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 都市戦開幕まで、残すところあと一日。


 この日もコトハに対人の特訓をと思ったが、近隣に潜むと言われているモンスターの軍勢を始末しにいかねばならない。


 当日に都市へ攻め込まれでもしたら大ごとだ。お祭りどころではなくなる。


 昨夜の件をひと通りみんなに話した後、意見は満場一致で賛成。ただし都市戦が近いため、コトハとリズは対人戦の特訓を、俺とフィイで近隣調査に出向くこととなった。


「――アルトくん、アルトくん。調査といっても目ぼしい場所はあるのだろうか」


 ギルドハウスを出たところで、フィイに声を掛けられた。


「一応はそれなりに。バルドレイヤの先には大高原があるんだけど、実はもうひとつ別のルートがあるんだ。〝封鎖区域〟と呼ばれているエリアがあって、そこは高Lvのモンスターがうじゃうじゃいる。都市を襲おうとしているモンスターたちはそこに集中しているはずだ」


「封鎖区域……初めて耳にする名前だ。そこはどのくらいのLv帯なのだろう」


「えーっと、たしか封鎖区域自体は171から190で、その先の〝黒薔薇の教会〟は220Lvくらいだった気が。もしかしたら教会からもモンスターが流れてきているのかもしれない」


「に、220!?」


 フィイが声を荒げる。いつもは物静かな彼女もこれには驚いたようだ。


「アルトくん、それは大丈夫なのだろうか。ここ数日でかなりのLvがあがったにせよ、われらのLvはまだ175。45Lv差もあるモンスターを相手にすれば、いくらアルトくんでさえ……」


「ああ、どれだけ体力が高くても一、二発もらえば即ダウンだろう。それにほぼ全てのMOBがスキル持ち。一体一体が油断できない強敵だ」


「それなら――」


 口を挟もうとしたフィイが言葉を止める。


 俺の顔を見て、何を言わんとしているのか察したのだろう。


「大丈夫だ、これまでも格上狩りなんていくらでもやってきただろ? コロシアムの時なんて70Lv差もあったんだ。今回も必ずうまくできる」


「……まったく、アルトくんはほんとうに」


 仕方ない、とフィイが息をこぼす。


 彼女の同意も得られたところで、バルドレイヤの北門へと向かう。監視場から西に抜ければ物騒な地域まですぐだ、と……そう思っていたのだが。


「――封鎖区域に踏み入ることは許さん。早々に立ち去れ」


 騎士団長パーシヴァルが俺たちの事情を聴くや否や、即断で言い放った。北の監視場は彼の監視下にある。こっそりと突破することはできない。


「この先は危険地帯だ。いかなる理由があれ通すわけにはいかん。王からはそのように命令を受けている」


 銀髪の騎士団長、パーシヴァルが断固として重ねて否定する。


 りんとした顔つきは、もう一人の騎士団長メルクトリとは正反対だ。とても情が深い人物のようには見えない。これは説得にかなり苦労しそうだ。

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