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 都市戦二日目。


 半年に一度のお祭りは相変わらずの盛況せいきょうぶりでまったく活気のおとろえる気配がない。もうしばらくはずっとこのままなんじゃないかと思えるほど人々は熱狂している。


 視界を埋め尽くさんばかりの人混み、冒険者である者やそうでない者もみんなで食べ飲み歩いてはバカ騒ぎをしている。


 この日の一戦目は俺とウルクによる第三十三試合。フレンドとの決闘を今か今かと楽しみにしていたのだが。


 ウルク:すまねえ恩人、ちょっとばかし飲みすぎちまったようだ……へへ、俺の代わりに……優勝……しておいてくれ……。


「二日酔いぃ!?」


 とまあ非常にダラしのない体たらくでウルクがまさかの欠場。個人チャットを送ってきたのみで、彼が姿を見せることはなく――不戦勝となった俺は三回戦に進んだのであった。


『勝者は――バーサーカーのコトハ選手です!』


 そしてコトハも勝利を収めて次の試合へ。対戦相手はまたもやあのルドラだったようだ。あいつとは何かと縁があるな。ちょっと不憫ふびんに思えてきた。


「畜生、俺が何をしたって言うんだよ、どうしてあいつらのパーティーとばっかり……」


 愚痴ぐちをこぼしながらルドラは決闘場を後にした。


「どうどう、わたしの活躍! ちゃんと見ててくれた?」


 席に戻ってきたコトハが浮かれた声音でたずねる。


 ルドラは盾を利用したガン引き・ガン盾戦法で戦っていたのだが、移動速度の高いバーサーカー相手には裏目に出て、背後を取られる始末。そして乱舞によりあえなくノックダウン。


 彼女は俺との実戦も踏まえてかなり上手く立ち回れていたと思う。


「二連勝なんてやるじゃないか。この調子なら優勝も夢じゃない」


「何を言ってるのよ、都市戦はまだまだこれから。アルトを倒すまで勝負は分からないわ」


「その言いぶりだと他のグループがまるで脅威きょういじゃないみたいだぞ」


「だってこの大会で一番強いのはアルトだもん」


「嬉しい言葉だが……はたしてどうだか。俺的には誰が勝ち上がってきても不思議じゃないと思う」


 決闘場を見下ろすとそこにはLv191のサイキッカーを下しているガンブレイドの姿が。カムイもまた順当に勝利を手にしたようだ。


「確かに……彼もなかなかやるわね。14Lv差もある相手に勝っちゃうなんて」


「Lvや装備、ジョブの相性は大切だが、対人はプレイヤースキルがものをいう世界。より技量の高い方が勝利を収める。中にはモンスター相手は苦手だけど対人は最強なんていうやつもたまにいる。だから結果がどうなるか最後まで分からない。それが対人の醍醐味でもあるんだ」


「でも……絶対に勝ちあがってきてよね。アルトがわたし以外の誰かに負けるなんてそんなの……許さないんだから」


 それはもちろんそのつもりだ。そっと重ねてきたコトハの手を強く握り返した。


「これで二回戦目の組み合わせも終了。俺の相手はアーチャー系列の〝ポイズナー〟か。Lv差は18、面倒なスキルを使ってもくる。これはいよいよ本気で臨むか」


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 結局ノルニオッゾ戦では出し惜しむハメになった新スキルと購入した武器の数々を、三戦目ではようやく披露ひろうすることとなるだろう。


 毒使いが相手となればHPを代償だいしょうに火力を得る〝激震〟や〝等価交換〟を使用することはできない。


 かと言って長期戦にもつれ込めばポイズナーの独壇場どくだんじょう。できる限り早急に始末するほかない。


「アルトくんその武器は……」


 フィイは俺が取り出した武器を見て絶句している。


 等身大はあろうかという大鎌――これは本来マジシャン系列のジョブ〝バトルメイジ〟にしか扱えない武器種のデスサイズ。ポイズナー戦では初手をこれでいかせてもらう。


「……」


 決闘場では早くも対戦相手が姿を見せている。


 赤褐色せきかっしょくの民族衣装をまとった緑髪の男ベレキール。いかにも毒使いらしい外見だ。


「早く降りてこい」と言わんばかりにこちらをねめつけている。


「望むところだ」


 コトハたちの声援を背に浴びながら、俺は階段を降っていった。

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