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「君たち、ちょっといいかな」
声をかけると、メルとアッシュが振り向いた。彼女たちのジョブはどちらもマジシャン、転職が済んでいない初期状態のジョブだ。
「なに、わたしたちいま忙しいんだけど」
灰色髪少女のアッシュはムッと口先を尖らせて言った。
「実はマイアトリさんに頼まれてきたんだ。最近、揉めてるみたいだから。今も口喧嘩してるようだしこのままなのは良くないんじゃないかって」
『おねえちゃんが?』
二人はその名前を口にした
「でもでもそんなことないもん……だってアッシュとは仲良しだし、今も上手くやってるのに……」
「さっきお互いで装備やLvでマウントを取り合っているところを目撃したんだが、アレは上手くやれているのか?」
「う、ううぅ……だってだって……」
赤髪のメルが
「そんなの関係ないないよ。だってカーリグルさんは装備やLvが大事だって言ってたもん。わたしたちの言ってることは間違ってないよ」
アッシュが横合いから割って入った。
「えっと、そのカー何とかさんがどうかは知らないけど、
「ううん、それでも関係ないよ。だってこの世界はLvの高い人が偉いって、強い装備を持ってる人が正しいんだって言ってたもん!」
メルが手を上げて抗議した。
どうやらカーリグルなる者が二人に良からぬ偏見を与えているらしい。とんでもない実力主義者だな。強いイコール正しいという理論は、MMOじゃなまじ多く見かけるタイプだからこそ笑えない。
「その話は他じゃしてないだろうな?」
「Lvと装備のこと? それならたくさんしてるよ! でも言う度にみんな微妙な顔をするんだよね。どうしてだろう……私たちの言ってること間違ってないはずなのに」
アッシュがきょとんと首をかしげる。
なるほどダグニアでさえ困り果てるわけだ、聞いていると頭が痛くなってきた。とりわけここは駆け出し冒険者が多い街だ、バルドレイヤならともかく、実力が全てだなんて言われていい顔をする人がいるわけない。
だけどまあ……十歳だから物事の
「いいか二人とも、その認識は絶対に誤りだ。強いから正しいってわけでもないし、強いと何をしていいわけでもない。特に意味の無いマウンティング行為は絶対にダメだ」
『うううぅ、でもでも!!』
二人のチビっ娘は煮え切らないような
そんな可愛い声を出されても折れん、折れんよ俺は。納得するまで言い聞かせてやる。このまま放っておいたら害悪プレイヤー間違いなしだ。
「――どうしたんだいメル、アッシュ。どうやら変な人に絡まれているみたいだね」
背後からやけに間延びしたナルシスト調の声が鳴る。
振り向くとそこには、ワカメ頭の男が口元に
……どうしよう、めちゃくちゃ苦手なタイプだ。視界に入れているだけでも気持ち悪い。
『カーリグルさん!』
メルとアッシュが声を揃える。……こいつが例の実力主義者か。
カーリグルの職業は第三次職のクラウソラス、パーシヴァルと同じハイランダーの派生先だ。そしてLvは210とかなりの高Lv。
とてもこんな街にいるような冒険者じゃない。普段はカルテガにいるんだろう。ここに居るのは単なる暇つぶしかそれとも自分よりも弱い奴を見下すためか。どちらにせよ差別野郎はいけ
「おやおや
カーリグルが前髪をかき上げながら言った。早速の切り出しである。
ここで煽り返したらせっかくの機会が水の泡だ。まずは彼と話し合えるか試してみよう。
「いじめているなんてとんでもない、ちょっと会話をしていただけだよ。最近トラブルが多くなってるみたいだからさ。話を聞くと、強い方が全てだなんて言い出したんだ。俺はそう思わないけど、カーリグルさんはどう思う?」
「ほう興味深いね、
カーリグルが言い終える頃、バキッと嫌な音が鳴った。俺の後ろでは鉄鉱石を握りつぶしているコトハさんの姿が。……今にも飛び出さん剣幕だ。フィイとリズが必死に
「待ってくれよ、俺は別に口喧嘩をしにきたわけじゃない。お前だって平和的な解決策があればそれに越したことはないだろ? ここはちゃんと話し合おうぜ」
「口喧嘩だって? いったい誰と誰がだい? まだ三次転職も終えてない二次職風情が僕と対等な立場のつもりかい。よしてくれよまったく。本当に笑えない冗談だ」
カーリグルが深々と息を漏らす。こいつがメルとアッシュにどれだけの悪影響をもたらしているのかはもう分かった。詳細を聞く必要もないだろう。
問題は、この手のタイプはそこそこ実力もあるということだ。黙らせようにも今の俺じゃあ20Lvも離れているしジョブだって二次職。あとできることと言えば……。
「クズの三枚おろしってどんな味がするのかしら」
「求む、
「ねえねえおにいちゃん撃っていい? 撃っていい?」
一方で三人はもう限界のようだ。迸る殺気が
「待て待て待てえぇ!! ここはPKエリアでもないんだし撃ってもしょうがないだろ、騒ぎを広げようとするんじゃなぁい!!」
そこまで言うと、やっと彼女たちは武器を降ろしてくれた。剥き身の刃物みたいな眼差しは相も変わらずだったが。
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