041


 ひと悶着あった翌日。


「や、やあああぁぁぁぁ!!」


 コトハは昨日の落ち込み具合などまったく見せない様子で奮闘ふんとうしていた。


 朝からモンスターの群れと戦わせているけど、十分たった今でもまだ戦闘不能にはなっていない。


 ステータスに筋力を全振りしているというだけあって、火力は十分。おまけにナハス平原にいるMOBモブは俺たちよりも格下の41-50Lv。コトハは通常攻撃だけでほぼすべてのモンスターをワンパンしていた。


「目覚ましい成長だな」


 呟く俺に、フィイはこくりと頭を縦に振って答える。


「われもそう思うのだ。昨日、泣き喚いていたコトハくんと同一人物だとは思えない。今日中には次の地域に進めそうだ」


「ああ、そうかもしれない」


 なんて淡い希望を抱いた次の瞬間だった。


「あ」


 ピコッと鳴った嫌な音の方を見てみると、そこには地面に突っ伏している藍色髪あいいろがみの姿が。


 この日、コトハ初ダウンの瞬間だった。


「あいつ、うまくいってたからって油断したな。起き上がるまで放置でもいいけど……だいぶ頑張ったし、助けてやろう」


 モンスターの群れから、ぐるぐる目になっているコトハを引きずり出してから三十分。


 ようやく目を覚ました彼女は、HP1の状態で復活した。


「わたし、また倒れちゃったのね、う、うぅ……」


 と早速、涙目になって呟くコトハ。また喚き出さないか心配だ。


「だけど昨日よりだいぶ良くなってるぞ。攻撃をかわせるようにもなってきたし」


「ううん、まだ全然ダメだわ。アルトに比べたら――」


 そこでコトハは口を止めて、じっと俺を見つめる。


「どうした?」


「そう言えばと思って。アルトは避けるのも攻撃するのもかなり上手いけど、いったいどうやったらそうなれるの? わたしなんてどっちか片方で精一杯なのに」


 コトハの抱える悩みは、おおよそ全ての新人冒険者が考えるものだろう。


 モンスターにどう対処していいか分からず、わちゃわちゃと攻撃するが、いつの間にか攻撃を受けて死んでしまっていたとか。死にたくないあまりいつまでたっても攻撃できないとか。その苦難は皆誰しも通る道だ。


「いいかコトハ、モンスターの行動には〝パターン〟がある。次に打ってくる攻撃や、そのタイミング、終わった後の硬直時間など、奴らの動きには規則性があるんだ。初めて目にするモンスターが相手なら、まずは観察してパターンを読む。そして攻撃できそうな隙を見つけたら、後は冷静に殴るだけ。これをマスターできれば、ノーダメで倒せるようになるだろう」


「分かったけど、ちょっと待って……いま、メモを取るから」


 俺の言ったことをコトハはメモ用紙につらつらと書き連ねていく。


 勉強熱心なのはいいことだ、これならもう少しアドバイスしてあげてもいい気もするが、ちょっと甘やかしすぎだろうか。


「アルトが言うとけっこう簡単なように聞こえるけど、パターンを見切って攻撃するなんてかなり大変なんじゃないの」


「そりゃあそうさ。強くなるためには努力は欠かせない。誰でも最強の冒険者になれるほど、この世界は甘くないからな」


「そうね。うん、分かった」


 コトハは吹っ切れたように、深く息を吐いて立ち上がる。どうやらやる気になってくれたらしい。ならやっぱり助言しておくか。


「コトハ、重要なのは〝欲張らないこと〟だ! 隙をついた時でも、攻撃回数は最小限に留めておけ〝もう一発〟が死ぬ原因になる!」


 後ろ姿のまま手を振って、彼女はモンスターの元へと向かっていく。


 アドバイスの甲斐かいはあったようで、それきりしばらくコトハはダウンすることもなく、鮮やかな手さばきでモンスターを倒していた。


 そうしてその勢いのまま突き進んだ結果、ナハス平原を踏破とうは、ついでにLvも1上がって、俺たちは続くエリア〝セクタ峡谷きょうこく〟へと辿り着いた。

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