第16-2話 小暮元太 「ゴーレムとの決闘」

「ゴーレム?」

「土で作った人形に、命を吹き込んだ物」


 横にいた遠藤さんが、ぼくに聞くので答えた。


「これなら、魔法は消せぬぞ。異世界の子らよ。さて、どう戦う?」


 ローブの老人は自信満々だ。


 ゴーレムは荷台から降りた。こっちにゆっくり歩いてくる。高さは三メートルはあるかも。


 こっちの五人はゆっくり下がった。


「お茶目な落書き!」


 ゲスオくんが遠藤さんにタッチした。


『プリンス! 大丈夫?』


 姫野美姫さんの声だ。遠藤さんの通話スキルを全員に拡張したのか。


「どうだろうな、やってみないと」

「動き鈍そうや、いけるで」


『コウ、無理すんなよ!』


 この声は、コウくんと仲がいいタクくんの声か。


『ちょっとみんな、話すの控えて! プリンスのほうの状況だけ、誰か伝えて』

「オッケー。あたしにまかせて」


 遠藤さんが答えた。ぼくはしゃべらないほうがいいだろう。


 プリンスとコウが剣を抜いた。コウが早い動きで背後を取る。剣で斬るが「キン」と硬い音がした。


 次にプリンスが正面に間合いを詰める。詰めたと思ったら、横に動き、飛び上がって頭に剣を刺した! 「パキッ」と音が鳴る。プリンスの剣が折れた!


 呪文を唱え続ける老人が、にやっと笑った気がする。


「ヒメ! プリンスの剣が折れた! このバケモノ、剣が効かないみたい!」

『ももちゃん、無理せず逃げてよ! その敵だったら、相性いいのはゲンタくんぐらいしかいない』


 ええっ? ぼく?


「姫野さん、ぼく?」

『そう、剣がダメな相手は、ぶったたくとかしかないの。でも、無理しないでいいから!』


 そうか。姫野さんは、ぼくのスキルを知っている。ぼくのスキルは単純に力を強くする、それだけの単純なスキルだ。


『逃げるのって、いつでもできるぜ。せっかくなら、一発かましてみれば?』


 横から入ったのは、キングの声だ。


『ちょっと! 無責任に言わないでよ!』

『だって姫野、プリンスとコウ、ゲスオもいるんだ。危なくなったら、なんとするさ』 


 逃げるのはいつでもできる、か。キングくんは、いつも青臭い。


 ぼくがいた相撲部は三名しかいないので、だいたいの大会には人数が足りなかったりする。あきらめていたのに、学校中から臨時の部員を集めてくれたのは、キングだ。


「やってから考えようぜ」


 と、あの時もキングくんは言ってた。ただ、キングくん、臨時で入ったのに、けっこう勝っちゃうから恐ろしい。


 ・・・・・・やってから考えるか。よし!


「ぶちかましてみます!」

『おお! そういや、ゲンタって相撲部だった。ぶちかませ!』


 男子から「オー!」という声援も入った。


「ヒメ、ゲンタがシャツ脱いだよ」

『ええっ! そこ脱ぐ必要なくない?』


 顔に張り手をして、気合を入れる。


 スキルの発動はスキル名だ。


 息を思いっきり吸って叫ぶ。


「元気ですかー!」


『そっち!』


 耳から大勢の人のツッコム声が聞こえた。元気があればなんでもできる。


「中継まかせて!」


 遠藤さんが咳払いをして、のどの調子を整えた。


「全国7万5千人のプロレスファンのみなさま、お待たせいたしました。プロレス中継の時間です」


「その中継かい!」


「今日の実況は、わたくし遠藤もも。ゲスト解説にゲスオさん、プリンスさん、コウさんに来ていただきました。よろしくお願いします」


「お願いします」

「……」

「プリンス、無言やん!」


「さて、ゲスオさん、今日の時間無制限一本勝負。ずばり見どころは」

「やはり体格差でしょうか。ゲンタ選手もヘビー級ですが、相手はさらに上。正面からは行かないでしょうね」


「遠藤はプ女子だったんかい!」


「おおっと! こちらの予想に反し、がっぷり手四つ。ゴーレム選手が上から体重をかける」

「いけませんね。力勝負をしては」


「これにはゲンタ選手も膝を……おおっと! ヘッドバットで奇襲だ!」

「相手の目でしょうか。目の位置に埋め込んでいる石に頭が当たりましたね。思わずゴーレム選手も腕を放しました」

「目は反則ですが、レフェリーは止めません」


「レフェリーおらんて! っつうか、わいは、あれか? ツッコミ役なん?」


「おや? ゲンタ選手、相手に背を向け走って距離を取った!」

「何か、狙ってますね」

「そこから助走しての……ドロップキック! ドロップキックー! これにはゴーレム選手も後ろに倒れる! いかかでしょう? 今の技、ゲスト解説のプリンスさん」

「……両足がきれいに揃い、当たる瞬間にバネのようにぶつけました。見事です」


「プリンス乗るんかい! んで、なにげに知っとるやん!」


「さあ、ゴーレム選手が起き上がり……おや? ゲンタ選手を見失ったようです」

「うしろですね」

「ああっと! ゲンタ選手、うしろからゴーレム選手に腕を回した!」

「バックドロップの体勢です」

「ぬけるか! ぬけるのか!」


 想像以上に重い。気合を入れよう!


「行くぞー!」

「ゲンタ選手ほえたー!」

「1・2・3!」

「ダー!」

「ぶっこぬいたー! そしてがっちりホールド! これは3カウント入るか?」


「うん? わい? わいの役目なん? ニンニン!」


「レフェリーが素早く駆け寄る。ワン・ツー・スリー! 決まったー! ベルトを手にしたのは、挑戦者のゲンタ選手だー!」


 胴を持った手を放し、ブリッジした体勢から立ち上がった。ゴーレムの頭は地面に打った衝撃で、体にめり込んでいた。


 ピクリとも動かない。良かった。倒せたようだ。


「放送席ー放送席ー、それではゲンタ選手に、勝利の一言をいただきたいと思います。勝った感想を一言」


「ごっつぁんです!」


「最後だけ相撲かい!」

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