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 封鎖区域およびパーシヴァルとの話をみんなに伝えた結果、ギルドハウス内は妙にあわただしくなってしまった。


 何者かが俺の命を狙っているらしい。


 そのような漠然ばくぜんとした要約をしたのがいけなかったのか、コトハたちはやや殺気立った様子で終始俺にべったりになってしまった。


 心配してくれているのはありがたいけど……どうにもやりづらい。ご飯や休憩中はもちろんのこと風呂にまで付いてくる始末。魚にひき潰された日のことも数えると通算して三度目の混浴である。


 下心ありきで言わせてもらえば当然それはもうありがとうございますとしか言いようがない(特にフィイさんにはコトハさんの十倍は色んな意味で感謝している)のだが……引きこもりにその待遇たいぐうはいささか酷だ。


 もう少し俺にひとりの時間をくれ。ちなみにリズにはバスタオルの巻き方を教えた。放っておくとマッパで風呂場を駆け出す有様なのである。


「……」


 そして就寝時間になっても彼女たちは当たり前のように俺の部屋へと押し入り――現在に至る。辺りを警戒しているコトハらはまだまだ寝る気がないらしい。


「で。その物騒なもんを持ってお前は何をしているんだ」


 サメさん柄のパジャマ姿で、フェンリル二刀を携えたコトハに言う。


「これでくせ者をやっつけるのよ! この部屋がいつキルゾーンになっても大丈夫なように構えておかなくちゃ」


「……さすがにそこまで限定的な指定はされないと思うぞ。キルゾーンって地域一帯に適用されるみたいだし。あとされた時はちゃんと通知が来るって」


「そんなの分からないじゃない……も、もしかしたら、突然部屋にゴーストが出てきたり」


 俺の部屋を勝手に事故物件にするな。彼女の頭の中ではキルゾーンをどういう風に解釈かいしゃくしているのか気になる。ホラー現象だと思っているんだろうか。


「お、おばけ……おばけはいやなのだ……」


 それに触発しょくはつされて、とたんに青ざめた顔色をするフィイ。シスターさまってむしろそういう霊的存在を導くものではないだろうか。


 ……おい待て、人さまの部屋の四隅に塩を盛るんじゃない! てかそれアジアでしかやらない風習だろ! さてはお前の金髪はエセか、こっそりと染めているのか!?


「だいじょうぶだよフィイ。こんなこともあるかなっておもって、おばけ探知機をつくっておいたの! ほらこれをもって」


 こんなこともあるってどんなことだよ。


 リズがフィイに渡したL字型で二本の棒……こ、これはまさか……ダウジングロッド。


 それはおばけ探知機ではなく水脈や鉱脈を発見するために使うもののような気が。あと実際に効果があるかどうか科学的根拠はないらしい。プラセボ効果だとか何とか。


「リズくん、これでおばけの所在が分かるのだな」


「うん! おばけがちかいとね棒がつよくふれるんだって!」


「そうなのだな……う、うむ、今後はこの棒と共に夜を過ごすとしよう。鎮まりたまえ、鎮まりたまえよ迷える魂たちよ……」


 フィイは両手にダウジングロッドを持ったまま、うろうろと辺りをさまよっている。


 かなりシュールな光景なんだが突っ込むべきか否か。でも迷信に惑わされるシスターさまって面白い気がする。ちょっとの間、眺めていよう。

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