204(黒薔薇教会)
「それにしても用意周到ですね。トラップを仕掛けているなんて。私が来たときは何も無かったはずですが」
教会に向かう途中でエレンが言った。
「あいつらは俺に心底ご熱中だからな。俺相手ならどんな手を使ってでも潰したいんだろう。危険は承知の上とは言え……いざこうなると胃が痛い」
パーシヴァルを呼ぼうとダメもとでチャット画面を開こうとしたが、やはりブラックアウトして使用不可。ペル曰くギルドハウスへの転移もできない。困ったものだ。
「――おやおやこれはお急ぎのようで。そんなに焦ってどちらに行かれるのですか」
「これは都合がいい。ペルを閉じ込めたのはどうせお前の仕業だろう。ここでケリを付けてやる」
いざ武器を構えても魔人はカカと笑い飛ばすばかり。どうにもきな臭いことこの上ない。こいつはいったい何が狙いだ。
「そう
「どうしてそう言い切れる。悪いが俺たちには時間がないんだ。今すぐ叩き潰して――」
「時間に追われているのはこちらとて同じことだ。早々に
ハヌマリルは置き土産とばかりに、とあるアイテムを放り捨てた。
「待て」スキルを撃とうとした頃には、ブリンクで転移。結局何がしたかったのか、奴は教会の方へと姿を消していった。
「何よこれ、初めて目にするアイテムだわ」
コトハが足元のアイテムを拾い上げる。
「お前はもうちょっと警戒したらどうなんだ。それ魔人が置いていった物だぞ」
「だってトラップのようには見えなかったし。それにほら見て、珍しい色のポーションよ! 効果はいったい何なのかしら」
「あのなぁ……ってこれはまさか……」
小瓶の中に入った、虹色に輝く液体の正体は〝超人のポーション〟。
飲めばクリティカル率、クリティカルダメージ、クールタイム減少、全ステータス、移動速度、防御力・魔法抵抗力、アイテムドロップ率が上昇する課金アイテムだ。ご丁寧に全員分の数がある。これを使えばかなりの能力強化に繋がるだろう。
いや待て……あの魔人のことだ、課金アイテムに見せかけた罠かもしれない。飲んだ瞬間ゲームオーバーなんてこともあり得る。安易に使用すべきではないだろう。
「――着いたな」
魔人の一件後は何事もなく教会に到着。
黒薔薇の花言葉は確か――怨恨、憎悪、復讐などの負の感情だ。
その昔、女神さまに仕えていた信徒が、女神さまの裏切りによって闇落ち。憎しみのあまり黒薔薇を崇めるようになった。……そんなストーリー設定だった気がする。
「名前もだけど中も陰気臭いのね。あちこちに黒薔薇の画が飾ってあるわ。彫刻も両脇に建てられてて、気味の悪さが抜群ね」
コトハが教会に入った途端にそう酷評した。
「景観に関して言えば、もっと奇妙なところがあるだろう。ここは……かなり湧きがいいはずなのに、モンスターが一体もいない。仕様が変わったのか……?」
どこを見渡しても、教会内にはMOBがいない。本当ならダークエルフやダークオーガ、サラマンダーなど強力なモンスターが
「私の時はそこら中にいましたよ。現にここでレベリングしてきました」
エレンが言った。
「そうだよな。となるとこれもハヌマリルの仕業なのか……いやモンスターを消す利点が一切見当たらないが――」
考え込んでいる最中、黒の
「お兄ちゃん、あれ何?」
「過去一番に気持ち悪いモンスターなのだ……」
「虫はちょっと苦手だわ」
彼女たちから大バッシングを浴びているモンスターは〝ベルゼブブ〟。巨大な
「時間稼ぎのつもりだろう。ペルがやられる前に急がないと」
ボスモンスターだろうが何だろうが、今は構っている暇がない。無視して奥の
「メッセージでは最下層に進めと書いてあった、恐らく無視が正解のはず――」
いざ進もうとした矢先、またもや警告画面が表示される。
〝ここから先は通行可能人数に制限が掛けられております。0/2〟
どうやら二人までしか入場できないらしい。これもあいつの細工か。
おそらくB1で一人、B2でさらに一人にと分断させる作戦だろう。魔人たちは是が非でも一対一の状況を作り出したいと見える。
そこまで俺を消したいなら、入った瞬間即死とかすればいいものを……やらないということは何かしらできない要因があるのだろうか。
「ここは私が引き受けます。アルトさんたちはどうか下へ」
エレンが名乗りを上げると、
「わたしも! お兄ちゃんとお姉ちゃんが先に行って!」
「決してヘマをするでないぞ、二人とも」
リズとフィイもまたこの場に残る意思を表明する。
急がなきゃいけないのは分かってる。だけどベルゼブブはLv300のボスモンスターだ。エレンたちとは100Lv差もある。賭けだが、ここはあれに託すしかない。
「分かった。だけどあいつは強敵だ、もしやばかったらこれを使ってくれ」
俺は三人に〝超人のポーション〟を人数分預けた。
「さあ早く行きましょう」駆け出すコトハに合わせて俺も下へと潜る。カウントが2/2になった。もう誰も入ってこれないだろう。後は俺たちだけでやるしかない。
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