第9話 根岸光平 「覚悟」

視点変わります。コウこと根岸光平

ほか今話登場人物(呼び名)

ジャムザウール(ジャムさん)

ヴァゼルケビナード(ヴァゼル伯爵)

姫野美姫(ヒメノ)

山田卓司(タク)

有馬和樹(キング)

飯塚清士郎(プリンス)

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 今日も野宿やで。


 まあ、今晩は食べ物があるからええけど。


 森の中を歩きながら、昔を思い出した。


 2年の春にこのクラスに転向してきて、ええクラスやなと思った。クラス全員の仲がいい。


 しかし、仲がいいにもほどがある。ふつう、異世界にみんなで来るか?


 まあ、わいもキングとほか数人が穴に落ちそうになってたので、必死でつかんで引っぱった。まさか、全員で落ちるとはなぁ。「大きなカブ」の失敗した話みたいになってもたわ。


 あれから馬車で進み、途中からは森に入った。人の作った道から出た方がいいらしい。道を進むと、追いつかれる可能性があるとのこと。


 クラスのみんなは、焚き火のまわりで休憩だ。わいは周辺を見まわる。自分から偵察部隊に入れてもらった。


 森の中は魔獣や肉食動物がいるらしい。野宿するときは要注意だそうだ。まあ、けったいな世界に来たわ。


 探すのは動物の死骸や大きなフン。特にこれといってなかったので、焚き火に帰ろうとしたらジャムさんに会った。


「ジャムさん!」

「コウ殿、異変は?」

「なーんもないですわ」


 ジャムさんとしばらく歩き、足を止めた。


「えーと、ジャムさん?」

「何か?」


 ジャムさんが足を止めて振り返る。なんて言ったらいいんやろ。


「軽骨な行動をつつしまれよ、というところでしょうか」


 誰かと思ったら、翼を持った夜行族のヴァゼルゲビナードさん。


 名前が言いにくいから、みんなはヴァゼル伯爵はくしゃくと呼ぶことにした。なぜ伯爵を付けるかというと、もちろんドラキュラ伯爵みたいだから。でも聞いたところ、血は吸わないらしい。


「考えろ、とは?」


 ジャムさんがまゆを寄せた。ヴァゼル伯爵が、くすりと笑った。冷笑というより、ほほえんだという感じだ。


「子供たちは血を見るに慣れておりません。あまり刺激が強いのもどうかと」


 ジャムさんがハッと気づいた。


「ぬかったわ。少しヒメノと話してこよう」


 ジャムさんは、そう言って走っていった。


 ヴァゼル伯爵と歩いて焚き火に帰る。


「おっちゃん、グッジョブです。ありがとう」

「貴殿も今日は、よい働きでした。どのような能力で?」

「あー、早く走れるってやつです。陸上部なもんで」

「リクジョウブ?」

「ああ、えーと、走って遊ぶ集団です」

「なるほど。あの速さを活用すれば、よい戦士となりましょう」


 わいは足を止めた。


「強くなれますか?」

「ええ。素早さというのは、もっとも強さに関係します。あとは使い方でしょうか」

「使い方?」


 止まったわいをふり返り、伯爵も足を止めた。こちらを向いてじっとしている。なんや?


「おわっ!」


 気がついたら、真横にいてじっと顔を見られた!


「ど、ど、どうやったんです?」

「相手のきょを突きました。一瞬、消えたように見えたはずです」

「見えました!」

「相手の動きを見る目、身体の使い方、肝心なのは相手と自分の気配を操作すること」


 これは、すごいわ。そして、わいがするべき事が見えた気がする。


「伯爵、いや師匠! 弟子にしてください!」


 師匠は片膝をついて、両手を組んだ。


「師匠? なにしてはります?」

「我が大いなる母、チカ様に祈りを捧げました。私に弟子が偶成ぐうせいされるとは」


 ……この師匠、だいじょうぶやろか。多少の心配はあったが、弟子にしてくれるとのことだった。


 焚き火に戻る。みんなは思い思いのところに座っていた。小さなパンと干し肉を持っている。街から脱出するさいに強奪した食料が配られたようだ。


 姫野が少し離れたところに座っている。食事はしていないようだった。


「姫野、だいじょぶか?」


 近寄って声をかけた。


「うん。さっきジャムパパにも聞かれた。ありがと」


 姫野は思ったより元気だ。


 でもまあ、大丈夫ではないやろな。生まれて始めて見る首チョンパだ。わいも正直、今日は寝れへんやろ。


 しかし、ここまで来て気づいた。こんな時、どんな声をかけるのか考えていなかった。


「ひっ!」


 姫野の視線のさきに、わいもたまげた。人の頭が地面からニョッキリ生えている。目がこっちを見た。いや、よく見ると知ってる顔やん!


「タク! おどかすなよ!」


 わいの親友の山田やまだ卓司たくじだった。そのまま、ぬめっと地面から上半身が出てくる。


「いや、なにしてんのかなと」

「なんもしてへんわ! お前こそ、それ妖怪の出かたやで」


 わいは伯爵とのやり取りを思い出した。


「そうや、タク、ヴァゼル伯爵に、お前も弟子入りせえへん?」

「うん? なんで?」

「あの人、気配消したりとか、めっちゃ上手そうなんよ。わいら向きやろ?」

「なるほど、俺ら、戦いには向いてないもんな」

「あ……やっぱ、ええわ」


 話を切り上げようとしたら、タクに聞き直された。


「なんだよ、言ってみろよ」

「いや、逆やってん。やりたいのは今日の無音鬼みたいなヤツ。うしろからズブリ」

「まじで?」

「ええて。忘れて」


 姫野が横から身を乗りだした。


「それって、暗殺ってこと?」

「そうや」

「無茶よ!」

「無茶か? この世界だったら、殺し合い普通やろ。だったら戦いになる前に殺したほうが効率ええやん」

「忍者だな。やろうぜ」

「いや、ええて、タク」

「思えば俺のスキル、土遁どとんの術だし」


 タクの軽い口調に、かっとなった。胸ぐらをつかんで地面から引き抜く。


「わいは、覚悟決めたちゅう話、しとんねん!」

「怒んなよ、コウ」


 タクが腕をはらった。


「んで、俺らがそれをやれば、みんなが戦わずに済むってねらいだろ」

「そうなの?」


 タクの言葉に姫野が聞いてくる。


「知らんがな!」


 否定したのに、タクは笑った。笑っておれを指差す。


「こいつ、よく言うもん。ほんま、このクラスは当たりやわーって」

「当たり?」

「好みの美人が多いんじゃないかな」

「ちゃうわ!」


 舞台裏を暴露されたみたいで、腹が立つ。でも、しゃあない、話すか。


「わいは二年時の転校で来たやろ。これ、一年時に転向してきたキングとよく話すけど、転校先のクラスって、めっちゃ当たりハズレがあんねん」


 姫野も思い出したようで、うなずいた。


「そうか。キングも転校が多かったって言ってたもんね」

「あそこは、親父が裁判官やからな。元裁判官か。わいはちゃうで。オトンが借金から逃げてるだけで。そんでな」

「……さらっとダークな話題ぶっこむわね」

「そうか? まあそれで、このクラスは当たりも当たり。大当たりってぐらい居心地ええのよ。なもんで、恩を感じるっちゅうやつかな」


 実は居心地ええどころやない。女子は、ちょいちょい弁当くれる。男子は、わいがおったら金のかからん遊びをする。さりげない気遣いやけど、今どき、おらんで。放課後にカラオケ行かず、空き地で遊んでる男子高生なんか。


「そうなのね……でも、わたし、賛成とも反対とも、言えない」

「ええんちゃう、それで。姫野は知っとく必要あるやろ。これ、キングやプリンスやったら反対するで」

「するだろなぁ。勝手にやろうぜ!」

「軽いな! お前!」

「俺は、こういうのは軽く考えたほうがいいと思うよ」


 姫野が両ほほをパンパン! とたたいた。


「言えてる! 軽く考えたほうがいいわね」

「っつうか、忍者好きなのは、お前だろ」

「あほぅ! そんな幼稚ようちちゃう」

「お前のスキル名は?」

「ニンニン!……ほんまや!」

「ほらな」


 だめだこりゃ、と首をすくめて姫野がパンを取りに行った。そういや、なんの話をしに来たんやっけ?

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