアと握手を交わした。


「うむ、これが我が国の魔王討伐の中心になるメンバーです。それではそれぞれの実力をご披露しましょう! おい、準備を頼む」


 紹介が終わるとマスローが高らかにそんなことを言い出した。


「え!? 今から?」


「はいマサト殿、既に魔王は現れています。また、悪いことに少しずつ魔物たちをまとめ上げて軍の形態を整え始めたという情報も入っているのです。猶予はもうありません。いつ、軍勢を率いてくるかも分からない状況なのです。そのためにも仲間の能力と特性は、先に知る必要があるでしょう」


「そうか……分かった」


 事態がここまで切迫していること直に伝えられると緊張してしまう。

 俺は自分の能力も分からず、今のところ一般人のままだし、大丈夫なんだろうか。

 不安がよぎるが、仲間の力を知っておくことは確かに早い方がいいだろう。


「では、移動しますのでこちらに」


「え? ここでやるんじゃないの? だから、わざわざ訓練場に来たんだろう?」


「ふふふ、勇者殿、彼らの力を侮ってはいけません。彼らは我が王国の選抜者たちですぞ?彼らの力を知るにはここでは狭いですし、大事な王宮に傷をつけられてもいけません」


 マジか。

 そんなにすごいのか。

 それはちょっと心強いな。

 そんなにすごいメンバーだとは分かっていなかった。

 というより、俺は元の世界の常識で考えているからな。

そういうのは一旦、すべて取り払った方がいいかもしれない。

 そして、俺たちは王宮から馬車に乗り、場外に移動した。




 マスローの指示で馬車での移動途中に城下の街並みを見ることが出来て、俺は魔王のことを忘れてかなりテンションが上がった。

 レンガの街並み、辺りを通りすぎる人々。


「おおお! すごいな! まさにファンタジーの世界! あれは猫耳! 猫耳だよ!」


「マサト殿、落ち着いてくだされ。そんなに気になるのなら、あとで見物に出ればよいでしょう」


 横で迷惑そうにマスローさんが俺をたしなめるが、俺のテンションは上がりっぱなしだ。

 見たことのない家畜や中には少ないが人間ではない、いわゆる獣人らしき人たちもいて俺の視線を奪う。

 悔いるように外を見ていると俺は街のある一角に目がいく。


「マスローさん、あの辺は?」


「うん? ああ、あそこは市民たちの歓楽街でもあり飲み屋街ですな」


「おおおお!」


「む? 勇者殿はお酒がいける口ですかな?」


「いや、元の世界じゃ年齢制限があってお酒は飲んだことないけど、飲んでみたいとは思っているんだよ」


「ほー、そうなのですな。政治体制は個々の国で違いますが、カッセル王国では厳密な制限はないですな。まあ15歳くらいから皆、お酒を嗜んでおりますぞ」


「行ってみたい!」


「そうですか、おい、影丸」


 マスローがそう呼ぶと馬車の窓からにゅっと黒頭巾を被った顔が現れた。


「ぬわ!」


 移動中の馬車の外からいきなり現れたので俺は吃驚してしまう。


「出かける時は、この影丸を連れて行くと良いですぞ。普段は姿を消していて邪魔にはなりませんし、護衛としての腕も確かなものです」


 その影丸と呼ばれた奴は頭巾の中から細長い目だけを外気に晒して無言でいる。というより目が開いているのか閉じているのかも分からない。


「この影丸をマサト殿につけましょう、いつでもお声をかけてください」


「ま、まるで忍者みたいだな」


「……ニンジャ? そちらの世界にもこういった者たちがいるのですか!?」


「いや、大昔にいたというのを聞いているだけだよ」


「そうですか。いや、彼らはカッセル王国が誇るものの一つでしてな。王国内の影の里の者たちです。彼らは諜報や侵入に優れた資質とスキルを持った異能集団でしてな。建国以来、王国とは非常に良好な関係を保っておるのです。この者たちは無口ですが、皆、気のいい奴らですぞ。しかも非常に有能でしてな。この者たちが他国の勇者召喚現場や文献の調査、それらを書き写して盗んでき……ゲフンゲフン! それで我が国の勇者召喚研究に大いに役に立ったのです」


「……はあ」


 俺がマスローをジト目で見つめるとマスローは俺と反対方向の窓に顔を向ける。

 なるほど……こいつらを使って盗んできたのか。

 でも、それが本当ならかなり優秀なんじゃないのか、こいつらは。

 しかも影の里って……まんま忍者にしか思えない。


「よろしく頼む、えっと、影丸さんで良かったかな」


 俺がそう言うと伝わったのかどうか分からないが、影丸はすっと姿を消した。

 なんかすごいな。

 ちょっと今度、話をしてもらえないかな? 興味が湧いてきたよ。


「マサト殿、着きましたぞ」


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