046


「――それじゃあこうしよう。もしお前らが無事にIDをクリアできたのなら、ああ、いくらでも頭を下げようじゃないか。その実力を認めてやるよ。

 ただし、不正ができないよう、監視を置いておく。俺たちの知らない間に強力な助っ人を呼ばれでもしたらたまらないからな」


 そううそぶきながら、ホルクスはにんまりと破顔はがんした。


 どうやら奴らのパーティーのうち、一人をID前に残しておくようだ。IDへの入場は後入りもできるからな。何もパーティー一斉に入らなければいけないということはない。


 実は俺が強い冒険者を用意していて、こっそり入らせた後、クリアと主張しないか心配なんだろう。そんな念入りに対策しなくても、不正しないっていうのに。


「あら、いいのかしら? あなたたちは〝四人〟で行くのが定石じょうせきなんでしょ? 監視を置くと〝三人〟になっちゃうわよ? ちゃんと周回できるのか不安なんじゃないの。大人しく全員で監視しておいたほうがいいと思うわ」


「何を、こいつ……っ!」


 コトハが煽るもんだから、マジシャンの男が血相を変えて身を乗り出した。


 こりゃあお互い相当頭に血が上ってるな……。


「よせシャミイ、戯言を真に受けるな」


「しかしよホルクス、あの小娘かなり生意気じゃないか。ここは一度ぎゃふんと――」


「ちょっと誰が生意気ですって!?  いい、わたしはいずれ最強の冒険者になる期待の」


 わーわーと、しょうもない言い合いが始まった中、俺のすそを誰かが引っ張る。


 フィイがいまいち解せないような顔で俺を見ていた。


「アルトくん、IDというのは複数PTで入っても問題ないのか。話を聞いている限り、アルトくんのPTと彼らのPT、同時に入るように聞こえるのだが、それだと中で混雑してしまうと思うのだ」


 なるほどそういう話か。フィイはIDが初めてだし、システムの仕様を知らないのだろう。


「インスタンスダンジョンはPTごとに独立した空間が生成される。だから俺たちとあいつらが同時に入っても、同じダンジョンに飛ばされることはない。そしてダンジョンを出たらその空間は消滅する。そんなわけでIDはかなりおいしいコンテンツなんだ。モンスターもアイテムもそのつど生成されるからな」


 説明も終わったところで、口論の渦中かちゅうであるコトハの首根っこを掴む。


「いい加減にしろ。もう日が暮れ始めているんだし、サクっと終わらせるぞ」


「……うん。分かった」


 コトハはキッとホルクスたちを睨みつけたのを最後に、無駄口をつつしんだ。


 俺の言うことを素直に聞いてくれるようになったのは有難い。


「サクっと、か。なかなか面白い出まかせばかりを口にする。俺たちでさえ数時間掛かりだというのに。理解のある者なら、夜通しになることくらい知っているはずだがな」


「あー、はいはい。じゃあ俺たち先に行くから」


「なっ、おい、待て! 話はまだ終わって――っ!」


 弓男の声を無視して、コトハとフィイの手を取る。


 魔法陣に乗った直後、体は次第に透過していき赤い光に包まれた。


「アルト、ごめんねまた怒っちゃって」


「われも口を挟んでしまったのだ、すまない……」


 転送される直前、二人がそんなことを言い出した。バツが悪そうに視線を伏せている。


「喧嘩を売ってきたのはあっちからだし、俺のために怒ってくれたんだろ。全然気にしてないさ、むしろありがとうな」


 藍色あいいろと金色の頭をで回してから、眼前に表示された電子パネルに触れる。


〝インスタンスダンジョン、ヴァーリルの谷底に入場しますか ――適正Lv100――〟


《YES/NO》


 当然YESだ。俺たちはダンジョンの中へと転送された。

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