169(結晶の海岸)


 翌朝。俺たちは次なる地域に向けて出発した。パーティーメンバーはいつも通りの四人。しかし今日は後でペルも合流する。共にギルドクエストをクリアするためだ。


 エレンとパーシヴァルにも一応声は掛けてみたが、かんばしい返事はもらえなかった。クエストというよりただの調査なんだから仕方ない。いまさら雑務をやるほど彼らも暇ではないだろう。


 森の探索たんさくは順調に進み、日中には〝結晶の海岸〟へと到着した。


 海岸には名前の通りいくつもの結晶体が転がっている。青、紫、緑、黄と色彩豊かな鉱物が薄暗い一帯を照らしている。


 昼間だというのになぜか海岸の空は真夜中みたいに真っ暗だ。きっと輝く結晶をより見栄えよくさせるための演出なのだろう。


「奇麗な場所ね、あたりを眺めていたいけど先にクエストを終わらせなくっちゃ」


 コトハはいつになくやる気のようだ。積極的なのはいいが、あいにく俺たちのクエストはただの調査。やることというのは辺りを見て回るだけ。本格的なクエストを期待していると落胆してしまうだろう。


「クエストならもう完了してるぞ」


「……へ?」


 彼女にしてはあまりにも間の抜けた返事だった。


「だからクエストはもう終わってる。あたりに危険なモンスターはいないし、後は帰って報告するだけ。……まあ最低難易度のクエストなんてこんなもんだ」


 未だ現実を直視できないのか、コトハは目をぱちくりさせている。いやコトハだけでなく、フィイもリズも硬直していた。


「い――いやよそんなの! せっかくこの時のために色々準備を済ませてきたのに! これで終わりだなんてあんまりだわ!」


 コトハはインベントリからボートやら漁網ぎょもうやら魚群探知機やらを取り出した。こいつはいったい何を調査するつもりだったんだろう。海上保安庁にジョブチェンジした方がいいんじゃないか。


「おにいちゃん、ほんとうにもう帰っちゃうの?」


「終わりとは常に呆気ないもの。これもまた天のおぼしなのだ」


 リズは上目づかいで訴え、フィイはやり切れないように嘆息たんそくしている。


 ギルメンたちは明らかに不満そうだ。――このまま「はいそうです」とはいかないよな。


「クエスト自体は完了だけど、やれることは他にもある。ちょうど結晶が豊富なところにきたことだし採掘さいくつをやってみよう」


 彼女たちにひとつずつピッケルを渡す。俺の意図が分からないのか、三人はそれを見てうなったり首をかしげたりしていた。採掘の経験がないらしい。


「フィールドにある鉱物は採掘することができるんだ。何が出るかはラック次第。たまにレアアイテムがドロップすることもある。やり方はピッケルで結晶をくだくだけ。もしよかったらみんなでやってみないか」


「――それは面白そうね! ええ今すぐにやりましょ!」


 コトハが即答すると、


「力仕事はあまり得意ではないのだが、これもいい経験になるかもしれない。やってみる価値は十二分にあるだろう」


「もちろん、おにいちゃんと一緒ならなんでもおーけーだよ!」


 フィイとリズが首を縦に振る。


 意見が満場一致したことによって早速、採掘イベントがスタートした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る