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 都市戦もいよいよ残すところあと僅か。三つ目の組み合わせも終わり、トーナメント表には勝ち上がってきたTOP8が表示されている。


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 初参戦にもかかわらず三連勝と、コトハはかなりの奮闘っぷりだ。観客席に戻ってから、周りの冒険者から声を掛けられ続けている。彼女もすっかり有名人だ。


「にしても俺の対戦相手は本当に強職きょうしょくばっかだよなあ。〝ポイズナー〟の次は〝ローグマスター〟ときたもんだ。その次にも嫌なジョブ名が多数見えるし、Lv差も大きいだなんて役満過ぎる。こんなのばっかじゃ本当に困るよ」


 はあ、とわざとらしく溜め息をつく。


「やけにネガティブじゃない。アルトはほとんどのジョブのスキルを習得できるのに、負けるわけがないでしょ。大丈夫アルトならきっと勝てるわ」


 するとコトハがすかさずはげましてくれた。


「ありがとう、だけど難題なことには変わりない。スキルポイントのね合い上、習得はできても使用はできない。だから言うほどぶっ壊れっていうほどでもないんだよこの隠しジョブは」


「確かに……そうね。ポイントは有限だもの」


 コトハが頷く。未だに70スキルポイントを保有している彼女も、スキル選択の重要性は理解しているようだった。


「むしろ俺は〝対モンスター用〟にスキルを取ってるから〝対人間用〟のスキルを組んでるやつには分が悪い。特に次の対戦相手〝ローグマスター〟は対人に強いスキルばっかりだ。対人専門ジョブとまで言われている。――これはまたスキルを取る羽目はめになるかもな」


 スキルツリーを展開すると、リズがひょこっと顔を出してきた。


「おにいちゃんだいじょうぶなの。前にあたらしいスキルをおぼえたばかりなのに」


「実はまだ60ほどポイントが残ってるからな。俺の隠しジョブの特性なら三次職スキルも習得可能だし、この段階で覚えておいても腐ることはない」


「ポイントをぜんぶつかっちゃうの?」


「そこが悩みどころなんだ。〝対人用〟のスキルはできるだけ習得を避けたい。本音を言えば人間相手じゃなくてMOB相手に強いスキルが欲しいんだ。

 だって〝対人で強いスキル〟なんて活躍できる場面が限られてるからな。狩場やIDで有用的なスキルの方が絶対に重宝する。そうは分かっているんだけど……やっぱり勝ちたいしなあ」


 思わず冒険者としての欲求をこぼしてしまう。


 何て言ったって都市戦は半年に一度のお祭りだ。優勝して実績を残したという人間的な欲望はもちろんあるし、優勝すれば〝業績〟が開放されてまた一段と強くなれる。


 前じゃあ〝対人専用〟のスキル振りをしてもスキルの振り直しができる〝スキルリセットポーション〟を使ってたんだけど、いかんせんあれは課金アイテム。


 見たところこの世界に課金アイテムなんて無さそうだし――いや待てよ、決めつけはよくないか。意外と実装されてるかもしれない。ショップを見に行ってもいいのかも。


「――いらっしゃいませ冒険者さま。店内をごゆっくりご覧くださいませ!」


 思い立ったが吉日きつじつ、バルドレイヤの中で最も規模の大きい道具屋へとやってきた。


 店内にはポーションやピッケルなどの基本的な物から、属性耐性ポーションやワープスクロールなどニッチな道具まである。


 俺だけでいいのに、行くと言ったらギルメン総出でついてきた。決闘で疲れていて説得する気力もない。ご愛嬌あいきょう……ということにしておこう。


「少しは期待してたんだけど、そりゃそうか。流石に課金アイテムなんて普通のショップに売ってない」


 店内を一周してもスキルリセットポーションはなく、その他の課金アイテムもまた同様だった。こればかりは仕方ない。せっかくだし役に立つアイテムだけ買っていこう。

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