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「何って荷物の整理でしょ? だから部屋に置いていけるものは置いていってるのよ」


 さも当然、と言いたげにコトハが捨て吐く。


 こいつは……いいや。たぶん言っても聞かないだろう。


「フィイは? 他に余ってる部屋なんていくらでもあるぞ」


「われはアルトくんと同じ部屋でなければいけないという制約があるのだ。女神さまのご加護を継続的に付与するためには、一定以内の距離に留まっておく必要がある」


 目をそらしながら言うフィイは、どうにも嘘くさい。


 常日頃から思っていたのだが、そもそも女神さまのご加護って何なのだろう。


「えー……それでリズは?」


「わたしはその……おにいちゃんと一緒にいたいから……」


「よし分かった。今日からよろしくなリズ」


 文句なしの理由に加えて「えへへ」と言いながらすりすりしてくるリズは、その実、天使なのではないかとさえ思えてくる。


 あるいは彼女がキリストでいうところの守護天使なのかもしれない。頼むリズ、どうか俺に癒しをくれ。


「ちょっと何よその態度、不公平じゃない!」


「そうなのだ、われの時は疑うような目で見てきたのに、不服なのだ!」


 ほぼ同時に噛みついてきたコトハとフィイ。


「だってお前らの理由、よく分からないじゃん」


『うぐぐ……』


 率直に申し上げたところ、彼女たちからの反論はそれ以上なかった。


「まあお前らがいいならそれでいいけど。――でも、さすがに寝る時くらいは自分の部屋で寝ろよ。備え付けのベッドは一人用なんだし、どう考えても四人は無理だ」


「そう? けっこう大きいし詰めたら入るわよ」


 俺たちはスーパーの野菜か。


「われはだな、その、さっきも言った通り女神さまのご加護があるのだゆえに――」


 だからそのご加護の内容を言ってみろ。


 やっていることは怪しいツボを売りつけるセールスマンと変わらないぞ。


「ええいまどろっこしい、いいから夜は各自、部屋で寝ろ。俺の部屋に置いてくのも最小限にしておけ、いいな?」


『……』


 え、なにその俺が悪いみたいな目?


 リズでさえも頬っぺたをリスみたいに膨らませてやがる。俺か、俺が悪いのか!?


「仕方ないわね。ほらみんな早くいきましょ」


 コトハが声を掛けてくれたおかげで、フィイとリズも俺の部屋を後にする。


 待ち望んでいた平穏をようやく手にした瞬間である。


「――ねえアルト、お湯でないんだけど!」


「アルトくんアルトくん、この魔法陣はどのような機能があるのだろうか」


「おにいちゃんこっちに来て、あっちにね、おもしろそうなのを見つけたの」


 と思った瞬間、俺を引っ張りだこにしてくる三人の少女たち。


 ……やっぱり俺が平穏を手にするのは、まだまだ先のようだ。

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