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「君というやつは……本当に……」
封鎖区域から帰還した途端、
冷ややかな表情こそ相変わらずなものの、こめかみに血管が浮き出ている。
あのー、こわいです先生。
「メルクトリが柄にもなく
いぜんとして腹の虫がおさまらないのか、パーシヴァルの独り言は終わらない。
三十分くらい経っただろうか、フィイは長時間の説教で眠そうに首をカクンカクンさせている。俺たちもう帰っていいかな。
「――ともかくとして事情は分かった。君たちの無謀な行動には心底あきれ果てているが、魔人がいたというのは有益な情報だ。恐らく前回の襲撃もハヌマリルなる魔人がモンスターたちを率いていたのだろう。そいつを叩かねば、この危機は終わらぬということか」
パーシヴァルは深々と嘆息をついた。
「後は、目視で三百から五百程度のモンスターがいたことと、それらは封鎖区域広場にて待機していたことか。どちらも目新しい情報だ、それだけの勢力となると南部の騎士団を借りる必要があるだろう。そして……」
ひとりで推測立てる騎士団長さまは多忙のようだ。どうも彼は考え込むと周りが見えなくなる
「ってちょっと待てよ……なあパーシヴァルさん、元々モンスターの情報とかは報告を聞いていたんじゃないのか。どうしてそんなことも知らないんだよ」
「――いやだがそれにしては妙だな。仮にもアルトらが黒だとしたら以前の襲撃の都合がつかぬ。その時点での彼らは100Lv未満、都市に踏み入ることは適わない。であれば焚きつけた奴が最も」
「あのー、パーシヴァルさん?」
「怪しいというのは確固たる事実。意図的に伏せた調査結果を聞いても、疑いたくはないが敵兵は思わぬところまで内部を侵食しているようだな。これは一刻も早く手を打たねば」
「……」
声を掛けてもダメそうだったので立ち去ろうとした瞬間「待て」と肩を掴まれる。
何だよ聞こえてるじゃないか。逃げないからそんな鬼のような顔をしないでくれ。
「まだ俺に用があるのか?」
「当然だ、お前たちのやったことは王の命令違反、反逆罪で罰することもできる。が、しかし今回ばかりはその働きぶりに免じて許してやろう。その代わり今後は俺の監視下に置かせてもらう。さあアルト、私とフレンド登録をしてもらうぞ」
「えぇー……」
「不服そうだな。冒険者アルトは美少女にしか興味がない変態とは……やはり噂通りであったのか。男の私とはフレンドにならんと」
「だ、誰だそんな
「むう……」
踏ん切りつかないようにフィイが呟く。そしてなぜだかジーっと俺を見つめている。
何だその眼差しは、あながち間違っていないみたいな反応はやめろ。俺は至って健全だ。
「ほら、これでいいだろ。フレンド登録してあると現在地とかも見れるから監視には最適というわけか」
「その通り、これで次の襲撃に備えられる。こちらも色々事情が立て込んでいてな。モンスターどもの狙いが何かを探っているのだ」
「モンスターの狙いって? というかそんなもんあるのか、あいつらろくに知能もない集団だろ。単に人間を滅ぼしたかっただけとかじゃあ」
俺の意見にパーシヴァルは首を振って否定する。
「行動には必ず目的がある。モンスターどもが理性のない機械であることは承知しているが、魔人が率いていたとなれば話は別だ。
確かにこの都市を侵略したいという意図もあるだろう。事実、この都市が陥落すればここより南部の街はすべて崩壊する。バルドレイヤがひとつの防衛線であることは確かだろう。だが」
そこでパーシヴァルは顔を上げて、俺の視線を捉える。
「これまで騎士団の前に魔人は姿を見せなかった。黒幕があえて現れる必要もない、当然の行動だ。しかしどうしてそんなリスクを犯してまで、アルトを襲う判断に至ったのか。
つまり、ここ最近の出来事がすべてお前を排除するのが奴らの目的なのだとしたら。魔王にとっての最大の脅威が冒険者アルトの存在だと――そう考える事はできないだろうか」
「えっと……」
つらつらと言うパーシヴァルだが、俺にはいまいち理解の遠い話だ。
そもそも俺、以前の襲撃のこととか知らないし……それがどうして俺に繋がるんだろう。
魔王陣営が俺を知っていることも謎だ。俺はまだ魔王が誰かすらも分からないのに。
俺視点だとパーシヴァルという男もまた敵か味方か判別つかない状態だ。やけに詳しいようだしむしろ若干の怪しさがある。
「何にせよ、気を付けておくことだ。これからもお前を狙うやつが現れるかもしれん。何かあったらすぐに連絡を寄こせ、いいな」
念を押すようにパーシヴァルが
まだ聞いておきたいことはあったものの「私は忙しいんだよ」と皮肉を吐き捨てられた挙句、無理やり会話を断たれてしまった。
本当にいい性格をしているなあいつ。学校にいる嫌な教師みたいだ。
「しかし気を付けろってかなり適当な忠告だよなあ……」
そんな投げやりなことを言われていったいどうしろというのか。当面はキルゾーンに立ち入ることもないだろうし気を付けることもなさそうに思える。
まあいっか、考えるのも面倒だしなるようになるだろ。
不安そうに見つめているフィイの頭を撫でて、俺たちはギルドハウスに帰還した。
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