第10-1話 花森千香 「村長の村」
視点変わります。花ちゃんこと花森千香
ほか今話登場人物(呼び名)
飯塚清士郎(プリンス)
有馬和樹(キング)
姫野美姫(姫野さん)
ヴァゼルゲビナード(ヴァゼル伯爵)
根岸光平(コウくん)
山田卓司(タクくん)
蛭川日出男(ゲスオくん)
友松あや(友松さん)
坂城秀(ドクくん)
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「おい花森」
いつのまにか背後にプリンスがいた。
飯塚清士郎くん。いまはもう、みんながプリンスと呼んでいる。有馬和樹くんもキングって名前で呼んでいいと決まった。
プリンスが声をかけてきた理由はわかる。みんなのいる焚き火から離れて、花を見ていたからだ。
「あんま離れんなよ」
「はい」
3年F組の「北風と太陽」とよく例えられる二人。プリンスがもちろん北風だ。
眠い目をこすり、みんなの元へ歩く。昨日は
私の家は代々つづく花屋だった。「花森花屋」という店は、母が「ハナ♡ハナ」に改名した。小さい頃から「ハナ♡ハナ」に出入りしてたので、花には詳しい。それでも、ここは異世界なので、見たことがない花が多かった。
あっ、気をつけないと。現実の世界でも毒のある花は意外に多い。ながめるだけにして、摘み取るのはやめておこう。
「花ちゃーん!」
私を呼んでいるのは姫野美姫さんだ。あわてて走っていく。
男子の一人が、腕に傷を作っていた。山猫のような動物に襲われたらしい。急いで私のスキルで治す。
出発の準備をして、男子たちが焚き火の痕跡を消していた。目指す行き先は、老夫婦のいた村。森を抜け、山を一つ超えるとあるらしい。昨日に乗った馬車は使えない。
今日は歩き。みんなの足を引っぱらないか、そこが不安。
その不安は的中し、半日ほどの山を登っていると足がガクガクだった。足の遅い人は、私を含めて数人いた。
山の途中に野宿で一泊。次の日に山を下りることができた。そしてようやく、人の作った道に出る。
歩いていくと、先頭が止まった。
「あれ、煙じゃないか?」
プリンスが歩く先の空を指して言った。
「見て参りましょう」
そう言ったのは、私が昨日、治し過ぎたらしいヴァゼル伯爵。
「師匠、わいらも」
意外な声は、陸上部のコウくんこと根岸光平くん。それに水泳部のタクくんこと山田卓司くん。
三人が下見に行き、しばらくすると戻ってきた。老夫婦と話をしている。コウくんも、タクくんも、けわしい表情。老夫婦が泣き崩れた。
キングやプリンスを中心に、なにか話がされている。近づいて聞いてみた。
「おれ、タク、コウ、ジャムさん、伯爵の五人で行く。プリンスはみんなをたのむ」
「不満はあるが、まあ、しょうがないな」
「伯爵、相手は十人で間違いない?」
「この目でしかと確認しましたぞ」
盗賊のようなものが村を襲ったらしい。今その盗賊は、村長の家で酒盛りをしているそうだ。
「ぐふふ、
ゲスオってすごいあだ名の蛭川日出男くん。今は、ふざけてる時じゃないと思うのに。
「ゲスオ、今回はダメだ。危険すぎる」
「拙者がおらねば、不測の事態に対処できませぬぞ」
「十人との戦闘だからな、そこまでにはならない」
キングは軽く言ったけど、戦闘。映画でも見てるみたい。
「では、今後、拙者は協力いたしません」
「ゲスオ! ふざけんなって」
珍しく、ゲスオくんがごねている。
結局、ゲスオくんは戦闘に入らないけど、村の入口で待機という案で納得した。
六人が静かに駆けていく。残る私たちは道で待たない。林の中に身を隠した。ほかの盗賊が来た時の用心らしい。
時々、プリンスと男子数名が道に出て、村の様子を見張る。気づけば、その男子は腰に剣やナイフをつけていた。私はのんきだったのかもしれない。朝に花をながめている場合じゃないかも。
「待ってるの、長いね」
私のとなりから声が聞こえた。友松あやさんだ。ほんとに待ってる時間って長い。
待ちくたびれたころ、伯爵が飛んで帰ってきた。プリンスが、みんなを呼ぶジェスチャーをする。
「みんな、まだしばらく待ってて。男はもう数名来てくれ。かなり片付けないといけない」
プリンスは片付けと言った。それって・・・・・・
「それ、うちが行くよ」
となりにいる友松さんの言葉におどろいた。
「それはダメだ」
「血を消すのって、うちのスキルが有効でしょ」
なるほど、友松さんの掃除スキルだ。
「あの! ケガをした人は?」
思わず聞いてしまった。
「タク、コウ、ゲスオの三人だ。命には関わらないから、こっちに連れてくる」
プリンスと男子数名が走っていった。
「うちが行ったほうが、早いと思うんだけどな」
「あや、さすがに見ないほうがいいんじゃない? 村全滅よ」
姫野さんと、友松さんが話をしている。
「ちょっと思ったのが、うちのスキルに『死体』って書き込んで、一気に掃除できないかな」
「あっ、なるほど!」
姫野さんが、空中を下からスワイプするような動きをした。それを見ながら腕を組んで、指をトントンとたたいている。そして、意を決したように口を開いた。
「よし、行くか」
姫野さんが、意を決したように口をひらいた。
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