第15-3 姫野美姫 「異世界子守唄」

『あー、あー、みなさま、業務連絡、業務連絡』


 うはっ! 通話スキル改変して、みんなへの通話にしやがった!


『セレイナの歌聴きたい人、手を上げてー』


 みんなが手を上げた。ここに集まってくる。


「ええー! ヒメー」

「わたしも、セレイナの歌好きよ」


 自分は邪魔だから、セレイナから離れた。うしろが光ってる菩提樹だから、ステージみたいでちょうどいい。


 みんなが口々にリクエストする。邦楽から洋楽まで、てんでバラバラ。おいおい、デスメタは違うだろ。


「ヒメー」


 困った顔のセレイナ。


「みんなが知ってるのでいいんじゃない? 童謡とかでも」


 セレイナがうなずいた。


 それからちょっと考えて、ゆっくりと息を吸った。


 ♪~名も知らぬ 遠き島より

 流れ寄る 椰子の実一つ~♪


 あっ「椰子の実」だ。なにげに好きな曲。


 歌い終わると、万雷の拍手。なぜか菩提樹から精霊まで出てきた。


「良い歌の奉納ほうのうでありました」


 奉納? あっそうか。歌って神様へ捧げたりするもんね。


「こちらも返礼いたしましょう」


 精霊が自分の樹に手を振ると、ニョキニョキ芽が出てきた。それは白く小さな花となり、満開の花びらが散った。


 花びらを掴もうとすると、すり抜けた。これは精霊さんの幻影か。精霊が、その場に留まる。もう一曲歌えってことね。


「みんな、もう遅いから、次で最後にしよう」


 ブー! と一斉にブーイング。


「いやだ! いやだ!」

「我々は立ち退かんぞ!」

「権力の横暴だ!」

「そうだ! そうだ!」

「アンポハンタイ!」

「ヤンキーゴーホーム!」


「やめい! 微妙に問題発言入れるな!」


「反対! ハンターイ!」

「そうだ! そうだ!」

「ハンターイ!」

「オッパイ ハンターイ!」


「……最後のやつ、一歩前出ろ」

「うっ、拙者せっしゃ、急にお腹が」


「……セレイナ、ゆっくりな曲をお願い」


 セレイナがうなずく。


 ちょっと考えて、ゆっくり身体を揺らし始めた。リズムを取っているのかな。プロだなぁ。


 ♪~ゆりかごのうたを

 カナリヤが歌うよ~♪


 うわぁ「ゆりかごの歌」か。寝る前だから子守唄っていいかも。


 歌うは学校一の美人。その後ろには大樹が光り、白い花びらも舞っている。もはや、ミュージックビデオね。


 鼻をすすってる音が聞こえだした。


「ゲスオのスキル強いわぁ」


 男子の誰かがつぶやいた。


「いや、拙者……」


 言いかけたゲスオを目で威圧する。


「そ、そうでござるな。ブーストは効くでござる」


 そうだよ。遠く離れた世界で聞く「子守唄」は心に響きすぎる。


 わたしは目を閉じ、歌声を追った。


 ちょっと考えを改めよう。才能とスキルの無駄遣いって、とってもいいもんだわ。

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