第13-3話 喜多絵麻 「飲み込まれた花ちゃん」

 ふいに、一人の男子が歩み出た。


「俺、いけるかも」


 渡辺くんだ。映画マニアで幻影のスキルがある渡辺裕翔くん。


「菩提樹さん、俺って、幻影を出せるんです。俺に話しかけてみてくれませんか?」

「……やってみましょう」

「リアリティフレーム!」


 渡辺くんが空中に手をかざした。映像は出てきていない。いや、何か白い霧が集まってきた。霧が女性の形になる。


「精霊のわらわを脅すとは」


 霧の女性がしゃべった!


「知らねえっての。そっちが勝手にやるのが悪い。んで、用は?」


 菩提樹さん、黙っちゃった。霧が揺れたのを見ると、怒ったのかもしれない。


「わらわに、寄生樹がついておる。それを取り除いて欲しい」

「なんで?」

「なぜと? わらわは太古の樹ぞ!」


 霧でできた人影だけど、ぷるぷるしているのがわかる。


「そう言われても、おれはどっちの味方をするわけでもないし。どっちが悪者かもわかんないし」

「菩提樹は、その地に生命と魔力を与える者。寄生樹はそれを吸い取って生きているだけの者!」

「なるほど。んじゃ、お前を助けて、おれらは何か得がある?」


 精霊さんが口を開けて固まった。言葉を失うって、こういうことね。


 ここで意外な人物が歩み出た。


「わしらのような昔から住んどる者には、菩提樹さまは恵みの樹とされております。どうか助力を」


 村長さんだ。


「この土地の者か。そう、わらわは恵みの樹と呼ばれておった」

「はい。まさか精霊さまのお姿を見ることができるとは……」


 村長さんの話では、この辺りに昔はいっぱいの菩提樹があったらしい。でも木材として固くて使いやすいので、伐採されて今はほとんど見ないとか。


「お前、ちょっと、かわいそうなやつなんだな。ここも枯れ木ばっかでさみしいし」

「わらわが復活すれば、木々は蘇り作物は実るでしょう」

「それ別に得でも……あっ、じゃあ、おれらがここに住んでもいい?」


 えっ? キングの唐突な提案に、女子の何人かと目が合った。


「昔はエルフ族が住んでおったが、今では誰もおらぬ。望むなら、この地に住むことを許しましょう」

「わかった。ちょっとみんなと相談するわ」


 ぽかんと眺めていたみんなは、気を取り直し、相談することにした。


 しかし精霊に対して物怖じしないキングくんて、やっぱりすごい。彼は「みんなを守る」というのが、ほんとに第一なのね。私だったら、精霊の雰囲気に押されて膝でもつきそう。


 倒れた花ちゃんは意識を取り戻した。口寄せされてる間のことは、覚えてないみたい。花ちゃん、おしい!


 キングとプリンス、それにヒメちゃんが中心となって、話がまとまる。


 私に意外な役目がまわってきた。


「よし、菩提樹とやら、こっちで考えた作戦を言うぞ」

「なんでしょう?」

「その寄生樹ってところに、スキルで一瞬火を付け、すぐに掃除で消す。どうだ?」


 私のスキルと友松あやちゃんのスキルだ。


「いいでしょう。最後に、さきほどの子の力を与えてもらえますか?」

「うん、花森? 癒やしのスキルか?」

「そうです」

「なんで、花森のスキルを知ってる?」

「その子の内部に触れましたので」

「なんか危ねえなぁ。もう勝手にするなよ」

「……はい」


 菩提樹が怒られている。


 私とあやちゃんで樹の前に立った。取り付いている木の顔の部分に狙いを定める。


「チャッカマン!」

「ケルファー!」


 うまい具合に顔の部分だけがなくなった。ほかにも木の顔はいくつもある。順々にそれを消していく。


 最後の顔を消すと、バラバラと音を立てて絡まっていた木が落ちた。


「ありがとう、人の子らよ。では、癒やしの力を」


 花ちゃんが菩提樹に手を当てた。


「お注射!」


 樹がバキバキ! と音を立てて、枝が元気よく伸びた。早送りをしているかのように、枝には新芽ができ、葉が育つ。


 樹の幹がだんだん太くなり……


 花ちゃんを飲み込んだ。


「花森!」


 キングが拳を握った。


「待てキング!」


 止めたのは山田のタクくんだ。


「カッパッパ!」


 タクくんがざぶん! と樹の幹に沈んだ。


 しばらくして、タクくんが花ちゃんを抱えて出てくる。


「おい、菩提樹!」


 キングくんが精霊に向かって怒鳴った。


「申し訳ありません。あまりに巨大な力が流れ込み、調整ができませんでした」


 鬼の形相で振り返るヒメちゃん。ゲスオくんがささっと逃げ出した。花ちゃんの癒やしにブーストかけてたみたい。


 でも良かった、意識はあるようだ。目を見開いている。


「びっくりしたぁ! それに中は木くず臭くて!」


 ……花ちゃん、樹に食べられた感想がそれなんだ。

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