075
「ど、どうだろう、それなりに
フィイは自信なさげに視線をさまよわせている。
とんでもない引きをしたんだから、もっと胸を張ってもいいのに。
「善処どころか大当たりだよ。エンチャで付いたのは物理攻撃力、しかも最大値だ。これでかなり火力の底上げができる。ありがとうなフィイ」
やや乱雑に思えるくらいフィイの頭を撫で回す。
くすぐったそうに目を細めている彼女は、得意げに鼻を鳴らしていた。
「ねえねえ、わたしにもそれやらせてよ。まだかなづち余ってるんでしょ?」
とここでコトハが口を挟む。
「いや……お前は絶対に運が悪いだろ。エンチャントしてもどうせゴミみたいなオプションしか引かないんじゃないのか」
「そんなことないわよ、きっとフィイよりもいいやつを当ててみせるわ」
「フィイは最大値を引き当てたんだぞ。これ以上とか土台が無理だ」
「いいからはやく貸してよ、わたしもエンチャントしてみたいの!」
お姫さまは何をムキになっているのか、
駄々をこねられる前に渡しておくか。
「ほらよ、銀のかなづちとロングソードだ」
「ふふん、ありがと。――さあみてなさいアルト、わたしも一発で出してやるんだから」
そう意気込みしなくても、失敗しても大丈夫なように二度と使わないロンソを貸したので安心して欲しい。コトハ、俺には分かっているんだ。お前とフィイでは生まれた星が違うということを。
「きなさい――エンチャント効果は、物理攻撃力+100よ!」
コトハがかなづちを振り下ろす。
カンッ……結果は防御力+1。
うーん、ゴミ。
「なんでよ! こんな、こんなはずじゃ!」
「ほらもう分かっただろ。お前とフィイじゃ持ってるモノが違うんだよ」
「持ってるモノって……なんのこと?」
やにわに
「とにかく、お前は今後エンチャントをするな。運がないのは見れば分かる。――フィイ、悪いんだけど他のもやってくれないか。杖と剣と、コトハの
「アルトくんの力になれるのなら、もちろんする。少々まってくれたまえ」
「む、むむ、むむむむ……」
俺は眺め、フィイはかなづちを振り、コトハが悔しそうに歯噛みする。
そんなことをしてもお前の運は
■アイテム詳細
ミスリルソード 物理攻撃力+30[エンチャント効果:追加物理攻撃力+100]
マジックロッド 魔法攻撃力+10[エンチャント効果:追加魔法攻撃力+90]
アスククイルの断ち切り
「……お前、バケモノか?」
驚くべき結末というか、あまりの引きの良さにチートの節を疑ってしまう。
武器にあった最適のオプション、かつ高数値を当てる確率なんて1%もないだろ。本当は俺よりもフィイの方がよほどチーターなのでは?
「われはなにかしてしまっただろうか? ふつうにエンチャントしただけなのだが……」
お決まりの返事すぎて、何と言っていいのか迷う。
その台詞はボケのつもりなのだろうか。
「しかしこれはかなり助かる。コロシアムの周回がだいぶ楽になるかもしれない」
「役に立てたようでなによりだ。……またいつでもわれを頼ってくれたまえ。われにできることなら……その、がんばるから」
「ああ。頼りにしてるよ」
用事も済んだところで、俺たちはオークション広場を後にする。コトハのねめつけるような視線には構わない。
装備を買うために足を運んだつもりが、フィイの豪運によって思わぬ収穫を得てしまった。しかしこれだけでサクサク周回できるほど〝上級コロシアム〟は甘くない。だけどそれなりに戦えるのではないだろうか。うまくいけば、数日で70Lv上げられるかと思えば楽しみだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます