第15-2話 姫野美姫 「スマホスキル」

 コーラって、嘘でしょ!


 わたしも駆け寄る。急いでカップに注ぎ一口飲んでみた。


 ほんとだ、コーラだ。気の抜けたコーラ。でも微炭酸だけど、ちゃんと炭酸!


「どうやったの?」


 作ったドクに詰め寄る。


「どうって、シロップと炭酸で」

「甘みは?」

「鑑定スキルで見つけた。砂糖大根みたいなのがあってね、それを煮詰めて」

「炭酸は?」

「重曹は炭酸水素ナトリウムだから、そこは簡単に……」


 さっき思ったけど、ケタ違いがいた。これは才能とスキルのスーパー無駄遣い!


 もう、ため息しか出てこない。元いた場所に座って、食事に戻る。


「師匠ー!」


 なんの声かと思ったら、ヴァゼル伯爵がコーラを吹き出した。初体験だと、そりゃ刺激が強いよ。


 それを見てたジャムパパが、そっと飲むのをやめたのも見えた。


 食事を終えて、コーラをちびちび飲む。


 光る菩提樹をしみじみ眺めた。


 周りでは、みんなが浮かれたようにしゃべっている。ここまで大変だったので、無理もない。


 あっ、と思い出して表計算を出した。残りの食料を計算しとかないと。


「ワーカホリック、仕事中毒ね」


 透き通る声に振り向くと、高島瀬玲奈だった。


「今ぐらい、明日を考えるのをやめたら?」


 セレイナの意見はもっともだ。表計算をしまった。


「ヒ、ヒメ、あれ……」


 プリンスが通りがかった。それは問題ではない。問題は全身が光ってることだ。連れている妖精まで光っている。


「プリンスそれ……」

「ああ、生き物でも光るか? って実験で、ジャンケンしてキングに負けた」


 颯爽さっそうと去っていく。プリンスは切れ長のハンサムだ。それが光ってるんだから、美的破壊力がすごい。


「彼、変わったわよね」


 セレイナが言った。


「ほんと。何が人を変えるのか、永遠の謎だわ」

「アタシは、けっこうわかるわよ」

「ええ?」

「昔から、チヤホヤされてたから」


 そりゃあ、チヤホヤされるだろう。小さい時の写真を見たことがあるが、おめめクリクリ、まるで天使だ。


「だから、このクラスに来て良かったわ。井の中のかえる。よくわかった」

「あー、キングとプリンスがいるから?」


 セレイナが、わたしを見る。まつ毛長っ! いや、そうじゃないか。


「まさか、わたし?」

「才色兼備ってのが、ほんとにいるって思い知ったわ」

「わたしが? ないないない!」


 ぶんぶん手を振った。


「しゃべらなかったら、もっとモテてるわ」

「わちゃ。反論できない。あと胸とね」

「それで胸があったら嫌味よ。そのぐらいでいいの」

「わたしは良くない」

「もう少し欠点欲しいぐらい。何かないの? 水虫とか」

「ぎゃはは」

「クラスにヒメがいて良かった」

「むむ。照れますな」

「だから、あんまり無理しないで」


 セレイナが言いたいのは、そこなのね。私はうなずいた。


『ちょっと! 我がクラスの女子ツートップが、そんな隅にいないでくれる?』


 急に声が届いた。


「ももちゃん! おどろくから急はやめて!」

「えっ? 誰?」


 セレイナが周りを見た。そうだった、セレイナには聞こえないんだった。


「遠藤もも、彼女のスキルはスマホ。いや画像はないからケイタイか。電話できるの」

「そんなスキルあるんだ!」


 ももを見つけたので、セレイナに教える。こっちに手を振って、片手は耳を押さえていた。隣には、コウとタクの二人がいる。


『今、コウたちと話してたんだけど、あたしもヴェゼル忍者クラブに入ろうと思うの』


 ヴァゼル忍者クラブ……そんな名前になったのか。


『あたしのスキルって、これ向きかなって。あたしが中継基地になれば便利じゃない?』


 たしかに軍事的に言うと、索敵とか斥候向きだ。身体が小さいのに、バスケ部でレギュラーだった機敏さもある。


「うん。わかった。無理しないでね」

『りょ。あ、さっきプリンス見たわよ! ちょっと女子も負けてらんない。どっちか光ったら?』

「なんの勝負よ!」

『じゃあ、せっかくだから、セレイナに一曲でも歌わせればいいのに』


 不思議そうな顔をしているセレイナに伝えた。


「一曲歌えって」

「ええ! 嫌よ」

「セレイナは嫌だって」

『ケチだなぁ。減るもんでもないのに』


 とつぜん通話は切れた。


 遠くにいたゲスオが、はっと顔を上げ、ももに向かって駆けていく。


 今日は、嫌な予感しかしないわね。

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