121(都市戦)

※トーナメント表はなろう版にのみあります。都市戦中は描写が重ためになります。終わったらまたゆるゆるに戻ると思います。



「やあやあアルトくん、調子はどうかね。見たところ君たちはグループAに当てられたようだが」


 群衆の中から騎士団長メルクトリが姿を見せる。


「えっとメルクトリさん? こんなところで何をというか、南部の監視場から離れて平気なのでしょうか」


 問われた騎士団長さまはカカ、と大笑した。


「アルトくんはまるでパーシヴァルみたいなことを言うのだな。――都市戦は年に二度しかない祭典さいてんだ、今日くらいは休んでもいいと王から許しが出ている。交代制ではあるがな、騎士団も休暇を取って冒険者たちの決闘を見にくると言うわけさ」


「つまり、メルクトリさんも今日は非番で?」


「いいや俺はただのサボりだ」


「ああ……そうですか……」


 あまりにも堂々と告げてくるものだから、思わず気の抜けた返事をしてしまう。


 この人は大らかというかなんというかこの適当さがある種、接しやすさにも繋がっているのだろうけれど、もう少しは騎士団長としての威厳いげんを保つべきではないだろうか。


 今の台詞をパーシヴァルが聞いたらどんな顔をするのか容易に想像できる。


「しかし騎士団が見にくるとは大ごとですね。もしかして将来有望な冒険者をヘッドハンティングするためだったり?」


「ご名答! この行事には目的があってな。ひとつはみなでバカ騒ぎをして都市中を活気づけるためだが、もうひとつは人材確保だ。将来有望な冒険者がいれば騎士団に招き入れる。そのためのチャレンジカップだ」


「なるほど……しかしまた俺たちを誘うのはやめてくださいよ? もう二度も断っているんですから」


「ははっ、それはどうだかなあ。二度振られたくらいで日和ひよるようなカーラバルドさまではあるまい。三度四度ということもあり得るだろうな」


「そう、ですか……」


 俺の心中など露知つゆしらず、メルクトリはにんまりと破顔はがんする。


 最終的な決定権はカーラにあるため、ここで反発してもしょうがない。口を挟まずに溜め息をこぼすだけに抑えた。


「ねえねえアルト、グループAってどれのこと? わたしもみてみたいんだけど」


 いつの間にか見えなくなっていたお姫さまが戻ってきた。


 両手には屋台で買ってきた大量の食べ物を抱えている。


「その状態だとガイドは読めないな……あそこにある電光掲示板を見てみろ。

〝都市戦カーラバルド杯 チャレンジカップグループA〟に俺たちの名前があるだろ。俺は右上コトハは左上だな」


「わ、ほんとね! 同じグループだなんてすっごく楽しみ。決勝で当たったら絶対にこれまでの分やり返してあげるんだから!」


「ああ、その調子で駆け上がってこい。奮闘を期待してるよ」


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 こくりと頷きながらコトハが山のようなストリートフードを召し上がっていく。この様子ならたぶんもう緊張はしていなさそうだな。


「アルトくん、グループAということは他にもいくつかのグループがあるのだろうか」


 フィイがりんご飴を頬張りながら言った。よく見たらコトハがリズとフィイに買ってきたお菓子を配っている。何だ、ちゃんとおねえちゃんおねえちゃんしているじゃないか。


「ABCD計四つのグループがあって、最後はそれぞれのグループ優勝者で競い合う。対人戦は一切のごまかしがきかないからな、本当の実力勝負になる。どんな相手と戦えるか楽しみだ」


 ちらりと頭上のトーナメント表を一瞥する。


 俺の初戦は職業ハイランダーの冒険者が相手か。スキルの読み合いが厄介だろうけど、恐らくそれほど脅威じゃないな。


 問題はその後か……ローグとティファレトは決闘においてかなりの強職だ。コトハの方にも面倒な職業がちらほら見える。誰が勝ち上がってきても不思議じゃない。


『十分後に都市戦カーラバルド杯 チャレンジカップグループA第一試合が始まります。出場選手は決闘場のロビーにお集まりください。繰り返します――』


 都市内に祭りの開始を報せるアナウンスが響き渡る。


 間もなくして出番のようだ。慢心まんしんして一回戦敗退なんてことは絶対に避けなきゃな。相手が誰だろうと全力でのぞもう。


「分かってると思うけど……絶対に勝ちなさいよね!」


「アルトくん、ぜひとも頑張ってくれたまえ。活躍を期待しているのだ」


「おにいちゃん、ふぁいとだよ!」


 そして俺を送り出してくれる者が三人もいるとなると、それはもうへまをするわけにはいかない。……だいぶSPが余っていることだし少しだけスキルを習得しておくか。


「これは負けるわけにはいかんな、アルトくん」


 メルクトリが微笑を寄こす。


 まったくもってその通りだ。俺は決闘場へと足を運んだ。

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