163(黒森地帯)


「すごいのだ――植物も花も黒一色。まるでここだけ写真の世界のようなのだ」


 フィイが辺りを見渡して言う。


 翌朝、俺たちは黒森地帯と呼ばれる新たな地域に到着した。


 ここはテミティア大高原に続くエリアで適正Lvは151から160。パーティーメンバーのLv的にここもレベリングに適した場所ではない。さっさと抜けたいところだ。


「あの……」


 そう思った矢先、森の入り口で見知らぬ女性に声を掛けられる。彼女の名前はエイザ。冒険者ではなく行商人のようだ。荷台を引いた馬車が近くに停められている。


「もしかして冒険者さまでしょうか? 実は困っていることがございまして、もしよろしければ話を聞いて頂けないでしょうか……」


 商人がこんなところで孤立しているなんて、確かに困っているのだろう。断る理由はまったくなかった。


「俺たちで良かったら是非。見た感じここで立ち往生おうじょうしているみたいですけど、何か問題でも?」


「ええ。実は同伴していた冒険者さまが、森の偵察をと言ってから一向に帰ってこないのです。私はただの商人ですしモンスター蔓延はびこる森に探しに行くことなんてできません。どうか彼の無事を確かめて頂きたいのですが……」


 エイザは心配そうに森の奥を見つめている。


 冒険者でもない彼女がここまでこれたのも護衛あってのことだろう。引き返すにしても高原にはモンスターがいる。きっとどうにもならなくなっているに違いない。見知らぬ振りはできないな。


「分かった、その依頼を引き受けるよ。ひとまずは冒険者の特徴を教えてくれないかな。Lvとか名前とかさ」


「同伴していた冒険者さまの名前はべスクで、Lvは195です。とても森のモンスターに敗れるようには思えません。きっと何か問題が起きているはず」


 エイザの不安には、少しだけ心当たりがある。


 前作において黒森地帯はごくごく稀にエリートモンスターが出現するエリアのひとつに指定されていた。もしかしたら護衛役の冒険者が奮闘しているのかも。


「とりあえず探しに行ってみるよ。エイザさんはここで待っていてくれないかな」


「本当にありがとうございます。突然こんなお願いを引き受けてくれて」


 エイザは深々とお辞儀をした。


 彼女のためにも早くベスクさんを探し出さないと。


「でもおかしな話よね。それだけ高レベルならここのMOBに苦戦するとは思えないわ。裏が無いといいんだけど」


 いざ出発した途端、コトハは目つきを細くして言った。


「面倒事に巻き込まれているというのは本当だと思う。黒森地帯は超低確率でエリートモンスターが出現するんだ。そいつだけはエリアの適正Lvを超えた強さを持っている。195Lvの冒険者でも苦戦するだろうな。敗北も普通にありえる」


「ふーん、そうなのね……ってエリートモンスター? 初めて聞いた名前なんだけどいかにも強そうね。ボスモンスターとは違うのかしら」


「一般モンスターとは経験値もドロップアイテムもけた違いに美味しいMOBだ。ボスモンスターとの違いは、エリートモンスターにはベースが存在することだ。たとえばそれはスライムだったりゴブリンだったりウルフだったり。要は何万体といる一般モンスターの強化バージョンがエリートモンスターだ」


 黒のグリフォンやらトロールやらアルラウネやらをバッタバッタと倒しながら押し進む。


 森の半ばほどまで行ったところだろうか。前方から地響きや炸裂音さくれつおんが聞こえてくるようになった。誰かが戦闘中のようらしい。奇遇にも目当ての人物はそこにいた。


「ウオオオオオオォォ!!」


 冒険者ベスク――Lv195、ジョブは前衛職であり攻撃特化のバーバリアン。


 大斧ひとつで、エリートモンスター〝突然変異フレースヴェルグ〟に単騎で挑んでいる。通常時なら巨大なからすでしかないモンスターもエリート化したのでは話が違う。幾つものスキルを兼ね備えておりHPも高め。


 加えてベスクはHPが残り半分、ポーションが尽きたのか回復もできていない。このままではマズイだろう。すぐさま加勢したいところだが……また横殴り云々と言われてはたまらない。とりあえず話をしてみよう。

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