第17-1話 遠藤もも 「洞窟のダメンズ3」
視点変わります。ももちゃんこと遠藤もも
ほか今話登場人物(ニックネーム)
小暮元太(ゲンタ)
沼田睦美(むっちゃん)
土田清正(ダメンズ3)
魚住将吾(ダメンズ3)
茂木あつし(ダメンズ3)
山田卓司(タク)
花森千香(花ちゃん)
ヴァゼルケビナード(ヴァゼル師匠)
根岸光平(コウ)
ジャムザウール(ジャムさん、ジャムパパ)
有馬和樹(キング)
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「もも、ダメンズ3と連絡取れる?」
ヴァゼル忍者クラブで、早朝練習をしている時だった。女子の一人から声をかけられる。
「モシモシ!」
耳に手を当てて言った。あたしのスキル「遠隔通話」だ。でも何も聞こえない。相手が気づいてないというより「圏外」っぽい。
「あいつら、多分あそこで寝てるわ。あたし起こしてくる」
「ダメンズ3」とは、本人たちが自虐的にそう呼んでいる。目論見が外れて、スキルがまったく役に立たないからだ。この世界でスキルが役に立たないというのは、かなり気の毒。
せっかくの異世界。魔法が使えないので、スキルぐらいは使いたい。
この世界に来たばかりのころは、魔法とか使えるかも! とわくわくしたが、あたしたちが魔法を使うのは無理みたい。頭良い人グループが言うには、地球の人間と、ここの生物はタイプが違うっぽい。
剣を鞘に戻し、腰に差した。広場をあとにする。
広場の隅で素振りをしている大男を見つけた。小暮元太だ。手にしているのは……石斧? 木の棒に石をくくりつけている。おお、そんな武器に行き着いたのね。
あの街への買い出しは、けっきょく中止になった。
敵のゴーレムに勝つと、ローブの老人はあっという間に逃げ出した。残されたのは荷車が一台。それを引いていた馬が二頭。それを捨てていくのは、もったいない。
馬ごと荷馬車を連れて帰ることにした。それ以降、街への買い出しは見送り。また見つかったらやっかいだ。
「ももちゃん?」
呼ばれて振り向いた。「むっちゃん」こと沼田睦美だった。
「洞窟?」
「そう、ダメンズ3、またあそこで寝てるわ」
「じゃあ、私も。そろそろランプ切れてるはずだから」
ランプとは、むっちゃんが光らす石だ。洞窟なので四六時中ランプがないと見えない。
洞窟は、この「隠れ里」を囲う山の中腹にあった。かなり深い洞窟で、前の住人が使っていた形跡もある。
食料が自給自足でいけるのが、この洞窟のお陰が大きい。岩塩が取れるからだ。
むっちゃんと話しながら、洞窟に向かう。
話題は、部屋に置く「むっちゃんランプ」に何が似合うか? 女子に人気なのは花や葉っぱ。二つほど置いておくと、いい雰囲気の部屋になる。
「男子で人気なのって、何?」
「んー、ただの石が多いけど、一部で人気なのは、動物の頭蓋骨」
「うげっ。男の子の趣味って永遠の謎だわ」
「あれ? ももちゃんは理解ありそうな気がした」
むむ、プロレス好きがバレたので、あたしは男性っぽいと思われているのか。
そんな話をしていると、洞窟の入り口に着いた。むっちゃんが入り口すぐの石にさわる。
「ピカール!」
ちょうど台座のような岩の上に置かれた石が光る。
明るくなった洞窟を進み、点々と置かれたランプ代わりの石を灯していった。
洞窟の最深部で、三人が寝ていた。一番近くの土田清正くんを起こす。
「土田くん、起きて!」
「んあ?」と間抜けな声を上げて、土田くんが起きた。
土田くんのスキルは、酵母菌を見るための顕微鏡になる目。
土田酒造の跡取りであった土田くんは、この異世界でも酒を造ろうと目論んだらしい。
悲しいかな、麦はあっても米がない。味噌と醤油も酵母で作るが、豆もない。酒はどうでもいいけど、豆はぜひとも手に入れて、味噌と醤油は作って欲しいな。
「なんだ、ももかよ」
気だるそうに起きてきたのは、魚住将吾くん。
魚住くんは、もっと悲惨だ。釣り竿がなくても釣れるというスキルらしい。けど、この付近に海もなければ池もない。
この里の入り口に川はあったが、清流すぎるのか、魚はいないようだった。
「おうおう、なんでい! もう朝かい?」
「茂木くん、江戸弁ぶらないでいいから」
茂木あつしくんは、悲惨というより切ない。
茂木くんの父親は大工だ。小さい時から、自分も大工になると決めてたらしい。
そうなると、この異世界での物作りは自分の役目だと思った。付けたスキルは「糸ノコギリ」だ。
ところが、この「隠れ里」があったお陰で、家を作る必要はない。みんなの役に立とうと頭をひねった結果、今のとこ、無用のスキルとなってしまった。
「もう、三人とも、あたしの通話が届かないんだから、自分で起きてよね!」
ダメンズ3は岩塩の発掘を買って出たのだが、化石がたまに出るらしい。昼は岩塩を発掘して、夜は化石掘りにハマっている。
まったく、男子の趣味って、わからんわ。
「もも、遠藤ももよ」
地面からとつぜん、女の霊が出てきた!
「うううわぁぁぁぁ!」
五人ともが腰を抜かした。
「あっ、おどかしてすまぬ。わらわじゃ」
よく見ると、菩提樹の精霊さんだ。
「もう、精霊さん! ここ洞窟よ。雰囲気ありすぎ!」
「すまぬ。ちとまずいことになった。わらわの元まで急ぎ、駆けつけられまいか?」
何がまずいのか? でも精霊さんが言うのだから、かなりまずい!
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