3年F組クラス転移 帝国VS28人のユニークスキル。剣と魔法の世界に召喚された高校生はざまぁかましてエルフの廃墟でのんびりスローライフのつもりが人類の危機に立ち上がり団結チートで国を相手に無双する
第24-5話 飯塚清士郎 「ポンティアナックとの戦い」
第24-5話 飯塚清士郎 「ポンティアナックとの戦い」
迎え撃つのは決まった。
あとは、どうおびき寄せるか。そこが問題だと思ったが、ヴァゼル伯爵は簡単だと言う。その方法を聞いて、耳を疑った。
それから準備に一時間。里の大通りに等間隔で杭が打たれた。そこにロープを張り、たくさんの小さな旗がはためく。
二度と見たくない光景だが、その旗とは、男子全員のパンツだ。
「キング、これは……臭ってきそうだな」
「プリンス、それを言うなよ」
ヴァゼル伯爵が俺らの会話を聞き、にやりと笑う。
「それが良いのです。あやつは狼並みの鼻を持つと言われます。これだけあれば引き寄せるでしょう」
パンツがはためく大通りの両端で迎え撃つ。こっちはヴァゼル伯爵に俺とキング。反対の端がハビスゲアルとジャム師匠だ。
あとの戦闘班は、里の各所に身を潜ました。そのほかは山すその林に避難している。
それからしばらく待った。途中に喉が渇いたな、と思ったら、ノロさんが水を持ってやってきた。
「気が利くな。ありがとうノロさん」
ノロさんが笑う。この人は、ほんとうに優しい先輩だ。
カップを受けとり水を飲んでいると、日が陰った。いや、今日の空に雲はない。空気が変わったのか。
「ノロさん、急いで隠れて」
優しい先輩は、うなずいて駆け去っていった。
ばさっ、ばさっと羽の音が遠くから聞こえた。こちらに近づいてくる。見えた。あれがポンティアナックか。
黒く大きな翼を羽ばたかせ、ぼろぼろの服と長い白髪が風になびいている。
里の上まで来ると、上空をぐるぐると旋回した。時おり「カカカカッ」と鳴るのは歯ぎしりの音か。
大通りの中央に下りた。靴は履いていない。ヴァンパイアのような見た目を予想していたが、ヤマンバのような老婆だ。
はためくパンツの一つに近づき、匂いを嗅いだ。あの大きいのは誰のだろう。相撲部で身体が大きいゲンタのか。今ごろ物陰で股を押さえているかもしれない。
どっちに来るか。老婆は道の両端を見て、俺たちの方に歩いてきた。
「ほほう、やはり若いほうに来ましたか」
伯爵、自分も入ってるように言ったが、百歳を越えてなかったっけ?
老婆が手を身体の前にかざしたと思ったら、爪がにゅっと伸びた。
ヴァゼル伯爵が老婆に手のひらを向け、何かをつぶやき始める。俺はいつでも踏み込めるように足を開いた。剣の柄を握る。
ヴァゼル伯爵が、どん! と空気を押すような仕草をすると、老婆に黒い霧が集まった。これが伯爵の魔法か。魔法というより呪い、呪術に近いのかもしれない。
老婆が伸びた爪でその霧を引っ掻くと、霧は空中に消えた。
「シャー!」
老婆は獣のような鳴き声とともに、手のひらをこちらに向けた。
手のひらから黒い波のような物が押し寄せる。
ヴァゼル伯爵が数歩前に出て、両手を開く。黒い波は伯爵の手前で壁にぶつかるように四散した。
ふいに老婆は舞い上がった。老婆のいた場所に火の玉が飛ぶ。当たらなかった火の玉は俺たちの手前で消えた。当たってなくても熱気は伝わる。
「危ねえ、これ、ハビじいに使われなくて良かったな!」
まったくだ。最初に会った時に使われたら、やばかっただろう。
二発目の火の玉が空中の老婆に当たった。落ちてくる。俺は走った。落下地点で剣の柄を下向きに握る。爺さんに教わった抜刀術。
老婆が真上にきた。抜くと同時に斬った。そう思ったが、刃は老婆の爪で止まった。爪は10cm程度のものだが、俺の刃を受けても折れていない。ふいに老婆が身体を反らした。キングの蹴りが空を切る。
老婆が俺らから離れた。うしろから火の玉! これは老婆が避けたら俺らに当たると思ったら、老婆は爪で火の玉を切った!
老婆は爪を戻し、片手を大きく開いた。それをゆっくりと握っていく。なにをする気だ?
「うおっ」
向こうのハビスゲアルとジャムさんが呻き声を上げ、膝をついた。
もう片方の空いた手を俺らに向けて握る。身体の骨がきしんだ。思わず膝をつく。これはきつい。
ヴァゼル伯爵は? 伯爵のほうを見ると、伯爵も動けないようだった。五人同時かよ!
老婆は五人を舐めるように見回し、ヴァゼル伯爵に目を止めた。
「同族か。若造が」
こちらに向けていた手をさらに絞る。身体の痛みがさらに増した。
「若造とな? 誰の前でものを言うておる」
聞きおぼえのある声とともに、強烈な吹雪がきた。
吹雪は俺とキングをかすめ、老婆に当たった。そのまま吹き飛ぶ。
空中に光が集まり、それは菩提樹の精霊となった。忘れてた。こっちにもバケモノが一人いた。
「お主が何歳か知らぬが、わらわは一万年を生きる太古の樹ぞ」
菩提樹はさらに、老婆に向けて手をかざした。
老婆の表面に
みんなが隠れている方向だ。急いで立ち上がろうとしたが、体がきしんで動かない。その時、小さな羽音がした。
「ハネコ! 危ないから隠れてろ!」
小さな妖精は俺の上でぶるぶる! と羽を震わせた。金の粉が俺にかかる。痛みが和らいだ。お前、癒やしの呪文を使えたのか!
立ち上がった。山すそに駆け出す。老婆のほうが圧倒的に早い。
山すそから誰かが斜めに飛び出した。まっすぐ向かっていた老婆が旋回してそれを追う。逃げる者は腰に剣を差していた。ウルパ村のやつか? いや、髪を短くしたセレイナだ。みんなから離すために囮になるつもりか!
追いつかれる! そう思った時、セレイナが剣を振った。老婆がそれをかわす。ぐるりと後ろに回った老婆はセレイナの両肩を掴んだ。翼を広げ羽ばたく。セレイナの体が持ち上がった。
翼が羽ばたくごとに、ゆっくり上へ上へと昇っていく。セレイナが苦悶の表情を浮かべた。掴まれた両肩に爪が食い込んでいる!
「プリンス殿ー!」
木の家の下から出てきたのはカラササヤだ。
「セレイナ殿を頼みます!」
そう言って槍を担ぐように持った。
「
助走をつけて槍を放った。槍投げのスキルか!
槍は一直線に飛び、老婆の羽を貫いた。俺はその下へ駆け出す。駆けながら刀と
真下に着いて上を見る。老婆は穴の空いた翼で何度か羽ばたき、セレイナを離した。落ちてくる。セレイナが両手を広げた。俺が受け止めやすいようにするためか。俺が避けるとか考えないのかよ。両手を上に伸ばした。衝撃を止めれるか?
掴んだ瞬間に力を込めた。そのまま体にぶつかる。セレイナは顔が下だ。倒れるが手は離さない。後頭部を守るため自分の顎を引いた。背中に地面の衝撃がきて息が止まる。
セレイナが俺の胸の上にいた。なんとか止めたようだ。
「・・・・・・痛ぁ」
意識もあるようだ。
「おい」
「ん?」
「意識あるなら、降りろよ」
「バレた? チャンスだと思って」
「なんだよそれ」
「普通の時にしたら、みんなに怒られちゃう」
「馬鹿か。俺はアバラが何本かいってるぞ」
これは本当だ。左のアバラと肺から激痛がする。
「ごめん!」
セレイナはすぐに起き上がって、俺を起こそうとした。だか、セレイナも足を痛めたのか、立ち上がってよろける。
近くでむっくり起き上がる人影。
俺は、普段なら使わない言葉が思わず口から出た。
「ババア、しつこいぜ」
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