076
「すごくたくさんの人がいるのね。屋台まであるし、なんだかお祭りって感じだわ」
コトハが闘技場に集う群衆を見て言った。
「あの場所がコロシアムって言って、バルドレイヤにある大きな
「あれ、ここはインスタンスダンジョンなんでしょ? だったらまた魔法陣に乗ればいいだけだと思うんだけど。谷底のとは少し違うのかしら」
「コロシアムもIDっちゃあIDなんだけど、ここはかなり特殊で〝作られたダンジョン〟的な立ち位置にある。管理も運営もバルドレイヤが行っているし、モンスターの調達もすべて人力だ。だから別の空間に飛ばされるIDとは、だいぶ仕様が異なるかな」
「IDというよりも本当に見世物ね。まあいいわ、どんなモンスターがきても絶対にクリアしてみせるんだから!」
やけに気合の入ったコトハだが、まだエンチャントの
「あとは……アレを買っておくか」
屋台でいくつかの料理を注文していく。
チョコバナナクレープ、ほかほかタコ焼き、激甘りんご飴。
それぞれ三つずつ受け取ってインベントリに移す。これだけで二十万ルクスか。やっぱり効果のある消費アイテムは高いな……。
「ほら、コトハとフィイにも。全員分あるからコロシアムに入ったら食べてくれ」
「結構多いのだが……戦いの前にこれだけ食べても平気だろうか」
小食なフィイがもりもりのおやつに嫌そうな目を向けている。
「これらはただの食べ物じゃない。効果のある消費アイテムなんだ。食べることでステータスや防御力が強化される。バルドレイヤ限定のアイテムさ」
「――つまり食べれば食べるほど強くなれるってこと!? それなら十も二十も食べちゃうわよ!」
大食らいなコトハが目を輝かせて言う。
毎日とんでもない量の食物を胃に収める彼女だが、その
「そうは言ってない、いくら食べても効果は重複しないぞ。あと消費期限も短いから
「わ、わかったわ……それじゃああと三つだけ……」
そそくさと追加で料理を注文していくコトハ。
さてはこいつ、もっと食べたいだけだな。
「――いらっしゃいませ冒険者さま! コロシアムの参加をご希望でしょうか?」
闘技場の中に入り、カウンターの受付嬢へと話しかける。
「俺たち三人パーティーで登録を頼む。難易度は〝上級〟だが、空きはまだあるだろうか」
「はい、午後帯ですとちょうど一枠空きがございますので、十五時半からの開始となりますがよろしいでしょうか?」
「問題ない。それで頼む」
「かしこまりました。手続きに入りますので少々お待ちくださいませ」
ぺこりと頭を下げて、受付嬢はどこかへと去っていく。
どうやら運よく空きがあったみたいだ。一時間ほど待つことになるけど問題ない。時間はあるしゆっくり待とう。
「おい聞いたか、Lv100の冒険者が〝上級コロシアム〟だってよ」
「んなもんできるわけねぇだろうが。適正Lv170だぞ」
「装備をロストした瞬間に個チャ送ってやろうぜ。いまどんな気持ちだ? ってな!」
周りにいる冒険者たちが俺たちを見てはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていた。
構う必要性すら感じないな、ああいう手合いは結果を叩き付けて黙らせるに限る。
「……おい、絶対にいくなよ」
低い声で唸っているコトハに呼びかける。
「分かってる、もうむやみに突っかかったりはしないわよ。……でも本当に多すぎて嫌になっちゃう。どうして
それは俺も何度も考えたことがある。
MMOじゃあ、息を吐くように煽ってくるやつの多いこと多いこと。
「しかもダウンしたら個チャで嫌がらせときたか……ここまでLvが上がってくると、汚いやり方を覚えているやつが多い。一番は気にしないことだ。構うと奴らはつけあがる」
「そうね……とりあえず今はコロシアムだけに集中するわ」
「ああ、その意気だ!」
受付嬢が戻ってくるのを待ち
そこには現在コロシアムで奮闘中の別パーティーの姿が、特大の電子パネルで生中継されていた。そして上階では「やれ」だの「潰せ」だの物騒な言葉が飛び交っている。
冒険者がどこまでクリアできるか、賭けの倍率もそこに表示されている。
初級コロシアムの第一ウェーブ突破、第二ウェーブ突破、第三ウェーブ突破、第四ウェーブ突破、第五ウェーブ突破、といった風に段階刻みでオッズが分けられている。冒険者を利用した賭け事とはいい商売だ。
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