207
「そんなに驚くことでもなかろうて、レイドボスでも見たことだろう。更なる
メルクトリが
更なる
そう思いきや奴の形態にはどこか見覚えがあった。
首から上が羊頭にすげ代わり、背中からは八枚の黒翼を生やしている。さらに腕の本数は倍増、腰からは竜の尻尾が生えている。
人とモンスターを合成した気色の悪い見た目だ。一部はどこかで見たような気もするが……なるほどレイドボス、バフォメットからの移植か。腕と尻尾も見覚えがあるし、他にもいくつかのモンスターから引っ張ってきたような感じだ。
「ご大層な変身が、その実ただの移植とはな。予算が足りていなかったのか?」
「そう嫌味を垂れるでない。見てくれはともかく、飛び切りに強力なスキルを選抜してきた。ゲーマーならば一度は思ったことがないか。冒険者のスキルとモンスターのスキル、どちらも使えたらどれだけ強いことかと」
よほど上機嫌なのか、メルクトリは天を仰ぎ
冒険者とモンスターのスキルの併用……それは確かに思ったこともあるし強いだろうが……わざわざ変身する意味はあるのだろうか。
「なあメルクトリ。あえて形態を変える必要ってあるのか、人間のままの方が意表をつけると思うんだけど」
「何を言っておるふざけたことを抜かすでない」
メルクトリは
「見た目に凝るのはクリエイターの
とまあ非常に毒気を抜かれる回答をした。否定はしないが何とも言えない気持ちだ。
「さて与太話もここまでにしよう。我らの理想郷を叶えるためだ――お前らにゃあ悪いが
メルクトリの咆哮に合わせて、かつて監視上で
延々と降り注ぐ火球と黒雷に、地盤から牙を剥く鋭利な氷柱。それらギミックの発動と共に、魔人が四本の大剣を構えて
ひとたび大剣が振るわれれば、そこから無数の斬撃が放たれる。スキル〝クロスブレイド〟三次職クラウソラスが保有する遠距離攻撃だ。
モンスターのスキルを持ったプレイヤーが相手なんて、いくら何でも無理ゲーが過ぎる。ギミックも合わさってもはや反撃に転ずる余地も無い。
いくら身体能力に長けたコトハでさえ、攻めあぐねているようだった。
ペルを救うためにも、どうにかして攻撃しなければならない。そう心が
じわりじわりと焦げ付くような熱さが胸の内で広まっていく。尋常じゃない焦りは判断ミスを招き、判断ミスは即座にゲームオーバーへと繋がる。
――欲を出したが最後、俺はするべきでない反撃に移ってしまった。メルクトリの大振りを交わした時のことだった。
「……ッ!!」
天井より混沌の雷が一直線に降下する。バフォメット由来のギミックは落ちる場所が完全にランダム。まさか当たらないだろうという油断が死を招いた。メルクトリのほくそ笑む顔が目に映る。――抵抗もやむなく俺は黒雷の餌食となった。
「
だが忽然と聞き覚えのある
「ええい何故お前らがそこにいる!! ここには人数の制限を設けているはずだが……クソ、つくづく
どうしてか地下広間の入り口にはフィイ、リズ、エレン、ペル、とギルドメンバーが勢揃いしていた。みんなHPが極限状態だ。ベルゼブブに苦戦したんだろう。
「言っている意味は分からぬが、すんなりと入れたのだ。ペルのギミックも解除されていた、そちら側の不手際ではないのだ?」
フィイが言った。
「馬鹿なそんなはずは……いや、まさかあいつめ……自身の消滅と共にギミックを!」
メルクトリも疑うところ、ハヌマリルがどうやら細工してくれていたらしい。一般MOBの湧きが全くないのも彼のお陰だろう。
何でも仕事を部下に押し付けたが故の結果――有能な部下と無能な上司の画だな。
「さあ観念してもらおうか。ここがお前の墓場だ」
「ほざけ……ほざけ虫けらどもがぁ!! 貴様なんぞ一匹残らず
メルクトリが
「至上者よ、
フィイが即座に魔法陣を展開。陣外からの攻撃を全てシャットアウトする。
「コトハとエレンは前衛を! 残りは後衛から二人を支援しろ!」
指令を出して陣形を整える。
狂戦士と拳闘士に
「図に乗るなよ――冒険者共!!」
メルクトリの激昂によって第二ラウンドへの火蓋が切られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます