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「ここがコトハちゃんたちのギルドハウス? とってもおっきいんだね」


 帰宅した折、ペルが俺たちの拠点を見上げた。


 きみ、ちょっとキャラ設定忘れてない?


「あ、ちがっ……ククク、今日からここが我のアジトか。なかなかによいもよおしではないか。興が乗るというものだ……」


 必死に邪気眼ポーズを取りつくろっても遅いですよーペルさーん。


 たぶんさっきのが彼女の素なんだろう。小柄な見た目通り根っこは幼そうだ。


「アルトくんアルトくん、ギルドメンバーとパーティーメンバーとは何が違うのだろうか。われにはあまり違いが分からないのだが……」


 フィイが俺のすそを引っ張って言う。


「パーティーは、一緒にクエストをこなしたりレベリングをするために組む集団を指す。一方でギルドっていうのは仲間のことだ。たとえ一緒にレベリングしていなくても、仲間じゃなくなるわけじゃないだろ? 違う行動をとっていてもずっと繋がっているみたいな」


「ふむ……馴染なじみのある言葉で表現するなら〝家族〟みたいなものだろうか」


「ちょっとむずがゆく思うけど、だいたい合ってる。ギルドメンバーは増やしておいて悪いことはまったくない。ギルドでしかできないイベントも多いし、人数が少ないとむしろできないモノもあるんだ。

 特にうちはギルドハウスだけ立派だからな……廃墟みたいになるよりかは、こうして新しいメンバーが加入してくれた方が嬉しい」


 俺の言葉を聞いたペルがにこりと笑う。


「良かった、お邪魔じゃないかなって心配だったの。宿屋暮らしっていうのも寂しいし、そろそろギルドに入らなきゃなあって思ってて……」


「……」


「あっ、えと……フフン、我は孤高を好む宵闇よいやみの支配者。たかぶる魔力が暴れ出さないか不安で仕方なかったのだ。此度こたび招致しょうち、誠に感謝するぞ……」


 もうこの子に関しては突っ込まないであげよう。色々大変だったんだろう、たぶん。


「ふえぇ!? なぜにそんな適当な物を見る目をしているのだ!?」


「そこの自称邪気眼使い、次の説明に入るからおとなしくしろー」


「ううぅ……分かったのだ……」


 げんなりと肩を落とすペル。この後、更に気落ちしないといいが。


「俺たちは今のところ、レベリングやIDは最大四人までにしようと考えている。だからせっかくギルドに来てもらって申し訳ないんだけど、同じパーティーは組めないと思う。

 もちろん、のけ者にするつもりはないから、行きたいところがあったら気軽に声を掛けて欲しい。その時は2:3とかで分けるから」


「そんな話であるか……クク、心配は無用であるぞお兄さま。我はこれまで常にひとりで戦ってきたのだ。否、我が軍勢を考慮すればひとりというのは誤り。

 我のジョブはネクロマンサーであるがゆえ、まったく問題はないのだ。あと……効率的にも四人以上はおいしくないよね」


 不敵に笑ってみせるペルは、決して嘘を言っていない。


 ネクロマンサーは大量のMOBや強力な個体を召喚できるスキルを持つ。つまりほとんど自分のパーティーを持っているようなものなのである。


 むしろパーティーを組んでいた方が彼女にとっても都合が悪いのだろう。自分ひとりで指揮をりたい者にはうってつけのジョブだ。


「なら良かった。だけどもし不満があれば言ってくれよ。ペルはコトハの友達なんだし、友達のギルメンは助けたい」


「その時はそうさせてもらうのだ。ありがとうねお兄さま」


 とてて、と駆けだしてきたペルが俺へとしがみつく。頭を撫でられると「あうぅ」と奇妙な声を上げた。彼女くらいの歳ならフィイやリズとも馴染めるだろう。


「ずるい! おにいちゃん、リズもリズも!」


 何がずるいのか、これ見よがしに便乗して抱き着いてくるリズと。


「……」


 こっそり後ろから抱擁してくるフィイ。


 待て、今さらだがこのはとてもマズイのではなかろうか? 三人の平均年齢は下手をすると十二、三くらいだろう。


 ギルドハウス内だからまだいいものを、こんなところ誰かに見られでもしたら……。


「ジーーーーーーー」


 突き刺さるようなコトハの視線。見るからに不機嫌な彼女である。


「あの姫? どうか我を助けてくれませうか?」


「ネロリマンサー」


「だ、誰がっ……」


 ぼそっと吐き捨てるように言ってコトハがそっぽを向く。その間にも俺の体を揺さぶる少女×3たち。


「や、やめっ……やめれっ……やめろおおおおおおぉぉ!!」


 俺はロリコンじゃあない。画的にそう断言できる自信が無くて俺はむなしい叫びを上げた。

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