第13話 勇者の仲間たち④


 どうやら、勇者パーティーの実力を披露する場所に着いたらしい。

 俺たちは馬車から降り、マッツ、ホルスト、ミアと合流する。

そして城外から延々と続く荒野に設営された天幕に案内された。

 天幕にはリンデマンさんがすでに待っていた。


「宰相閣下、既に準備は出来ております」


「うむ。では早速だが始めましょうか。ではまずマッツ・ロイスから行きましょうか」


「え!? 私からですか!?」


 マッツは驚いた顔をしてあからさまに狼狽えている。

 なんだよ、意外と気が小さいな。

 婚約者がいて風俗行くことの方がよっぽど勇気があると思うぞ。

 マッツは諦めたように前面が全開に開けられた天幕を出て行った。

 その姿も緊張しているのか、こう堂々とした雰囲気が感じられない。イケメン騎士が台無しだぞ、と言いたくなるくらい風格がない。

 このメンバーに選ばれてるんだろ? とっとと実力を見せてくれよ。

 どうやら模擬戦をするようで、マッツの相手をする戦士風の大男が現れて、体の丈と同じくらいの大剣を持っていた。


「あ、あの相手をするのか? 見た目だと向こうの方が数倍強そうだ」


「はい、実際、とても強いです。前回、王都で開催された闘技大会で優勝した者ですから。その実力が認められて、この度、騎士に叙勲されたほどの猛者ですぞ」


 うわ、そうなのか。でもそれを相手に力を見せるっていうんだからマッツは本当に強いんだろう。ここに選抜されたぐらいだしな。

 俺も緊張してきて剣を抜いたマッツを見つめてしまう。


「剣はちょいと苦手だが、気合で何とかして見せよう!」


「うん?」


 今、何て言った? あの人。

 まあ、気のせいだろう。よし、力を見せてくれマッツ。

 イケメンは好きじゃないが、これから背中を預ける仲間だ。

やっぱり、お前の格好の良いところを見てみたい。


「では、行くぞ! ぬおおりゃあ!」


 マッツは気合を吐き出し、大男に飛び掛かった。


「おお、行ったぁ!」


 俺はマッツの躍動する姿に強い騎士の片鱗を感じて見入ってしまった。

 マッツは全身を使いながら大男と数合、剣を交える。

剣と剣が奏でる金属音は想像以上に軽い音で、それが逆にこれがリアルな戦いであると緊張感を高めた。マッツの顔も真剣この上ない。

 そして、しばらくマッツの戦闘を見ていて俺には分かった。


 うん、あいつ、めちゃくちゃ弱いな。


素人目でも分かるぞ。金属音が軽いのはあいつの剣技が軽いんだわ。

 あ、もう疲れて吐きそうになってるよ。

体力ないなぁ。

 俺はマスローさんの方に目を移すと、あっれれ~? というように首を傾げている。

 ええ……知らないのかよ。

 マスローさんは俺の目に気づくと慌ててリンデマンさんに顔を向ける。

リンデマンさんも呆然としてて、マスローさんの視線に気づくと慌てて手に持っている資料をペラペラと捲りだした。

 あんたもかい。

あのさ、そういうのは最初から目を通しておくもんじゃないの。

王国とかいう政治体制のお偉いさんってこういうところアバウトなのかなぁ。


「あ! 彼は魔法も使えるようです。言っておきますが、これはついさっき届いた資料なのです!」


 はいはい、俺の心を読んだかのような返事をするリンデマンさんでした。


「でも、それはすごいな。それを見せてもらえるってことだよな? いやあ、いまのところ何も見せてもらって無いからな。吃驚したよ、このレベルで魔王討伐とかできるのかって思ったし」


 ふう、と息を吐いて周囲を見ると、リンデマンさんの報告に皆、結構驚いている。


「よく分からないけど騎士で魔法が使えるってのは、すごいことなの?」


「いえ、騎士で魔法が使える者など聞いたことはありませんな」


 すると魔法使いのミアも驚いているようだ。


「魔法が使えるのは非常に限られた人だけで、どの国でも重宝がられるんです。ですので、その才能がある人はほとんどすべて魔法学校に来ると聞いていたのですが」


「なるほど、じゃあ魔法も使える騎士は希少なんだな」


「はい、おそらくマッツさんは魔法の才能と剣の才能の両方があったのではないでしょうか。それで剣の道を選ばれたのかもしれません。騎士の家系の方のようですし、剣での戦闘がマッツさんに合っていたのでしょう」


「むう……」


 二人の生真面目な説明を受けながら俺はマッツの剣技? を見る。

 とてもカッコいい説明を受けたが、マッツが剣を振るうたびに聞こえてくるペチペチペチという音は何なのかな。

失礼だが本当にそう聞こえる。

あの人の剣は何の金属でできているの?

やっぱり異世界だからさ、これが普通なのかな。


「あの……さ、それは分かったけど、あの人、その剣が使えていないように見えるけど、それは俺が素人だから分からないだけなのかな」


 ついに俺は我慢できなくなって、直球の質問をしてしまう。


「「……」」


 あ、あれ? 返事がないぞ。二人とも前だけを向いている。

 あ、対戦相手があくびをしてるわ。

 仕方がない、これじゃ力を披露することにならない。

実際、今のままではどうみても勝てそうにないしな。

これからの仲間になるマッツに俺は声をかけた。



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