206(vsメルクトリ)
魔人との戦いが始まってから三十分。戦況は思うように進んでいなかった。
剣、槍、弓、銃、槌など使える武器は何でも使った。圧倒的DPSを誇る二刀使いが味方に居ようと、そう易々と削り切れる話でもない。
何せ相手はHP100,000,000超えの化け物。おまけにコンソールによるチート機能で攻撃はどれもが一撃必殺。回避を優先に動けば削る速度は落ちるばかり。
いくら死なないと言われていても、長引けばペルの身が不安だ。あのまま放っておいて本当に死なない確証はない。エレンたちの方も気掛かりだし、ここいらで手を打つべきだろう。
「――アルト!?」
メルクトリによる大剣からの薙ぎ払いを受けて、大きく体が吹き飛ばされる。コトハに大声を出させてしまうくらい心配を掛けてしまったが、問題ない。
スキル〝生存本能〟による一度限りの不死だ。HP1の状態で辛うじて生き長らえている。
「瀕死状態による〝激震〟発動でステータスを底上げか。
俺の目論見をメルクトリが即座に察知する。
瀕死状態からのステータス大幅上昇効果が狙いだ。更に〝等価交換〟によって全ステータスを筋力に極振り。
その他自己バフスキルや課金アイテムの〝超人のポーション〟も相まって筋力は合計で5,00を超えた。Lvが一気にカンストした恩恵も大きい。これなら渡り合えるだろう。
「来たな」
メルクトリが武器を転換。長弓を構えたかと思えば直ちに天井へと速射する。そして頭上より降り注ぐ篠突く弓矢〝フェリルノーツ〟。計五十本にも及ぶ即死の矢だ。一つとして受けるわけにはいかない。――だが回避は不要だろう。俺の前には彼女がいる。
「はあああああぁぁっ!!」
狂戦士が二刀乱舞し迫り来る脅威を一本残らず撃ち落とす。
指示を出した覚えはないが、俺に合わせてくれたらしい。俺も何故だか合わせてくれるだろうと信じていた。どこか懐かしい感触だ。……もしかすると現世では彼女と知り合いだったのかもしれない。
「ッ!!」
途轍もない衝撃にメルクトリがよろめく。俺が引き金を絞った時のことだった。
溜めに溜めた一撃がボルトアクション式ライフルから放たれる。スキル〝スナイプ〟発動時間が長い分スキルの係数が尋常でない。与えたダメージ量は七桁にも昇る。かの魔人と言えど余裕でいられる道理は無かった。
「ええい面倒くさいゴミ共め……こうなれば小娘から始末してくれるわ!!」
メルクトリが手先より暗黒の球体を放つ。スキル〝イヴェイジョン〟黒の球体はターゲットを自動で追尾する。回避は極めて困難な上に当たれば即死。
魔人がこれ見よがしに接近したのは、好機だと判じてのこと。俺に不意打ちを仕掛けてきた時のように、今ならやれると思い込んでいるのだろう。
彼女のことは信じている。手助けはせず、俺は削りに徹しよう。
「
魔人が床を踏み抜く勢いで
「――なにっ!?」
かくて失敗に終わった
仕留めたと思ったはずのコトハが、
二次職〝バーサーカーⅢ〟と三次職〝影疾走〟による移動速度上昇効果が、彼女の
「だがなぁ小娘、それも所詮は小細工に過ぎんのだ!!」
メルクトリが更に球体を追加する。イヴェイジョンの厄介なところはCTが短く重複しての使用が可能。回避に徹すれば黒球はますます増殖していく。
二つ、三つ、四つ、五つと増え続ける浮遊物が一斉にコトハへと襲い掛かる。その上、メルクトリ自身による追い打ちが来ればどうなるのか。普通ならばゲームオーバーだろう。ハヌマリルのように消される定めに違いない。だが、それでも――
「踊っている……」
黒球の目を掻い潜り、降り注ぐ弓矢を打ち払い、
たった一人の少女にここまで
「何故だ、何故一発も当たらぬ!! こんなことは断じてあり得んぞ!」
予想通りメルクトリが声を大にして否定した。やはり奴は運営であってゲーマ―ではないようだな。
「――モンスター討伐のRTAには常識がある。最大火力最高効率最速討伐の三原則があってだな、要するに皆が皆〝一発たりとも攻撃を受けない〟ことを鉄則としている。分かるかメルクトリ。その程度の攻撃じゃあ、コトハには
「机上の空論を……そんな馬鹿げた奴がいるとでも……」
「いるさ。ごく少数でも確かにな。たかが一撃必殺如きで勝てると思うなよクソ運営」
発破をかけられてメルクトリが言い淀む。
実際のところ彼女がRTA勢だったのかどうかは不明だが、並のプレイヤーではないだろう。たとえ記憶が消されてもやり込んだ技量までは消えないということだ。ヤバそうな奴で言えばもうひとり知っているが。
「過小評価であったことは認めよう。だがなぁアルトよ、それも夢物語でしかない。全力の俺を前にしても同じことが言えるのかどうか」
HPが半分を切ったところで、メルクトリの満身から複数のオーラが迸る。隠していたバフスキルか。……いや違う、奴の形態が変化している……これはいったい。
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