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「ちょっと大丈夫? かなり顔色が悪いわよ」
そんな俺を見兼ねてコトハもまた近寄ってくる。
普段は彼女たちがべたべたと引っ付いてくることに気だるさすらあったものの、ホモ野郎だと噂を立てられるよりかは遥かにマシだ。ここが天国のように思えてくる。
「いいかコトハ、世の中には色んな人がいる。中には他人のケツをスコップしようとしてくる輩もいるんだ。来世、もし男に生まれた時は覚えておくといい」
「言っている意味がよく分からないんだけど、なんだか大変そうね」
「ああ、とても大変だ」
観客席で待ち受けていたとある人物を目にすると、背筋に
「――よおアルトくん。今日は都市戦最終日だが、調子はいかがなものかな」
軽い挨拶を飛ばしてきたのは南の騎士団長メルクトリ。俺がいま最も警戒している人物だった。
「ん? どうして尻を手で隠しておるのだ?」
「え、いや……特に深い意味は……」
かの偉大な騎士さまを男好きだと断ずるのは流石に失礼かもしれない。いつも通りの態度で会話に臨もう。
……おい待て騎士団長さま、それ以上近づいてくるんじゃない。やっぱりソッチの趣味かこの野郎。
「えーっと、今日も例によってサボりで?」
「おうともよ! 今日は都市戦最終日、これだけの人で賑わっておるのだ。騎士団だけ仕事仕事ではつまらんだろうて。なあに明日からは業務に戻るさ」
昨日とほぼ言い訳が変わらなかったが、もう気にしないでおこう。願わくば言葉通り、明日からは勤勉に務めていただきたいものだ。
「確かにすごい人混みですよね。この会場だけでも何千と……他の会場や通りの人たちも含めると何万人っていう規模で。とにかく
言いさした途端、メルクトリが俺の両肩を掴む。彼は子供のようなあどけない笑みを浮かべていた。
「そうだその通りだとも……多くて多くてたまらんのだ!」
急に大声を張り上げた騎士団長に目を疑う。いったい彼に何があったというのか。
「周りを見たまえよアルトくん、これだけの人がいるというのに力を得ている者はほんの一握り。ここまでトーナメントを勝ち上がってきた者に比べれば、何とも無駄に膨大なものか!」
メルクトリは息を荒げて訴えかけてくる。これまで目にしたことのないような熱狂ぶりだ。それほど……俺の言葉に共鳴できるモノがあったのだろうか。
「何十万、何百万といようがな、優れた者はごく少数でそのくせ
彼はひとしきり喋り終わった後、どこか名残惜しそうに俺を
「――さて次はグループAの準決勝だったか。相手はあのティファレト。一筋縄ではいかないだろうね。健闘を祈っているよ」
ひとしきり勝手に喋った後、勝手にどこかへと去っていくメルクトリはメルクトリだとしか言いようがない。相変わらずの
……にしても彼はバルドレイヤの人たちを快く思っていないのだろうか。あの言い分だとむしろ邪魔のように聞き取れる。自分たちの都市に住まう民を邪険に扱っているとでも?
まさかな。それなら都市を守る騎士団長になんてなっていないだろう。
「分からないことばかりだけど……とりあえず今はアレだな」
第六十一試合目の開始はもう間もなく。フィールドには既に俺を待ち構えている拳法家の姿が。おそらく彼がこのトーナメントで最大の難敵だろう。
ここを乗り越えられるかどうか。――いや絶対に勝ちあがらなければいけない。そのために俺は全スキルポイントと有り金をはたいてきたのだから。
今も声援を送ってくれる彼女たちのためにも必ず勝利してみせる。
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