088


「あーーーーー」


 なんて言いながら、真っ昼間から広場のベンチで横たわっている俺。胴間声どうまごえを上げながら青空を眺めるくらいしかすることがない。


 つまるところの暇。俺はとてつもなく暇なのである。


 以前のADRICAじゃあ無限にコロシアムを周回できたのだが、いかんせんここは妙にリアル設定を適用されているらしく「周回されるとモンスターの数が足りなくなる」だとか「毎回上級コロシアムを制覇されると見世物として成り立たなくなる」だとか、大人の事情を突きつけてられて、挙句に、一日一回しか利用できないと言い渡されてしまった。


 いやいやあり得んだろ。パパっと強くなって爆速レベリングをする算段だったのだが、とんだ誤算である。……まあそれでも二日で145Lvまで上がった点を考えると、爆速っちゃあ爆速ではあるんだけど。


「フィイ、このアイテムなんてどう? 〝フェンリルボウ〟っていうんだけど、たぶん上級コロシアムのあいつからドロップするアイテムよね。性能も高いと思うの」


 コトハがオークション画面を見て言った。


「確かにそうだが、価格をみてくれたまえ。200mスタートとはいくら何でも高すぎる。残り時間もまだまだあることだし、これを競り落とすことは……」


「大丈夫よ、わたしの財産で何とかするから」


「それはアルトくんにダメだと言われていたではないだろうか」


「うっ……でもでも、これでアルトが強くなってくれるのなら問題ないわ。レベリングがはかどってきっと回収できるはず。――そうこれは投資、投資なのよ!」


 コトハが自信満々に控えめな胸を張って言う。


 あのお姫さま、絶対放っておいたら多額の負債を抱えるタイプだろ。コロシアムが回りやすくなったところで、一日一回しか入れないんだから効率化する意味がないぞ。


「われが思うに、狙い目は他にあると思うのだ。たとえば締め切り時間が近くて、まだ値の付いていない安価な装備とか」


「安価な装備……この〝ミスティックボウ〟とかかしら。今ならまだ100mぽっきりよ」


「コトハくんは金銭感覚がインフレしすぎなのだ……」


 しがない会話を交わしながら、二人はオークションを満喫まんきつしている。


 あの様子なら口出ししなくても問題ないな。コトハが暴走しかけたらフィイが止めるだろうし。案外いいコンビなのかもしれない、年上のコトハがたしなめられているのは、見ていて何とも言えない気持ちになるけど。


「俺は俺でやるべきことを済ませに行くか……」


 そっとオークション広場を離れて、都市の郊外へと向かう。


 ADROCAにはまだまだやり込み要素なるものが多くて、ステータスを強化しようと思えばあらゆる作業をこなさなくてはいけない。その一つを進めるために、あそこに行こう。


「――お。あったあった」


 歩き続けること三十分。目的地である〝バルド湖〟へと到着した。


 都市の中に大きな水辺があるというのはシュールな光景だし、どこから水が湧いて出てきているのかも知らないが、ゲームだからそうだとしか言いようがない。


 ともかくとしてここは都市の〝釣り堀〟として有名だ。年がら年中、水産物が豊富に取れる最高の釣場である。


 俺がここに来たのは他でもない。新鮮なお魚を食べるため……ではなく〝業績〟を埋めるためだ。魚を釣ることで業績の〝釣り名人〟などが開放される。


 効果は各種ステータスの上昇。魚を釣ることで強くなるとは何とも馬鹿げた話だが、これもまたMMOの醍醐味だいごみ。モンスターを倒すだけが全てではないのだ。


「日中でもだいぶ人が多いな。他の冒険者も業績が目当てなのか、だいぶ盛り上がっているようだけど……」


 湖は大変繁盛はんじょうしていて、どこもかしこも冒険者だらけだった。中には大物を釣り上げて歓喜している者もいる。こうしちゃいられない、元〝歴戦の釣り人〟として俺も早く参加しないと。


 俺は近くの釣り具店で竹竿たけざおを購入した。






100m……1億

200m……2億

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