逢魔が時に逢いましょう

泉 和佳

第1話 昭和三編み女は笑わない

 春――、高校の入学式はどの生徒も浮き足立っている。

 ここは偏差値がアレなところだから特にそう。

 俺、桜田さくらだきょうは、進学校独特のあのピリピリ感と偏差値カーストが苦手でこの学校にした。(別に勉強はどこでもできるし…。)

 それに…やっぱり女子がカワイイのが多い方が良い。通りすがる女子は清楚系キレイめでもガチメイクとか、ユルフワカワイイ系とか、ギャル系がほとんど、後はヲタ系ロリ系…みたいな。

 だが、そこに一人異質なのがいる。

 彼女は前髪を海苔でも張りつけたかのようにキッチリ真ん中で分け三編みのお下げを両肩に垂らしている。

 肌がやたら白いせいで余計に白黒写真のような彼女。

「何アレ…。やばー。最早コスにしか見えんわww。」

「ハロウィンの??」

「そーそーwww。」

 アハハハハハッ。

「えーーーっヤダー。あそこだけ写真撮ったら心霊写真になるくナイ?」

「マジだ。キモォ。」

 ちょっと廊下を通るだけで周りの生徒は指を指す。

 俺はよく耐えられるもんだと呆れ半分で見ていたがどうせ関わらねぇし…。

 と、

 思ったら………。


 え?


 いる。隣に。


 隣の席に……。


 見てしまいましたよ。もうガン見。

 で…見てる内に何か面白くなってきて声をかけてみた。

(自分で言うのもなんだが顔はイケてるしWWW。)

「ね…。何か書くもの貸して。」


 ガン無視。


「ねって!」

 やっとこっち向いた。

「何ですか?」

 しゃべり方がsiriみたい。iPhoneかよ。

「いや書くもの貸してくれる?」

「どうぞ。」

 と真っ赤な鉛筆。


 アハハハッ…。鉛筆って!


 とあまりの昭和感にツボったけど。

 怖い。

 昭和女のあまりの無言ぶりが怖い。

「鉛筆、面白いですか?」

「え?……。」

 何?この女。鉛筆面白いって。真顔で聞く?

「いや……鉛筆って言うか…あアンタが?」

「私が?…………。そうですか。」

 な何この会話。何か噛み合ってないような気がする。

 その後、何か怖くて下手に話しかけなかったんだけど、妙に気になって…。チラチラ観察することはあった。

 それで…分かったことは…

 あの女の名前、藤原桜。(何か嫌だ。俺と名前の字被ってるし……。)で、以外にもお嬢様なのかいつも何かしら迎えが来る。

 彼氏?どう見ても釣り合ってないが…。

 バンドでもやってそうなジャラジャラシルバーアクセの男とか、スーツ着たイケおじとか、和服お姉さま美女とか…。

 あの女一体何なんだ?

 と思いながらも大した接点は持たなかった。

 それから暫くして

「腕。持ってかれる。」

「え?」

 は?腕?何いきなり?

 藤原桜が突然言い出した。


 何コイツ?スピリチュアル系?宗教?

 キモッ………!


「ここ数日内でカラオケ…?暗い所…行った?」

「え…あ…い行ったけど?」

 センパイ働いてるダーツバーに行ったけど…。

「何?……。」

「えー…と誰君だっけ?」

 イヤ…おなクラくらい名前知っとけよ。つーか…女だったら学校一緒なら大概俺の名前知ってるよ。

「桜田享だよ。」

「桜田君。あなた女臭いから寄ってくる。女遊びも程々にね。」


 え?女臭い?何ソレ?寄ってくる?


「あぁ。あの寄ってくるって…――?」

 藤原桜が俺の左腕をじっと見る。


「女。」


 は?


「試しに神社に入ってみて…多分あなた入れないから。」


 ホント何言ってんのコイツ…。


 それから藤原桜は何も言わずに去っていった。

 俺はこの時、アイツのこと何も知らなかったからキモチワルイし無視してたんだけど…。

 三日くらい経った辺りから左腕が筋肉痛みたいになってきて肩から上が上がらない状態になった。


 あせった。メッチャあせった。


 でもどうしたら?


 親父はクソだし、母親ババアはもっと最悪。


 家はちょっと余計萎えるからとりあえず学校行く。


 すると…

 藤原桜が教室入ってきてなり睨む。ずっと睨む。

 ただでさえ萎えんのにその上怖い。

「抑えきれないか。」

「は?」

 藤原桜が何か言ったから反応してしまった。(無視しようと思ったのに…。)

 すると、

「ねぇ…。享君。今日さーヒマ?って何?」

 満里奈が絡んできて助かった。

「イヤ?つーか…バイトだわ。」

「えぇ――~っ付き合い悪ーい。こないだもバイトだったじゃんケチぃ。」

 こんな具合で…藤原桜を無視した。

 怖いし。オカルトとか胡散臭いし。

 注ぎ込む金無いし。


 バイトしてる。でも足りない。


 当たり前だ大学に行く費用稼いでんだから。


 出来れば親を頼りたくない。

 嫌いだし、ムカつく。


 でバイト先でゴミを捨てに出た時、こんなこと本当に起こると思わなかった。


 ごみ捨て場の金網の蓋が勢いよくバシンって…

 おかしい!おかしい!だってあの蓋そんな重くないし…。


 左腕……アレ、ちょっと手を引くの遅れてたら左腕…エライことになってたかも…。


 流石にヤバいと思ってイヤだったけど藤原桜に話を聞いた。

「………。とりあえず良かったね。腕まだあって。」

 何か嫌味に聞こえる。

「どうしたら良い?」

 ここは下手に出とこう。

「………。じゃぁ…ついでだし。付き合ってくれる?」

「は?」

 そして、放課後。

 新宿駅で待ち合わせ。6時前辺り。

 こういう時間帯って何て言うんだっけ…

 あぁ、アレ逢魔時だ。


 て………。

 な何なのアイツホント……日本人形のコス…プレ。


 藤原桜、ガッツリ七五三みたいな赤っい着物で堂々の登場。


「じゃ…行くから。」

「ハイ。」


 渋々ついていく。

 周りの視線マジ卍の辛みぃ

 帰りてぇマジでぇ――――~。


 で着きました。マンション。


「何ここ?」

「集合住宅です。」

 いらねぇよその天然。

「さて、えーと桜田君?」

「ハイ。ナンでしょう?」

「私の前、歩いて。」

「は?」

 すると藤原桜、いつの間にか手に長い木の数珠を持っている。

「私の前歩いて。マンションの中に入るから。」

 な何なの?

「………。ハイ。」

 まぁいいか。言う通りに…。

 そして、中に入った。

 マンションはそこそこ年期の入ったマンションで別に何がどうと言うわけではなかった。


 でも…何だろう?何か見られてる?


 それに左腕さっきより痛い…し重い。


 藤原桜、後ろから少し離れてついてくる。


 って――!アイツ…。何か自分だけ御札持ってるし…💢。


 アホらしくなってきた。帰――え!?


 左腕何か黒い。黒いうねうねしてタコ?いやコレ髪の毛の塊…。


 解った瞬間に何かと目があった。


 と、思ったら…廊下の前、赤黒い壁が…。


 そう思った瞬間に腕の黒いヤツが赤黒い壁に飛びかかっていって、壁から腕とか目玉とかでっかい口とか……。


 桜田は声もあげられず固まっていると後ろから藤原桜が三編みを片方ほどいて何か唱えていた。

 そして、


を殺せ。」


 藤原桜がそう言うと、ほどいた三編みから蛇みたいのがいっぱい飛び出てきて赤黒い壁と腕についてた黒いのが喰われて消えた。

「終わったよ。」

 藤原桜が言った。

「お前何?ホンモノ?」

「本物の意味が解らないけど、私は所謂霊脳者です。」

「その蛇みたいなの何?」

「妹。」

「………………………………え。」

「だから妹。綾って言うの。」

「妹。」

 イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ。


 人間ちゃいますやん!?


 藤原桜、なんてヤバい女。

 それから後で聞いたんだけど俺に付いてたのアレ…。俺がヤれるかどうか遊びで落とした女の思念と母親ババアの執着だったらしい。

 で、

 アレが赤黒い壁に向かっていったのは縄張り争いみたいなヤツで…。

 どっちが俺を祟るか取り合ってたらしい。

 そして、藤原桜がとどめをした。

「根本的な解決をしないとまたくけど、どうする?」


 は!?


「どうしたら?いいのカナ?」

「お母さんとの関係改善しかないと思うよ?」


 ウソだろ………。


 俺は暫く藤原桜と付き合うことになりそうだ。











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